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忘れないで


遂に二年になった私達。

香とも、龍とも。

同じクラスだった。

そんな幸せなはずの私は今、猛烈に焦っていた。

まずい。

一年の終わりくらいから龍は口癖のように俺と関わるなと
言っている。

たが、それを言うほど、彼は辛そうに。

本心でない事が分かってるから、私は焦ってる上に辛い。

関わろうとすれば、本心ではない偽りの言葉を返されて。

けど頭と心は関わろうとする事をやめなくて。

これはまずい。

どうすれば良いのかだろうか。

私は香に助けを求める。

「龍、どうしたら良い?」

「良いって、分からないよ」

香、助けてよ。

そんな時、あの日の言葉を思い出す。

『あなたが後悔して私の所へ来た時に、私があなたにしてあげられる事は何一つとして無い』

あの、冷たい目と口調で言い放たれた、あの言葉を。

だからかな。

香がもう、何も言ってくれないのは。

あれから結局何もなく生活してきたけど、本当は根に
持ってるのかな。

怖いよ。

「香……」

弱々しく香を呼ぶと同時に止まる足。

香はやっぱりすぐに気付き、振り返った顔には優しい表情を浮かべている。

「あの、時は、ごめん……」

ずっと言いたかった事。

けどその言葉の意味は香には届かなかったみたい。

香は首を傾げる。

「あの、病院の前で、待ってた日。お姉さんに、何か
聞こうとした日」

そう言い切れば香は豪快に笑い出した。

私も顔を上げて香を見る。

「やだなぁ。萌ったらそんな事気にしてたの?」

そう言った後、香の表情が分かりやすく暗くなる。

「私こそごめん。今までずっと言いたかったけど、萌は
あまり気にしてないのかなって思って。だったら、変な事は思い出させない方が良いと思って……」

「香…」

そんなに気にしてたんだ。

私なんかより、全然気にしてた。

じゃあ今まで明るくしてたのは私に気を遣って?

何でそこまで。

「ごめん。あと、龍の事は、本当にどうしたら良いかなんて分からない……」

私は何度か頷いた。

「そっか。そう言ってくれたら、嬉しいよ」

私は香の小さな肩に腕を回した。

香の細い腕が私の肩にも回される。

朝から肩を組んで学校に向かう女二人。

やっと、仲直りして。

「やっぱり、暫くそっとしておくのが正しいのかな…」

「どうだろうね…」

香のその言葉を合図にしたように私達は自然と腕をお互いの肩からおろした。

「龍、少し前から本当に、関わるなって良く言うの。
それが重なれば重なる程、辛そうに見えてきて……」

「やっぱり、その言葉が本心になることはなさそうだね」

「だったら、何で素直にならないんだろう」

「それは、萌がちゃんと、良く分かってるでしょ?」

私はその期待に応えることは出来ず、つい香から目を
逸らし、俯いた。

私につられるように、隣で香も。

そんな私達の間に流れる空気は、とても明るいものではなかった。

そんな空気を少しでも変えようと、春の風が優しく吹く。

何だか、前にもこんな事あったな。

少し変な空気が流れて、それを変えようとしてくれている
かのようにその季節の風が吹く。

「りゅ、う……」

「え?」

私は香に目線で龍の居る場所を伝えた。

香はその目線を辿り、龍を見つけた。

その龍の後ろ姿が、やたら悲しそうに見えた。

どうか気のせいである事を願います。

「龍、大丈夫かな」

嘘でしょ。

香にもそう見えちゃったの?

もう、間違いないじゃん。

「何してんの?」

そんな声のした方を見れば、香が今にも走り出しそうな顔でこちらを見ていた。

「は?」

「は?じゃねぇよ。早く行くぞっ」

私は頷き、二人で朝から走り出した。

何を言われるか、そんな事は全く考えていなかった。

「龍っ!」

「うわっ!あ、藤井と、木崎……」

なにこれ。

正解じゃん。

「何」

「ただ見かけたから一緒に行こっかなって。ねっ?」

香に共感を求められるが、私は正解が分からず、ただ笑い返した。

「別に一人で行くし…」

その言葉に、いつもの威圧感に似た、あの感じは全く無かった。

「良いよ……」

私は我慢出来ず、そのまま龍に抱きついた。

「何が」

「もう、一人で我慢しなくて」

「だから、何が」

いや、いつもの出てきたな。

この、いつもの作ってる龍が。

「大丈夫。私達はどこにも行かない。信じて……」

「もう、もう良いから。離して…」

「嫌だよ。私を、感じてて…」

本心だけど、だからかな。

凄い怪しい人みたいになってる。

別にもうそんな事気にしない。

もう、全てを伝えてしまいたかった。

私達が、思っている事を。

「離せ」

「龍、もう良いんだよ。もう頑張ってきたでしょ?」

「俺は一人が好きなんだよ…」

その言葉に、つい緩む龍を抱く力。

「俺の事は放っといてくれ…」

「それがで……」
「出来なくても」

辛そうな、必死そうな龍の声に、それ以上続けられなかった。

だからこそ、続けなきゃいけなかったのに。

「出来なくてもしろ」

龍の呟くような、辛そうな声に。

遂に龍を離した。

離してしまった。

龍は逃げるようにその場から去る。

「萌?」

「本心に、聞こえた?」

「え?」

「香には、龍のあの言葉、本心に聞こえた?」

それに香は、聞こえたよ、と意外すぎる答えを返した。

「うそ、嘘でしょ?」

「そんな嘘はつかない。私には、あの言葉は確かに本心にも聞こえた」

本心にも。

私に、その言葉の意味をすぐに理解する事は出来なかった。



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