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忘れないで


「おっつ〜」

そんな明るい声が聞こえた方を見れば、今日も飲み物を
持った冬実が。

「おっ、どうもっ」

冬実はふふっ、と笑って軽く手を振った。

いや、俺まだ居るけど。

「ちょ、分かんないじゃーん!」

「それも居てみないと分かんないでしょ〜?」

どこかで聞いた事のあるような声。

隣の女子と斜め前の女子かな。

藤井って人と、木崎って言ったかと。

二人とも本当に良い人そうで。

「みんな楽しそうね」

「こんな所で何してるんだろう」

そう言いながらカーテンに手を掛ける冬実。

「あぁっ、良いから」

「え?」

「いや、その内、居なくなるでしょ、うん」

「どうしたの?」

開けちゃったよ。

「うっふふ」

手、振ってるよ。

「龍くん、ちょっと良い?」

「えっ、ばあ……」

「大丈夫よ、ゆっくりしてきて?」

「そっちこそ、ったたた」

冬実に腕を引かれ、連れて来られたのはちょっとした
テーブルや椅子がある所。

「どうしたの?」

俺は掴まれた手首を手で囲むようにし、その中で手首を
回した。

「どうしたのはこっちのセリフよ。カーテン開けた時、
変だったよ?」

「いや、何でも、ないよ?」

最初から酷くもなかったけど、手首の痛みも忘れていた。

「同じ学校の子みたいだね」

そう言ってソファーに座る冬実。

俺もその隣に座った。

「そう、なんだ……」

「うん、制服が。凄く良い人そうだったよ?」

「うん……」

俺は冬実から目を逸らした。

分かってるよ。

だからさっき、二人はああやって俺の後を。

違う道でここに向かった事を、少し後悔してるくらい。

「友達には、なってないみたいね?」

「なったよ。友達、結構居るよ?」

「怖いんでしょ」

俺はつい、隣の冬実に視線を移した。

「分かるよ。きっと、あたしもそうなると思う」

「ふ、冬実?」

「父親は居なくて、一人で育ててくれた……」
「俺はっ…」

その後の言葉を聞けず、冬実の言い切る前に言った俺の
その声は、かなり震えていた。

「龍?」

「普通に、学校生活、楽しんでるから……」

「良いよ。あたし前では、弱いとこも見せてよ」

そう言って俺をそっと抱きしめる冬実。

そしてその声は、母さんによく似ていた。

「良いよ。思ってる事、全部言って?」

その言葉を合図にしたように、言葉ではなく涙が勢い良く
溢れる。

高校生にもなって親の姉妹に抱かれて泣くっていう。

しかも、病院で。

「大丈夫だよ。あの子達は、龍の前から居なくなったりしない」

何故こんなにも分かられてるのか。

普通に、してきたはずなのに。

「俺……」

「ん?何?」

「何でもない……」

そう震える声で言い、その後言葉も無くただ泣く俺を、
何も言わずに抱きしめ、そっと頭を撫でてくれる冬実。

そのせいで涙は止まる気配を見せない。

そして改めて、この人には何も隠せないのだと実感し、
諦めたように暫く泣き続けた。


<2016/08/20 18:57 秋の空>消しゴム
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