「あ、そういやおめぇの名前聞いてなかったな、ガキ」
千石は灰皿に煙草をぐりぐり押し付けながら、何かを思い出したようにそう言った。俺は確かにそうだったな、と思い、渋々名を名乗った。
「・・・あー・・・俺の名前は白柳尚人だ。高二で齢は十七」
「あ?し、シロナギ?」
「シロヤナギ・ナオトだよ」
「チッ、小難しい名前だなァオイ。ナオトでいいか?」
「ああ。千石サン」
俺は『千石倫之助』って名前も小難しいだろ、と思いながら皮肉っぽく千石の名前を呼んだ。千石は嬉しそうにニカっと笑うと、新しい煙草を咥えて火をつけた。
「ナオト、体はもう大丈夫か?」
「あ?まあ治ったっちゃ治ったけど・・・・・・」
千石らしくない質問に一瞬驚きつつも返答する。千石はニヤニヤと笑うと、唐突に立ち上がった。
「うおっ!?なんだよ!」
「グハハハハッ!今思いついたんだがァ、ナオト!てめぇグラヴィオンに入らないか?こっちの世界のこと知っちまったんだし、てめぇもオレらみてぇにバケモンになっちまったしな!」
千石は目を輝かせて大声で言った。
俺は唐突に言った千石のその言葉に、一瞬躊躇う。
「ぐ、グラヴィオンに?」
俺は悩んだ。確かに俺は千石達と同じく化物になってしまったし、この世界が十年後に滅ぶことも知っている。そして何より、妹が死ぬきっかけとなった未知のウイルスの発信元を絶たなければならない。
だが────
「・・・・・忘れんなよ・・・。どんな理由があろうが、妹を殺したのはあんたらだ。世界を救ってるっつっても、やってることはただの殺人。そんな奴らと手は組めねぇ」
俺は真っ直ぐな千石の視線から目を逸らしながら言った。
酷いことを言っているのはわかっている。だが、やっぱりこの殺人鬼どもと手を組むのは、やっぱり無理だ。
すると千石は、難しい顔をした。
「・・・ナオト。てめぇ、オレ達が何も思わずに人を殺してる、冷徹な殺人鬼だと思ってんのか・・・?」
「えっ?」
「ナオト、お前の言う通りだ。オレ達のやってることは、所詮人殺し。オレ達はそんなこと重々承知してる。────だが、ワンダーを殲滅しなかったらどうなる?更に被害者が増え、死人が増えるだけ。・・・・・オレ達は【人殺し】に慣れちゃいねえよ。いや、慣れる日なんか来るわけがねぇ。残酷な人の死に様なんか、誰も見たくねぇしな。オレ達は【ワルモノ】になってやってんだ。世界の救世主なんて騙らねえ。オレ達がやってることは【人殺し】、そのことを理解しながらオレ達は人を殺してるんだ」
千石の言葉は、半端な俺の心に強く響いた。
「・・・・・・」
暫しの沈黙と静寂。そしてそれを、俺は潔く切り裂いた。
「・・・解った。俺はお前の、お前達の仲間になる。妹の敵を討ってやる」
俺がこう言うと、千石は両腕の拳を高々と上げて言った。
「よっしゃァァァァァ!!ナイス判断だぜナオト!」
そして息を切ってからもう一度言った。
「そんじゃあ、グラヴィオンの仲間を紹介してやるから、さっさと起きろ!ついてこい」
俺の手を脱臼しそうなくらいの力で引っ張る。
「いててっ!力強ぇよ!」
俺は文句を言いながらも立ち上がり、満面の笑みの千石について行った。
────────────────────────────────────
俺が寝ていたベッドだけの部屋を出れば、そこは大きな長方形の黒いテーブルと同色の椅子がズラリと並ぶ大きな部屋だった。血のように真っ赤なカーペットに、シミ一つない真っ白な壁。ドラゴンの絵が描かれた赤色の垂れ幕が天井から降りてきて、殺風景かつ綺麗な部屋だった。
すると、背もたれがとても長い黒色の椅子に、浅く腰掛ける者が口を開いた。
「あれ?その人起きたの?回復早いね」
「おうソウタ!てめぇだけか?」
「倫之助オジサン!うん、そだよ。みんな自分の部屋にいるよ。呼ぼうか?」
「オジサンじゃねえ!オレはまだ二十五だ!・・・・・あ、頼む」
「ラジャりましたー」
皮肉の言い合いを続けながら要件を言う二人。
そしてなんと、椅子に腰掛けていた『ソウタ』と呼ばれた人間は、小学生だった。
「な、なんで小学生が!?」
俺がうっかり口を滑らせてそう言うと、『ソウタ』は頬をぷくーと膨らませる。
「なんだよー、小学生がいちゃ駄目かよー!」
手に持っていたゲーム機をテーブルに置いて、『ソウタ』は怒る。しかしちっとも怖くない。
「まあまあ。オイナオト!こいつァ、天翔奏太(アマガケ・ソウタ)。小五で十一歳のガキだ。だが腕っぷしは悪くねぇぜ。戦ったらお前が負けるだろうな!グハハハハッ!」
「違うよ倫之助さん!ぼくは小六で十二歳だよ!」
「細けぇなぁ。ケツの穴の小せぇ男はモテねえぜ?」
「うっ・・・・」
奏太は顔を引き攣らせた。そして溜息をつきつつゲーム機を手に取り、グラヴィオンの人達を呼びに行った。
「何よぉ奏太くぅん」
一番最初に奏太に押されながら出てきたのは、艶っぽい女性だった。大胆に胸が露出した赤のドレスに身をまとった、二十歳くらいの金髪の女性。
「あらぁ?あなた妹ちゃんに殺されかけてたっていう子じゃない。起きたのね。わたしは久喜香織(クキ・カオリ)。よろしくね」
「あ・・・お、俺は白柳・・・・・・」
俺が自己紹介をしようとした瞬間、今度は誰かが大声で叫んだ。
「おー!お前が新入りか!!オレは服部虎太郎(ハットリ・コタロウ)!!よろしくな!」
俺がびくっと反応して声がした方を見ると、黒髪短髪で切れ長の細い一重の瞳の男がいた。心做しか、周りに炎が見える。
「俺は白やな・・・・・・」
俺が再び自己紹介をしようとした瞬間、今度は違う人間が声を出した。
「何よ。うるさいわね・・・・・・。あら?そこにいるの、前の子じゃない」
言葉を発したのは黒髪で、眼鏡をかけてスーツを身に纏った大人の女性。この人は前に俺の家に上がり込んだ人だ。
「・・・・ハァ。私は逢野成海(オウノ・ナルミ)」
額を抑えながら、この自己紹介をしなければならない空気に溜息をつく。
「・・・・・俺は白柳尚人です」
俺はやっと自己紹介ができたことに少し安心し、この次はどうすればいいのか千石に目で尋ねる。
「よし!一通り自己紹介は終わったみたいだな。団長はいないみたいだし・・・・・・ん?ハルはどうした?」
千石が辺りを見渡していると、柱の影から人が出てきた。
「お呼びですか、千石さん」
出てきたのは、俺くらいの歳に見える男。
春なのに黒いマフラーを着用し、黒に白のラインが真っ直ぐ入ったフード付きのロングコートを着て、フードを深く被った人間。俺の第一印象は、『暑そう』。
「おう!こいつは今日からグラヴィオンに入ってくることになった、えーと?シナギ?・・・・・ナオトだ!」
最早白柳とかけ離れた苗字を言い、そして諦めた千石は俺の自己紹介を黒コートの男にいう。
「そうですか・・・。ナオトくん、僕は大和琴春(ヤマト・コトハル)。ハルでいいよ」
「あ、ああ。ハルくん」
笑っているが何か近寄り難いオーラを感じるハルに、俺は少し退く。
「あ、そうだハル!」
「何でしょう?」
「こいつの、ナオトの教育係をやってやってくれ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
俺へのハルの殺意にも似た感情を読み取れないらしい千石はそう言った。
「じゃ、よろしくな!」
千石はハルに全てを任せ、そしてどこかに消えてしまった。
痛い沈黙。
「・・・・・じゃあナオト。よろしく」
『くん』が抜けたことに敏感に反応した俺だったが、ハルが差し出してきた手を握った。
「・・・ああコトハル。よろしくな」
その握手のあと、俺の手にはアザが出来ていた。
千石は灰皿に煙草をぐりぐり押し付けながら、何かを思い出したようにそう言った。俺は確かにそうだったな、と思い、渋々名を名乗った。
「・・・あー・・・俺の名前は白柳尚人だ。高二で齢は十七」
「あ?し、シロナギ?」
「シロヤナギ・ナオトだよ」
「チッ、小難しい名前だなァオイ。ナオトでいいか?」
「ああ。千石サン」
俺は『千石倫之助』って名前も小難しいだろ、と思いながら皮肉っぽく千石の名前を呼んだ。千石は嬉しそうにニカっと笑うと、新しい煙草を咥えて火をつけた。
「ナオト、体はもう大丈夫か?」
「あ?まあ治ったっちゃ治ったけど・・・・・・」
千石らしくない質問に一瞬驚きつつも返答する。千石はニヤニヤと笑うと、唐突に立ち上がった。
「うおっ!?なんだよ!」
「グハハハハッ!今思いついたんだがァ、ナオト!てめぇグラヴィオンに入らないか?こっちの世界のこと知っちまったんだし、てめぇもオレらみてぇにバケモンになっちまったしな!」
千石は目を輝かせて大声で言った。
俺は唐突に言った千石のその言葉に、一瞬躊躇う。
「ぐ、グラヴィオンに?」
俺は悩んだ。確かに俺は千石達と同じく化物になってしまったし、この世界が十年後に滅ぶことも知っている。そして何より、妹が死ぬきっかけとなった未知のウイルスの発信元を絶たなければならない。
だが────
「・・・・・忘れんなよ・・・。どんな理由があろうが、妹を殺したのはあんたらだ。世界を救ってるっつっても、やってることはただの殺人。そんな奴らと手は組めねぇ」
俺は真っ直ぐな千石の視線から目を逸らしながら言った。
酷いことを言っているのはわかっている。だが、やっぱりこの殺人鬼どもと手を組むのは、やっぱり無理だ。
すると千石は、難しい顔をした。
「・・・ナオト。てめぇ、オレ達が何も思わずに人を殺してる、冷徹な殺人鬼だと思ってんのか・・・?」
「えっ?」
「ナオト、お前の言う通りだ。オレ達のやってることは、所詮人殺し。オレ達はそんなこと重々承知してる。────だが、ワンダーを殲滅しなかったらどうなる?更に被害者が増え、死人が増えるだけ。・・・・・オレ達は【人殺し】に慣れちゃいねえよ。いや、慣れる日なんか来るわけがねぇ。残酷な人の死に様なんか、誰も見たくねぇしな。オレ達は【ワルモノ】になってやってんだ。世界の救世主なんて騙らねえ。オレ達がやってることは【人殺し】、そのことを理解しながらオレ達は人を殺してるんだ」
千石の言葉は、半端な俺の心に強く響いた。
「・・・・・・」
暫しの沈黙と静寂。そしてそれを、俺は潔く切り裂いた。
「・・・解った。俺はお前の、お前達の仲間になる。妹の敵を討ってやる」
俺がこう言うと、千石は両腕の拳を高々と上げて言った。
「よっしゃァァァァァ!!ナイス判断だぜナオト!」
そして息を切ってからもう一度言った。
「そんじゃあ、グラヴィオンの仲間を紹介してやるから、さっさと起きろ!ついてこい」
俺の手を脱臼しそうなくらいの力で引っ張る。
「いててっ!力強ぇよ!」
俺は文句を言いながらも立ち上がり、満面の笑みの千石について行った。
────────────────────────────────────
俺が寝ていたベッドだけの部屋を出れば、そこは大きな長方形の黒いテーブルと同色の椅子がズラリと並ぶ大きな部屋だった。血のように真っ赤なカーペットに、シミ一つない真っ白な壁。ドラゴンの絵が描かれた赤色の垂れ幕が天井から降りてきて、殺風景かつ綺麗な部屋だった。
すると、背もたれがとても長い黒色の椅子に、浅く腰掛ける者が口を開いた。
「あれ?その人起きたの?回復早いね」
「おうソウタ!てめぇだけか?」
「倫之助オジサン!うん、そだよ。みんな自分の部屋にいるよ。呼ぼうか?」
「オジサンじゃねえ!オレはまだ二十五だ!・・・・・あ、頼む」
「ラジャりましたー」
皮肉の言い合いを続けながら要件を言う二人。
そしてなんと、椅子に腰掛けていた『ソウタ』と呼ばれた人間は、小学生だった。
「な、なんで小学生が!?」
俺がうっかり口を滑らせてそう言うと、『ソウタ』は頬をぷくーと膨らませる。
「なんだよー、小学生がいちゃ駄目かよー!」
手に持っていたゲーム機をテーブルに置いて、『ソウタ』は怒る。しかしちっとも怖くない。
「まあまあ。オイナオト!こいつァ、天翔奏太(アマガケ・ソウタ)。小五で十一歳のガキだ。だが腕っぷしは悪くねぇぜ。戦ったらお前が負けるだろうな!グハハハハッ!」
「違うよ倫之助さん!ぼくは小六で十二歳だよ!」
「細けぇなぁ。ケツの穴の小せぇ男はモテねえぜ?」
「うっ・・・・」
奏太は顔を引き攣らせた。そして溜息をつきつつゲーム機を手に取り、グラヴィオンの人達を呼びに行った。
「何よぉ奏太くぅん」
一番最初に奏太に押されながら出てきたのは、艶っぽい女性だった。大胆に胸が露出した赤のドレスに身をまとった、二十歳くらいの金髪の女性。
「あらぁ?あなた妹ちゃんに殺されかけてたっていう子じゃない。起きたのね。わたしは久喜香織(クキ・カオリ)。よろしくね」
「あ・・・お、俺は白柳・・・・・・」
俺が自己紹介をしようとした瞬間、今度は誰かが大声で叫んだ。
「おー!お前が新入りか!!オレは服部虎太郎(ハットリ・コタロウ)!!よろしくな!」
俺がびくっと反応して声がした方を見ると、黒髪短髪で切れ長の細い一重の瞳の男がいた。心做しか、周りに炎が見える。
「俺は白やな・・・・・・」
俺が再び自己紹介をしようとした瞬間、今度は違う人間が声を出した。
「何よ。うるさいわね・・・・・・。あら?そこにいるの、前の子じゃない」
言葉を発したのは黒髪で、眼鏡をかけてスーツを身に纏った大人の女性。この人は前に俺の家に上がり込んだ人だ。
「・・・・ハァ。私は逢野成海(オウノ・ナルミ)」
額を抑えながら、この自己紹介をしなければならない空気に溜息をつく。
「・・・・・俺は白柳尚人です」
俺はやっと自己紹介ができたことに少し安心し、この次はどうすればいいのか千石に目で尋ねる。
「よし!一通り自己紹介は終わったみたいだな。団長はいないみたいだし・・・・・・ん?ハルはどうした?」
千石が辺りを見渡していると、柱の影から人が出てきた。
「お呼びですか、千石さん」
出てきたのは、俺くらいの歳に見える男。
春なのに黒いマフラーを着用し、黒に白のラインが真っ直ぐ入ったフード付きのロングコートを着て、フードを深く被った人間。俺の第一印象は、『暑そう』。
「おう!こいつは今日からグラヴィオンに入ってくることになった、えーと?シナギ?・・・・・ナオトだ!」
最早白柳とかけ離れた苗字を言い、そして諦めた千石は俺の自己紹介を黒コートの男にいう。
「そうですか・・・。ナオトくん、僕は大和琴春(ヤマト・コトハル)。ハルでいいよ」
「あ、ああ。ハルくん」
笑っているが何か近寄り難いオーラを感じるハルに、俺は少し退く。
「あ、そうだハル!」
「何でしょう?」
「こいつの、ナオトの教育係をやってやってくれ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
俺へのハルの殺意にも似た感情を読み取れないらしい千石はそう言った。
「じゃ、よろしくな!」
千石はハルに全てを任せ、そしてどこかに消えてしまった。
痛い沈黙。
「・・・・・じゃあナオト。よろしく」
『くん』が抜けたことに敏感に反応した俺だったが、ハルが差し出してきた手を握った。
「・・・ああコトハル。よろしくな」
その握手のあと、俺の手にはアザが出来ていた。
