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忘れないで


どれだけ待っても、龍が姿を現さない。

その理由は、もう知ってるはずなのに。

まだ、彼が姿を現すことを期待してる。

彼は今日、用事という理由で欠席した。

それも、暫く休むとの事。

もう、暫く来れないことは確実だということ。

それが何かは、分かりたくもないけど分かった。

何でみんな居なくなるの?

何で、そんなに龍の周りから、傍から。

その頃、私はやっと彼のあの言葉の意味が分かった気が
した。

時間を無駄にしたくなければ俺と関わるな。

あの、言葉の意味が。

きっと、
お願いだから消えないで……

あの言葉が、彼の本音。

けど、それよりも傍から人が、私達が。

消える事への恐怖の方が強いのだろう。

傍に在るもの、全てが消える訳じゃない、私はずっと、
龍の傍に在り続けるよ。

そう、伝えたい。

それだけは、忘れて欲しくない。

だから、もう一度。

もう一度で良いから、龍に会いたい。

龍と、話がしたい。

伝えたい事が、あるから。

その時、強烈な不安と恐怖が混じったような感情に襲われ、教室を飛び出した。

「萌っ!」
「藤井!」

先生と香の声が同時に、それぞれ違う呼び方で私を叫ぶ
ように呼んだ。

私はそれに振り返る余裕もなく、ただ走った。

このバカな学校が、やらかしそうな事を想像して。

「坂城っ!」

今までに無いほど雑にドアを開け、龍の名前を呼んだ。

そこに、とても幸せな事に彼の姿は無かった。

安心からその場に崩れそうになった時、再び恐怖に襲われる。

けど、足はそこから動こうとしない。

「坂城ーーッ!」

枯れる程の声で彼の名を叫んだ。

「萌っ、どうしたの?大丈夫?」

「やだ、さか、りゅ、う……」

「何?坂城は今日、用事で休んだよ?」

香が崩れ落ちた震える私の体を支えて、優しく言う。

「藤井、どうしたんだよ」

知らない男の子の声。

かなりの生徒が駆けつけたらしい。

「居な、い?」

「坂城なら休んだだろ?」

優しく、私を思って言ってくれたその言葉に何故か腹が立ち、その気持ちからか、身体が動いた。

私は屋上の端に駆け寄り、下を見た。

それと同時に、安心の涙が勢い良く流れた。

「ちょ、藤井?」

「良かっ、た……」

「あぁ、ちょちょちょ……」

「ごめん……」

「良いから」

そんな優しい声と同時に体が浮く。

私はそれに抵抗する事も無く、身体を預けた。

人生初のお姫様抱っこ。

お父さんにはされてたのかな。

全く関係のない人にされたのはこれが初めて。



気付けばどこかで寝ていた。

うん、保健室だね。

「やっと起きやがった」

「え、だぁれ?」

「だぁれじゃねぇよ。坂城くんだろ」

「それはねぇだろ」

「まぁ名乗る程でもない」

名乗れよ。

まぁ、もう二度と関わらないだろうけどさ。

「つか、超ビビったんだけど」

「え?」

「はぁ?お前自分がやらかした事覚えてねぇの?」

やらかした。

私が頷くと彼はさっき私がやらかした、事を教えてくれた。

やらかした事を。

「何があったのかと思ったよな」

「ほんとだぜ。とんでもねぇ事やりだすかと思ったよ」

この人も知らないなぁ。

よくこんな人が私の事を。

「何かあったのかよ」

「何か?」

「だから、悩んでる事とか、辛い事、みたいな?」

「私には、そんな事ないよ」

私はただ、龍が間違った方向へ進もうとしていたら、それを止めたかっただけだから。


<2016/08/22 13:14 秋の空>消しゴム
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