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忘れないで


ドラマのようなお話か。

確かにそうだ。

あんなふうに家族と別れる事になるとは思わなかった。

『なんかあったら空を見ろ』

姉貴が書いた、あの字。

涙で滲んだ、あの字。

まだ残ってる。

姉貴からの、最後のメッセージ。

「奏……」

寒い冬の風に吹かれながら、俺は姉貴のメッセージを
思い出していた。

何度も捨てようとした、あのメッセージ。

けど、捨てられなかった。

俺に、姉がいたという証拠。

姉が、俺の姉が生きていたという証拠。

「バカ……」

そう言って何秒経っても何も返っては来ない。

あの睨む目も、否定する、明るい声も。

そして最後に来る、背中への強烈な痛みも。

やっと分かったのかな。

自分が、バカな事をやらかしたと。

遅えんだよ。

「龍?」

藤井の声が優しく呼ぶ。

それに何も返せない俺。

そんな俺を、大丈夫だよ、と後ろから抱きしめる藤井。

「んで来た…」

隠せるとは思わなかったけど、必死に流れる涙を拭った。

「今までずっと教室に居ない時、こうしてたの?」

後ろから優しく聞こえるその声に首を振った。

「前に、何があったの?」

「ドラマみたいな事。貴重だよな……」

「お願い。私達は、坂城を助けたいの。その悲しみから、
救いたいの」

「なら、お願いだから消えないで……」

遂に言ってしまった。

相手が、間違いなく戸惑うような事を。

「分かった。私達は、ずっと龍の傍に居るよ」

その、『龍』の言い方が、何となく姉貴に似てるような気がした。

高校生にもなって。

会えもしない姉と母の存在を求める。

前は父親でも良いから居て欲しかった。

「龍は一人じゃないよ」

「ヤメろ……」

「良いんだよ、泣いて。今、色々大変なんでしょ?」

冬実、全部言っちゃったか。

せっかくこの二人には必要以上に同情されないと思ってたのに。

そんな俺の気持ちを悟ったように、藤井は続ける。

「龍の、お母さんのお姉さん?に、聞いたの。落ち着いたら、龍から何かあるから、その時はよろしくって」

何か、か。

ただ、傍に居て欲しい、それだけなのに。

何をあげる訳でも、する訳でもない。

ただ一つ、ワガママを言うだけ。

「一人、寂しいよね。辛いよね」

これ全部言っちゃった感じかな。

「そのうち落ち着くよ。龍自身も、家庭も、ね……」

あれ、何か違う。

「藤井?」

藤井と向かい合うようにした。

自分が今どんな顔か、そんなの気にしていられなかった。

「あ、あの、冬実から、何、聞いたの?」

「そんなに詳しい事は聞いてないよ?」

もう、いっそ全て言ってしまった方が楽なのだろうか。

現実になるだなんて、思いもしなかった、あの事を。


<2016/08/21 14:12 秋の空>消しゴム
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