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忘れないで


初めて暗くなるまで人の家の前をウロウロした日は去り、再び陽は昇り、辺りに明るさが戻った。

そして教室に居る私達。

隣に人の気配はない。

もう、授業は始まっているのに。

坂城くんか。

昨日は何で来たんだろう。

気が向いたからって言ってたけど。

まぁ、そういう感じの人なのかな。

と、思えれば楽なんだけど。

そして何で見たんだろう。

あの、お店。

少し前に、何かで確かに見た気がする。

けどそれが、何かは全く覚えてない。

そんな事を考えていた時、少し雑に開けられる教室の
ドア。

「はーい?えっ……」

「遅れました」

「さか、き……」

先生も相当驚いてる。

「続けて下さい」

来た。

坂城くん、来た。

私はつい坂城くんを見つめてしまった。

「何」

「あ、ごめん……」

この顔はきっとあのハンカチの時だよね。

「坂城、大丈夫なのか?」

「まぁ……」

大丈夫なのかって、何?

「本当、何かあったらちゃんと行けよ?」

「はい……」

何かあったら行く?

何かって何?

行くって、それはどこに?

疑問しかない。

これ、授業なんかに集中出来ないけど。

「藤井、木崎。お前らには関係無い」

いや、分かってますよ?

けど何故、私達二人が特定?

関わるなって言われると、関わりたくなっちゃうよね。

「えっ、みんな何か知ってるの?」

「良いですから。授業、続けて下さい…」

本当にどんな人か分からない人。

先生の前では真面目君になるのかな?

そういうタイプか。

キャラ使い分けられる感じの。

私とは真逆だね。

多分、香にも出来ないね。

素直だから、あの子。

「はぁ〜、眠い」

「藤井、お前いい加減にしろ?」

「はい、はい……」

ふと隣を見れば、ノートは開かれてるけど、そこには何も
書かれていなかった。

目、悪いのかな。

「後でノート見せてあげる」

「良い」

あの時と同じだ。

この、冷たい感じ。

本当にこの人なんかと仲良くなれるのかな。

昨日は何か動いたけど。

多分私には無理。

この人と関わるのは。

私がそんな事を考えてる間に、香の彼に対する思いは強く
なっていってるんだろうね。

「坂城くんさ、今日は一日居るの?」

「ふ、ふじ……」

「さぁ?気分次第」

「そっ」

先生の前でそんな事言えるんだ。

本当にただのこういう人なのかな。

関わるのは無理だろうけど、傍に居ることは出来そう。

先生の前で言えるって事は、先生も何か知ってるって事
だよね。

で、その何かって何なんだろう。

それが分かれば苦労しないか。

そんな事を考えていると、授業は終わった。

今日はあれだな。

坂城龍の事だけ考えて一日が終わる感じだね。

「あぁ〜っ!」

「ちょちょ、萌!萌っ!」

香の騒がしい声が聞こえ、顔を上げる。

そして見えたのは香の慌てたような顔。

「何?」

「坂城くんが居ない!」

「えっ」

隣を見れば、確かに彼の姿はなかった。

そして、少し申し訳ない気持ちを抱きながらも机の中を
見てみた。

「ある?」

私は香の声に頷いた。

これは、どちらの意味なのだろうか。

また、戻ってくる余裕があるという意味か、荷物を
まとめる余裕もなかったという、意味なのか。

えっ、待て待て。

何で坂城くんがあの、『どこか』へ行ったと思ったのか。

普通に学校内に居るかもしれないのに。

先生に呼ばれたり、色々理由なんてあるのに。

「ハハッ、香ったら驚かせないでよ」

「勝手に驚いたんだけどね?」

「香があんなに慌てて呼ぶからよ」

「やっぱり」

「は?」

「やっぱりって言って、坂城くん教室出てった」

やっぱり。

何が?

やっぱりあの人は無理だ。

関わることは絶対しない。

ただ私は、彼を傍で支えるくらいで十分なのだろう。

支えられるか、分からないけど。

「ねぇ、あの気分次第って何だと思う?」

「何だと?」

「だって、登校して来た坂城くんを見た先生の反応も絶対
おかしいし、普通先生の前で一日居るかは気分次第だなんて言う?」

「まぁ、言っちゃうのが坂城くんなのかもね?」

結構真面目そうな子だよね。

少なくとも、結構優しい人ではあるだろう。

じゃなきゃ、人のハンカチ拾ったりする?

私は今日も持って来た、彼と初めて話すきっかけとなった
あのハンカチを眺めた。


<2016/08/20 13:18 秋の空>消しゴム
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