明るい色彩の木に囲まれて、アンティーク調の家具たちが、静かに笑ってみえた。
此処は、リンの住処である。元々は彼女の祖父のものらしいが、いつの間にか失踪してしまったようで、後は彼女が勝手に使っているそうだ。
何故彼女の家にいるのか…それは、数十分前の出来事のせいである。どれだけ街を引っ掻き回した僕でも、天候には敵わないらしい。
–––そう、勿体振ることもなく教えてやろう。実はあれから雨が降ってきたのだ。
局所的な豪雨により、僕の体調が悪化した。僕は意識が覚醒する前、川に溺れていたらしい。そこから更に体温を奪われ、風邪を引いてしまったのだ。
気を利かせたリンが、看病という名目で家に招いてくれたのである。
おい誰だ、大した理由じゃないとか思った奴は。
「もう大丈夫そうね」
「ああ、どうもありがとう」
体調も良くなって、雲のような味のスープとパンも貰って、体を暖めた。この感想を言ったら、リンは「わぁ、雲を食べたことがあるの?すごいねぇ」とからかってきそうなので、黙っておこう。
感謝が無いわけではないが、飛び降りたときの宝がどこにも見当たらないのが気がかりである。これを持って帰らなくては、ボスに面子が立たない。もうそろそろお暇しようとする。
そう思い、体を起こしたときだ。
「ゔぐ…ッ⁈」
鋭く重い感覚に、再びベッドに倒れ込んだ。
それを見たのか不思議そうにリンが駆け寄ってくる。
(ああ、何だこれは…痛い…⁈)
思えば自分の意思で体を動かしたりしていなかった。そのせいで、自分の体の変化にさえ気づけなくなるほど、注意力が散漫していたんだ。不思議とリンが運んだり、触ったりした時に痛みがなかったのは、当たりどころが良かったのだろう。
「どうしたのエヴァン……わー、ケガしてるー…?
ごめんね、きづかなくて」
「お前…‼︎看病するならちゃんとしろ…ッつ‼︎」
「いやあ、怪我なんてあんまりしないからかなぁ」
「はぁ…?こんな山中でか?」
「うん。
……あれ、これってどうやって巻くの?」
「ああもう、やめろ!どうせ痛みなんてすぐ引くんだ、触るな!」
「えー…」
「…お前楽しんでるな…⁈」
微かに上がっている口角に、余計に腹が立つ。
リンと出会って気がついたことその1。
彼女は見た目の期待に応える不思議さを兼ね備えている。
リンと出会って気がついたことその2。
彼女は、本当に腹が立つ。
彼女が面白そうに、打撲して腫れ上がった僕の脚に手を伸ばす。
それをはたき落として、僕は少し休むことにした。
…今は、何時なのだろう。
意識だけの存在となって、どこか暗い場所を彷徨っていた僕は、ふと、そんなことを思った。
空のように壮大で、海のように暖かかったそこは、僕を静かに眠りへと誘う。
考えれば考えるほど頭が痛い。なのに、何でこの家は、こんなに落ち着くんだろうか。
様々な思考をかい潜って、意識は下へ下へと降りていく。僕が辿り着いた最後の砦。
–––––あの雨は、不自然だった。
意識は沈殿していく。砦は呆気なく崩れたようだ。
嗚呼、僕はかなり疲れていたんだな。
此処は、リンの住処である。元々は彼女の祖父のものらしいが、いつの間にか失踪してしまったようで、後は彼女が勝手に使っているそうだ。
何故彼女の家にいるのか…それは、数十分前の出来事のせいである。どれだけ街を引っ掻き回した僕でも、天候には敵わないらしい。
–––そう、勿体振ることもなく教えてやろう。実はあれから雨が降ってきたのだ。
局所的な豪雨により、僕の体調が悪化した。僕は意識が覚醒する前、川に溺れていたらしい。そこから更に体温を奪われ、風邪を引いてしまったのだ。
気を利かせたリンが、看病という名目で家に招いてくれたのである。
おい誰だ、大した理由じゃないとか思った奴は。
「もう大丈夫そうね」
「ああ、どうもありがとう」
体調も良くなって、雲のような味のスープとパンも貰って、体を暖めた。この感想を言ったら、リンは「わぁ、雲を食べたことがあるの?すごいねぇ」とからかってきそうなので、黙っておこう。
感謝が無いわけではないが、飛び降りたときの宝がどこにも見当たらないのが気がかりである。これを持って帰らなくては、ボスに面子が立たない。もうそろそろお暇しようとする。
そう思い、体を起こしたときだ。
「ゔぐ…ッ⁈」
鋭く重い感覚に、再びベッドに倒れ込んだ。
それを見たのか不思議そうにリンが駆け寄ってくる。
(ああ、何だこれは…痛い…⁈)
思えば自分の意思で体を動かしたりしていなかった。そのせいで、自分の体の変化にさえ気づけなくなるほど、注意力が散漫していたんだ。不思議とリンが運んだり、触ったりした時に痛みがなかったのは、当たりどころが良かったのだろう。
「どうしたのエヴァン……わー、ケガしてるー…?
ごめんね、きづかなくて」
「お前…‼︎看病するならちゃんとしろ…ッつ‼︎」
「いやあ、怪我なんてあんまりしないからかなぁ」
「はぁ…?こんな山中でか?」
「うん。
……あれ、これってどうやって巻くの?」
「ああもう、やめろ!どうせ痛みなんてすぐ引くんだ、触るな!」
「えー…」
「…お前楽しんでるな…⁈」
微かに上がっている口角に、余計に腹が立つ。
リンと出会って気がついたことその1。
彼女は見た目の期待に応える不思議さを兼ね備えている。
リンと出会って気がついたことその2。
彼女は、本当に腹が立つ。
彼女が面白そうに、打撲して腫れ上がった僕の脚に手を伸ばす。
それをはたき落として、僕は少し休むことにした。
…今は、何時なのだろう。
意識だけの存在となって、どこか暗い場所を彷徨っていた僕は、ふと、そんなことを思った。
空のように壮大で、海のように暖かかったそこは、僕を静かに眠りへと誘う。
考えれば考えるほど頭が痛い。なのに、何でこの家は、こんなに落ち着くんだろうか。
様々な思考をかい潜って、意識は下へ下へと降りていく。僕が辿り着いた最後の砦。
–––––あの雨は、不自然だった。
意識は沈殿していく。砦は呆気なく崩れたようだ。
嗚呼、僕はかなり疲れていたんだな。
