伊織は頬を膨らまして、彼らの行動を眺めていた。
彼ら“魔術師”の仕事は、伊織たち魔物を消すことだ。あの悪魔もどきも祓うんだろう。
…でも、彼らだけでは、些か心配である。
「ねえ、2人とも」
「…何だようっさいなあ」
顔を顰めつつ振り向いた蒼に、ハッと短く笑って、
「ソレ、 魔水晶、無い」
「…はっ?」
そう告げた。案の定、間抜けな声が返ってくる。
––––––“魔水晶”の有無も分からないだなんて…。
伊織は溜息を吐いた。といっても、彼女も先ほど悪魔なるものを目前にして気づいたのだが。
魔水晶とは、魔族の体を構築するための魔力を貯める、いわば「魔力の源」である。
その「魔力の源」を破壊しない限りは、どれだけ死にかけようと、魔族は何度でも甦るため、そうならないように、祓う際は魔水晶を破壊しなくてはならないのだが。
そんな大事なものの有無さえ分からないようでは、先が思いやられる。
まったく、これだから人間は。
「…伊織、どういうこと?」
「言った通りよ、ソレに魔力は造れない。甦れないの。死んでいるのよ」
順道通りにきっちり教えてやったというのに、蒼はまだ首を傾げている。
ああ!まったく、これだから人間は!
「恐らく、それは傀儡(かいらい)よ。少なくとも、悪魔じゃない」
『…でも、こいつはお前の言うことを聞いたんじゃ…』
「ッああっもう!貴方たちって本当ダメね!
もう良いわ、学長の所に通しなさい!」
「ッッ?!おいっ!!」
ピンッ。
呆れに呆れて、伊織は真っ赤なピアスを勢いよく弾いた。
彼方へと飛んでいくピアスに、蒼は目を丸くして、制止の言葉を投げかけて飛鳥を構えたが、時既に遅し。
伊織たちや地に伏していた悪魔もどきの足元が、まるく明るく光り、一等光量が増したかと思ったら、既に、彼らの姿はそこになかった。
––––––蒼が眩しさから細めていた目を開けて、最初に目にしたのは、見慣れた景色のなかで、一際異色を放つ、彼女の姿だった。
伊織、と反射的に声を出そうとして、彼女の目の前にいた人物に気づき、喉をひくつかせる。
「御機嫌よう、学長殿」
長く白い髭、真黒な服の中に隠された丸まった体を、支えるように設置された、古代的な杖。
それらを携えて、この“学院都市”の最高権力者、アーノルド・サン学長は、伊織をジロリと見て、にっこり笑った。
