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忘れないで


俺は今日もここに来た。

病室という、少し来たくはない場所に。

「ごめん、ね……」

「大丈夫だよ?」

俺はばあちゃんの細い手に触れた。

その時、ばあちゃんの何かが変わった気がした。

「ん?」

そして少し切な気な笑みを浮かべるばあちゃん。

「どうした?」

「友達、出来た?」

外から楽しそうな女子の声が聞こえてくる。

多分、同じくらいの歳。

だからかな。

「うん。出来たよ」

「そう」

そう言った途端、安心に満ちるばあちゃんの表情。

「俺の心配はしないで、ゆっくりして?」

「可愛い孫のこと。気になるわ?」

「はいはい」

俺がこうして、元気な姿を見せればこの人は笑う。

それを見れば、俺も自然と笑える。

なら、少し作ってでも元気に居る。

どうせその後、本気で笑うんだし。

「ちょっとごめんね?」

とりあえず一言伝え、俺はほんの少しカーテンを開け、
外を見てみた。

けど、それもすぐにやめる事になった。

うん、それが安全だ。

「どうした?」

「ううん、晴れてるなぁ、って?」

本当に嘘くさい。

「そうね」

それを素直に信じるばあちゃん。

ごめん。

「あ、冬実ちゃんは?」

「飲み物買って来るって」

「そう、か…」

そんな話をした時、それを聞いていたかのように
冬実ちゃんが姿を現す。

「おっ、龍くんじゃん」

「お疲れ」

母さんの姉。

「飲む?」

「おっ、ありがと」

この時期にはありがたい温かいコーヒー。

ブラック、だけど。

このちょっとしたところがね。

さすが姉妹、誰かそっくり。

「お母さんも何か飲んで?」

「大丈夫……」

「じゃないから。少しずつで良いから」

まぁ、少しずつじゃなきゃダメなんだけど。

「はい、持ってきたから」

冬実ちゃんが小洒落たバッグから水のペットボトルを
出し、ベッドの上のばあちゃんに差し出す。

「飲んでない?」

「失礼な人ね。別に娘のだし良いでしょ」

「飲んだの?」

面倒くさいわ。

「飲んでないけど、何か」

冬実さん、怖いよ。

「夏実も今は忙しいのかしら」

言えるわけ、ないよな。

「今は、繁盛してるから」

「なら、帰って良いから」

「大丈夫。俺らの事は気にしないで?悪化したら、そっちの方が嫌だから」

「龍、くん……」

「居るから、ゆっくりして。可愛い孫からのお願い」

可愛いかは、分かんないけど。

そんな俺の言葉にばあちゃんは笑った。

ばあちゃんって感じじゃ、全くないけど。

「奏(かな)は?」

「姉貴は、手伝ってる」

「元気?」

「うん、元気だよ…」

元気、だよな。

今日の空は、確かに晴れていた。

だから、元気だよね。

姉貴、母さん……


<2016/08/20 15:40 秋の空>消しゴム
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