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忘れないで


「か〜お〜り〜」

私は帰り道、香に抱きついてみた。

「うっぜ」

相変わらずキツいお言葉が飛んできます。

「今日行っていいっすか」

「しょうがないなぁ」

「やっし!」

私がガッツポーズをすると、香は上品に微笑んだ。

行って話す事は、大分難しい事だけど。

きっと、香も気付いてるだろう。

私の考えてる事は、全てお見通しだから。

怖い程にね。

「おじゃまします」

「はい〜」



この香の部屋。

何か好きだな。

「何?仲良し良し作戦の続きかしら?」

「まぁ、そんなとこ」

香はだろうと思った、と笑った。

「あっ、ちょっとさ、テレビつけて良い?」

「えっ、うん。はい」

「あざっす」

私は香にテレビのリモコンを受け取り、電源を入れた。

程良いサイズの画面に映し出されるニュースキャスター。

今日も色々なニュースが、繰り返し伝えられる。

「ニュースなんか観るの?凄い現実的だね。ドラマの
再放送で良くない?」

「あ、そうだね」

そして私が回したのは刑事物のドラマが良く放送される局。

『第一発見者は?』

『あちらの、犬の散歩をしていたという主婦の方です』

「こんな事あり得るのかな」

「まぁ実際、色んな事件が起こってるのが現状だからね。
有り得なくはないんじゃない?」

「絶対関わりたくないよね」

「本当だよ。平和が一番」

こんな、関わりたくないなんて言えるのが、とても幸せ
なんだと思った。

まだ、関わった事が無いという事。

私は、事故にも事件にも巻き込まれた事がない。

『凶器は』

『恐らく、そこにある……』

「あれ、今日ってドラマ何かあるっけ?」

「ちょ、今日何曜日?」

「木曜日?金曜日?もう、分っかんない」

「ダメダメじゃん」

二人しか居ない、香の部屋は、一気に賑やかになった。

笑い声という、幸せな声で。

「そうだ、坂城くんの事なんだけどさ」

「あ、うん」

私の声で、再び静かになる香の部屋。

ドラマの音声や音楽だけが鳴り響く。

「どこに行ってたと思う?」

「もう大丈夫って帰されたみたいな事言ってたよね」

私は香の言葉に頷く。

何故か香自身も。

「坂城くんの、あのお店?何かで見た事ない?」

「え〜?雑誌で取り上げられたとか?」

「あっ、そうなのかな?」

「いや、知らないし」

香ちゃん、もう少し、優しく。

そこそこ悲しいんだから。

その言い方。

「テレビの取材?」

香、もう少し現実的な事考えようよ。

「取材って。お花屋さんだよ?」

「ほら、ラッピングが凄い素敵だったり、花の種類が
凄かったり。何かで有名だったんじゃない?」

有名なお花屋さんね。

「まぁ、こんな田舎にテレビなんか来ないか」

「田舎ってほど田舎じゃないけど?」

「でも県じゃん」

「いや、県だけど、県なんだけど……」

何て言おうか迷っていると、もう良いよ、という言葉と
共に頭にちょっとした痛みが。

「香、強い」

「もう慣れたでしょ」

確かにそうなんだけどさ。

「んで、あのお店見た事ない?」

私はわざとらしく頭を押さえながら言った。

「言われてみれば、あるような?分かんないけど。
まっ、そのうち時間が解決してくれるさっ」

「そんな事ばっかりかな」

香が少し驚いた顔で私を見る。

私はそのまま続ける。

「確かに、時間が経てばどうにかなる事も沢山ある。
けど、これは、小さな事過ぎてどうにもならないよ」

「はぁ?も、どれだけ凄い事言い出すのかと思ったら。
小さ過ぎてどうにもならないとか。はぁ?」

私は何となく危険を感知し、窓を開けた。 

突き込む冬の冷たく乾いた風。

「寒いし、強いし」

これはまずい。

私は大人しく窓を閉めた。

「あ、散歩、行く?」

「良いけど、風邪引かないでよ?」

大丈夫だって、と私が部屋を出れば香もついてきた。

私達はそのまま家を出て、行く宛もなくただ歩いた。


<2016/08/20 15:08 秋の空>消しゴム
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