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忘れないで


「さ〜かきっ」

久々にあの事を思い出した次の日の朝、そんな明るすぎる程の声と同時に背中を叩かれた。

「何」

「冷たいなぁ」

「まっ、そんな時なのよっ」

木崎のその言葉で、俺ら三人の間に流れる空気が変わる。

そんな時、か。

ニュース、怖いね。

色々知られる。

その前に。

「あ、の、二人、何で?」

ここはまだ病院の近く。

冬実に悪くて、何となくここで降りた。

「待ってたのよっ!」

そう言ってまた背中を叩く二人。

「どこ、で…」

「さっき出て行った所。何で遅れてるのかも知らないし?」

「俺の事は気にしなくて良いから…」

「そうもいかないのっ!友達としてね?」

藤井の明るいその声に、無意識に足が止まった。

それにすぐ気付き、少し先で振り返る二人。

「坂城?」

「余計な事には関わらない方が良い」

「えっ、坂城?どういう意味?」

「そのまま」

俺は今回も素直になれず、歩き出した足をどんどん速め、
教室に向かった。

席に着けば、結局また近付く事になるのに。

分かってはいるけど、少しでも余計な事に巻き込みたくなかった。

傍から居なくなるのはもちろん、俺と関る事で二人の時を
止めるのが怖かった。

そんな事になれば責任など取れない。

俺が二人を追ったところで二人が帰って来る訳でもない。

そんな事になる前に、この二人との関わりを断ちたい。

一時間目の授業は少し前に終わっており、手早く荷物を
片付けた後、窓の前で空を見た。

けどそれに、何も返っては来なかった。

ただ、この季節にしては晴れた空。

楽に、なったかな。

「坂城」

「藤井……」

「私達はずっと、坂城の傍に居るよ」

「別にい……」
「私達に」

力強い藤井の声に、視線は隣の藤井に行っていた。

「私達に出来る事、何かある?」

ただ、傍に居て欲しい。

俺の願いは、それだけだった。

けど。

「俺と関わるな」

それも、願っている事の一つだった。

これが、お互いのため。

二人は俺と関わらなければ、人生という長い時間を無駄にしない。

そうすれば俺も幸せ。

そして。

深く関わらなければ、たとえ離れたとしても、俺もそんなに。

結局自分の事しか考えてない。

自分の事しか考えられない。

それが、俺だった。

今までも、今も。

そして、これらからも。

きっと。

「それが、坂城の望んでる事なの?」

そう言った声は、藤井のものではなかった。

そんな声のした方を見れば、悲しそうな表情を浮かべる
木崎が。

「あぁ」

そう言って俺は、今日も逃げる。

何故か常に開いてる、屋上に。

そこへ出れば、冷たい風を全身に受けた。

空を見上げれば、さっきとは全く違う表情をしていた。

太陽は全く見えず、厚い雲で覆われている。

それでもその隙間から必死に顔を出そうとする太陽。

厚い雲の向こう側に、明るい太陽が少しずつ顔を出す。

あそこには、家族が全員集まってる。

父親も、母親も。

姉貴、も。

冬実だけは。

彼女だけには、あそこに行って欲しくない。

どうか、彼女だけは。

俺はただ、二人、いや三人に願いを込めて空を見上げた。

まだ、冬実の事は連れて行かないで、と。

そう、強く願えば願うほど、涙は流れた。

それでも良かった。

これで、冬実がまだ傍に居てくれるなら。

今の俺に、一番近い人だから。

ばあちゃんも、もう正直どうなるか分からない。

祖父の存在は知らない。

俺の生まれてすぐか、その前に去ったのだろう。

なら、四人かな。

お願いだから、冬実だけは。

そう願いながらその場にしゃがんだ時。

再び優しく呼ばれる名前。

今回は木崎らしい。

木崎は俺の隣にしゃがみ、優しく、ゆっくりと話し始める。

「ごめんね。私達、坂城の事、何も知らなかった」

相変わらず何も返せない俺。

「家族の間に、というより……」

もうそんな事も起こらないんだもんね、ととても悲しそうに言う木崎。

「あの、お父さんは?」

木崎の凄く聞きにくそうな言い方に、何も答えない訳には
いかなかった。

「大分前に死んだ」

うそ、と相当大きなショックを受けたように呟く木崎。

「そんな嘘はつかない。時間を無駄にしたくなければ俺に
関わるな」

そう言った後に得られた気持ちは、罪悪感のような、
達成感のような。

とても複雑なものだった。

俺は行く宛もなく、とりあえず中へ入った。

これ以上一緒に居れば、間違いなく離れられなくなる。

だから、少しでも早く動かなくてはならなかった。

一日でも早く、一センチでも遠くに。


全てを、無かった事に………

<2016/08/21 22:26 秋の空>消しゴム
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