「…ああ…黒翼族の魔女姫殿。こんな夜更けにどうなされた?」
黒翼族、魔女姫。
その単語を耳に入れた途端、伊織の表情は鋭くなる。
それに気づかない学長ではないのだが、全く悪びれもしていない。
彼らの会話には、1つ1つに棘が含まれていて、聞いているこちらの鼓膜が血を噴き出しそうだ。
諦めたように一度息を吐くと、伊織はにこりと笑顔を貼り付けた。
「異色な魔物がおりまして。是非とも貴方に拝見して頂きたく」
「…おやおや…貴女に手を煩わせてしまうとは…。
確か、貴女の所には大変優秀な魔術師を配属していた筈なのですが?」
その声音とは合わないほど、学長の目は鋭い。
それもそうだ、彼は魔女率いる魔族を異様に拒む。それは、保身の為ではなく、ただただ拒絶の意思表明だというように。
蒼は空気の悪さに顔を顰め、口を挟もうとしたが、それを止めようとするかのように、伊織が言葉を紡いだ。
「ええ、優秀ですとも。ただ、彼らは理解力に欠ける。そこで、黒翼族の姫たる私が、直々に、こちらに」
柔く微笑む伊織に、また、学長の目が鋭くなった。
これ以上は伊織の立場が危うくなると、伊織の腕を引いて自分の後ろに回す。
あら、なんて素っ頓狂な声を上げる彼女を無視して、学長に事情を説明する。
どうも、この悪魔なるものには、魔水晶が無く、魔族としては『死んだ状態』であるということ。
そして、これが『傀儡』とやらであること。
話していくうちに、学長の表情は和らいでいった。
本当に、人間に、それも魔術師に対しては優しいな、と蒼はほっとしつつ、武器の形状のままだった飛鳥を解放する。
鎌は白く光り、徐々に人の形を宿していく。
光りが完全に消えた時には、どこからともなく緩い印象の少年が現れた。
蒼より少しばかり高い背筋をを目一杯伸ばし、ゴキリと音を立てて、「武器のまんまだと肩凝るな」と蒼に言った。悪かったな、忘れてて。
そんな彼らを見届けて、学長は悪魔もどきを吟味する。そして目を伏せ、微笑んだ。
「ふむ…確かに、これは…悪魔の姿をしているが、皮だけだ」
「…皮?」
「魔水晶を囲っておくための依り代、とでも言っておこうか。確かに、これには“魔水晶”は無い。つまり、空の状態なのだよ」
「魔水晶が無いということは、それは既に死んでいるのよ。ネクロマンサーというなら話は早いけど、アレの力は馬鹿みたいに分かりやすいから、その線は薄いわ。」
ネクロマンサー、死人奏者と書くそれ。魔女の中でも、かなり面倒な魔法を使う、厄介な奴らだったと、蒼は思い出す。
アイツらは生きた奴は使えないけど、死体があればいくらでも融通が利く。でも、その時に使う魔法は特殊で、僕ら人間でもすぐに分かるほどだ。
なるほど、確かに奴らじゃないな。蒼はそう結論付け、同時に頭を捻る。
でも、他に操るものと言ったら……
「恐らく、傀儡師の仕業でしょうね」
伊織は髪を払って、ぶっきら棒に言った。
…かいらいし、だと?
蒼は目を見開いて、同時にこう思った。ありえない、と。
「…いや、それはないだろう」
最初に反論したのは飛鳥だった。蒼も同意だ。
彼は心底呆れた表情をして、続ける。
「傀儡師は、何年も前に滅びている。それは今までのデータを見れば明らかだ」
「でも、こんな技を使えるのは傀儡師しかいないわ。
魔族の奴らは皆、面倒くさい真似するのが嫌いなの。操ったりなんだりってのは、力の弱いネクロマンサーか傀儡師だけがする技よ」
「だがな…」
「それに、傀儡師は種族じゃない。滅びるなんて無理よ。“魔女”は才能によって何にでもなれるし。
だいたい、魔族は5種類しかないわ、だから“私たち”を捕らえるのでしょう」
ちょうど貴方達、魔術師みたいなものね、と伊織は毛先を弄り、欠伸をした。
「言いたかったのはそれだけよ。やっぱりここの魔術師は無能だわ…。
学長殿、先の話、考えておいてね」
怪訝な顔をする学長に、ウィンクを1つかまして、2人に帰るわよと声をかけた。
黒翼族、魔女姫。
その単語を耳に入れた途端、伊織の表情は鋭くなる。
それに気づかない学長ではないのだが、全く悪びれもしていない。
彼らの会話には、1つ1つに棘が含まれていて、聞いているこちらの鼓膜が血を噴き出しそうだ。
諦めたように一度息を吐くと、伊織はにこりと笑顔を貼り付けた。
「異色な魔物がおりまして。是非とも貴方に拝見して頂きたく」
「…おやおや…貴女に手を煩わせてしまうとは…。
確か、貴女の所には大変優秀な魔術師を配属していた筈なのですが?」
その声音とは合わないほど、学長の目は鋭い。
それもそうだ、彼は魔女率いる魔族を異様に拒む。それは、保身の為ではなく、ただただ拒絶の意思表明だというように。
蒼は空気の悪さに顔を顰め、口を挟もうとしたが、それを止めようとするかのように、伊織が言葉を紡いだ。
「ええ、優秀ですとも。ただ、彼らは理解力に欠ける。そこで、黒翼族の姫たる私が、直々に、こちらに」
柔く微笑む伊織に、また、学長の目が鋭くなった。
これ以上は伊織の立場が危うくなると、伊織の腕を引いて自分の後ろに回す。
あら、なんて素っ頓狂な声を上げる彼女を無視して、学長に事情を説明する。
どうも、この悪魔なるものには、魔水晶が無く、魔族としては『死んだ状態』であるということ。
そして、これが『傀儡』とやらであること。
話していくうちに、学長の表情は和らいでいった。
本当に、人間に、それも魔術師に対しては優しいな、と蒼はほっとしつつ、武器の形状のままだった飛鳥を解放する。
鎌は白く光り、徐々に人の形を宿していく。
光りが完全に消えた時には、どこからともなく緩い印象の少年が現れた。
蒼より少しばかり高い背筋をを目一杯伸ばし、ゴキリと音を立てて、「武器のまんまだと肩凝るな」と蒼に言った。悪かったな、忘れてて。
そんな彼らを見届けて、学長は悪魔もどきを吟味する。そして目を伏せ、微笑んだ。
「ふむ…確かに、これは…悪魔の姿をしているが、皮だけだ」
「…皮?」
「魔水晶を囲っておくための依り代、とでも言っておこうか。確かに、これには“魔水晶”は無い。つまり、空の状態なのだよ」
「魔水晶が無いということは、それは既に死んでいるのよ。ネクロマンサーというなら話は早いけど、アレの力は馬鹿みたいに分かりやすいから、その線は薄いわ。」
ネクロマンサー、死人奏者と書くそれ。魔女の中でも、かなり面倒な魔法を使う、厄介な奴らだったと、蒼は思い出す。
アイツらは生きた奴は使えないけど、死体があればいくらでも融通が利く。でも、その時に使う魔法は特殊で、僕ら人間でもすぐに分かるほどだ。
なるほど、確かに奴らじゃないな。蒼はそう結論付け、同時に頭を捻る。
でも、他に操るものと言ったら……
「恐らく、傀儡師の仕業でしょうね」
伊織は髪を払って、ぶっきら棒に言った。
…かいらいし、だと?
蒼は目を見開いて、同時にこう思った。ありえない、と。
「…いや、それはないだろう」
最初に反論したのは飛鳥だった。蒼も同意だ。
彼は心底呆れた表情をして、続ける。
「傀儡師は、何年も前に滅びている。それは今までのデータを見れば明らかだ」
「でも、こんな技を使えるのは傀儡師しかいないわ。
魔族の奴らは皆、面倒くさい真似するのが嫌いなの。操ったりなんだりってのは、力の弱いネクロマンサーか傀儡師だけがする技よ」
「だがな…」
「それに、傀儡師は種族じゃない。滅びるなんて無理よ。“魔女”は才能によって何にでもなれるし。
だいたい、魔族は5種類しかないわ、だから“私たち”を捕らえるのでしょう」
ちょうど貴方達、魔術師みたいなものね、と伊織は毛先を弄り、欠伸をした。
「言いたかったのはそれだけよ。やっぱりここの魔術師は無能だわ…。
学長殿、先の話、考えておいてね」
怪訝な顔をする学長に、ウィンクを1つかまして、2人に帰るわよと声をかけた。
