おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
忘れないで


この日も楽しそうな話し声、笑い声が混ざり合う教室内。

そこに吹く、心地良い夏の風。

その風は、夏の日差しを邪魔せぬようにと開けられた
カーテンを優しく揺らす。

そんな中私は、春の花、桜の散るあの瞬間を思い出していた。

夏の風に吹かれながら春の事を思い出す。

いつか、唯一の友達と見た、あの時の事を。

「はいはい!何ボーッとしてんのさ」

そんな思い出の世界から現実の世界へと呼び覚ますその
友達の声と、手を叩く音。

私は香を見る事しか出来なかった。

それに呆れたように朝からため息を吐く香。

「分かるよ」

あのため息は無かったもののように優しい声を出す香。

私はこれにもただ彼女を見る事しか出来なかった。

香はそんな私の反応はどうでも良いらしく、そのまま
話し出す。

「桜の散る、あの瞬間。凄く綺麗だけど、凄く切なくて…」

「香……」

香は大きな目を細めて可愛らしく笑い、前を向いた。

いつも思うけど、本当に可愛らしい笑顔。

見てると、何となく落ち着くっていうか。

今まで何度も癒やされたし、救われた。

救われたって言う程辛い事があった訳じゃないけど、少し
悩んでるような時も、あの笑顔で。

その悩みも忘れられた。

そんな大した事じゃないっていうのも、もちろんある。

けど、香の笑顔は本当に素敵なもの。

「そうだそうだ」

「何だ何だ?」

私が言うと何かムカつく、と言いながら私の方を向く香。

そんな香が私の机の上に置いたのは一枚の紙。

「27日。行かない?」

その机の上にある紙に視線を落とすと、その紙には
『花火大会』という、何とも夏らしい四文字が大きめに
書かれていた。

「花火ねぇ」

私はその紙を手に取り、内容を見た。

内容、と言う程でもなかったけど。

「今回は凝ってるみたいだよ?」

「凝ってる?」

その言葉と同時に私の視線は香へ。

「うん。結構、可愛い感じでやるみたいよ?」

私はふ〜ん、と適当に反応し、手元の紙に視線を落とした。

「前はさ……」

香の少し切な気な声に、私の視線は再び香へ。

「前は、もっと凝ってたんだけどね。最後は字になったりさ」

「字?」

「うん。ハートとかスマイルはもちろん、最後に文字が」

何故か少し自慢気な香。

「どんな文字?言葉?」

「『Thank You』くらいだけどね」

「それ絶対 準備面倒くさいやつじゃん」

「ハハッ、萌ったらそんな事考えながら花火見るの?」

「いや、見るときはもちろん楽しむよ?けどさぁ」

私が言って香から返っくるのはハイハイ、という
面倒くさそうな声。

「じゃあまぁ、27日なんで。覚えといてよ?」

「頑張るさっ」

「頑張る程の事じゃあ、ないかな?」

という何となく失礼な言葉を残し、再び前を向く香。

私には大変な事なんです。

日付を覚えるのは難しいんです。

この、なかなか物事を覚えられない私にとっては。

なんて、香の背中に心の中で言ってみる。

覚えようとしないだけなんだけど。

まぁ、言葉に出しても大した応えは返って来ないん
だから、言わなきゃ何も返ってこないに決まってる。

私はさっき香にもらった紙を机の中にしまい、そのまま
突っ伏すようにしてすぐ隣の棚に置かれた花瓶を眺めた。

あれ、昨日、水変えたっけ。

私はとりあえず花瓶を持って教室を出た。

変えてあったならまぁ良いし。

変わってないでそのままじゃ可哀想だもんね。


そして水を変えた花瓶と教室に戻り、再びその花と花瓶を
眺める。

「萌、真面目なんだね」

「真面目ってか、変わってなかったら可哀想じゃん」

「萌にそんな事思われる方がよっぽど可哀想な気がする」

自然に、当たり前のように相当キツい事を言う。

さすが、香様です。

結構強烈。

「花も頑張ってるよね」

「外に咲いてる花なんかは、もっとね」

香にとってはその言葉が相当意外だったのか、香の視線は
私に。

私もつい香を見る。

すると何故か笑い出す香。

「な、何よ」

「いやいや。ハハッ、優しいんだね」

優しいの、かな。

「前から思ってたけど、本当に萌は優しい」

「香にだけは言われたくない」

私が言うと、香はクスッ、と笑った。

その丁寧な笑い方が凄く綺麗で、私も笑った。

そんなに、綺麗なものかは分からないけど。

きっとそんなに綺麗ではないだろう。

私なんてのはそんなもん。

「あれっ?そう言えば今日、何日?」

「26?」

「明日じゃん!」

「あっ、そうだね。まぁどうせ暇でしょ?萌なんだから」

本当、失礼な友達で。

けど本当に頼れて。

私は今日もそんな友達と、充実した学校生活を送った。


いつもありがとうございます。

今回のジャンルはその他にしたのですが、学園に何となく
推理っぽい要素が含まれる感じになると思います。

その推理要素はかなり薄いものだと思いますが……

今回はいつも以上にどうなるか心配ですが、いつものように優しく見守って頂けたら幸いです。
<2016/08/19 20:16 秋の空>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.