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幻獣師
- 10話 -

–––––この国を収めるのは、神と竜、そして天使である。
それは、この国に伝わる、古くからの伝承である。



かつて、『天』に祝福された、3人の少年少女が生まれたと云う。

彼らが生まれたとき、天候は荒れ狂い、波は港町を襲い、国は崩壊の道を辿るかと思われるほどの、大惨事となった。
人々は疫病に悩まされ、また、飢饉に悩まされたという。


人々はまさに、この子らを「悪魔の子」と呼んだ。
だがしかし、半世紀もすれば、彼らは、豊かな大地と共に「國神(くにかみ)」として、祀られるようになっていた。

なぜなら、そう、国を救ったのが、他でもない彼らであったからである。



1人は、神に愛された少女だった。
彼女は平和を歌い、国の、永遠なる繁栄を祈り、瞬く間に疫病を除けてしまったという。

1人は、竜に愛された少年だった。
彼は民を望み、国の栄光を望み、常に国に勝利を授けた。

そして、もう1人は、天使に愛された少年だった。
彼は『天』の寵愛を受け、天使の力を振るい、土地の豊かなる再生を実現した。


彼らは永遠の命を手に入れ、今もこの国に貢献していると云う。
わたしたちが、今日生きていけるのは、國神さまのお陰である。皆の者、彼らを敬い、助け、そして崇め、彼らを彼らが罰するその時まで、彼らに総てを捧げるのだ。
そして彼らが消えたとき、わたしたちは国と共に、この世を去るのだ。




–––––––パタンと音を立てて、本を閉じた。
顔を上げると、揺らめく蝋燭の火と目が合った。
そのまま、表紙に彫られた題名をなぞる。すると、何とも不思議な気分に陥った。
この本は、ラヘイド全国民が崇め奉る、“國神さま”について綴られていた。



此処は、幻獣師 リンの家である。

幻獣師といえば、僕はてっきり、ムキムキで、重量感のあるおっさんを思い浮かべていたけれど、会ってみれば、何てことのない、小さく可愛らしい少女だった。
だが、驚くことに、彼女はグリード曰く「これでも僕より年上」だそうだ。


幻獣師という特殊な人種のためか、彼女の作る料理は、まるで雲のような味がしたし、彼女の部屋は、一面に本が敷かれていた。
部屋だけではない。彼女の家には、たくさんの書物が置いてあった。それも、本当に“たくさん”。
周りの環境と相まって、彼女の本棚は、まるで、図書館に迷い込んだような錯覚を覚えるほど、莫大な蔵書量だった。


差し出された小机には、すでにたくさんの本が積み重なっていた。




…此処へ依頼をしに来ただけなのに、もう随分と経ってしまったようだ。


蝋燭が灯ったのは、どれだけ前のことだっただろう。窓から覗く森は、暗い藍色に包まれて、まるで僕らが世界の隅っこに置いてかれているようだ。
実を言うと、置いていかれているのは、この国全体なのだが。




揺らめくひかりに目を奪われながら、ぽそりと呟いた。






「僕の願いはただひとつ。この国を、王宮に囚われた神の子を」





視界の端で、グリードの着ていた不思議な服が揺れたのを見た。




「どうか」




段々と声が震える。耐えきれなくなって、顔を下げた。
動機は早くなり、体もカタカタと震える。









「ころして、ください」









耐えきれないと叫ぶように、ひとしずく。

ぽたっ。


…いつの間にか、僕は本を開いていた。

大切な、大切な頁に、透明な血が垂れた。






彼女は、神に愛されていた、実に美しい少女だった。

<2016/08/12 15:42 わかめ>消しゴム
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