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忘れないで


「おっは〜!」

香の元気な声。

それに言葉ではなく笑顔を返す私。

朝から声など出ません。

「行こっか」

「うん」

今日も平和に学校へ行けると信じ、私は家から離れて行った。

少し歩いた所で、今日も見つける龍の姿。

「龍っ、おはよっ」

当たり前のように返ってこない返事。

もう、慣れたよ。

うん。

「あのさ」

真剣な面持ちで言う龍。

私達もつい足を止める。

「本当に、俺とは関わらないで」

突然、でもないのかもしれないけど、その言葉に何も
返せない私。

「もう、良いから…」

「龍っ、待って!」

これを逃せば、もう二度と言えない、そんな気がした。

「龍っ!」

必死に呼び止めるも、止まってはくれない龍。

「龍っ、行かないで!」

「萌、落ち着いて。学校も、クラスも同じでしょ?」

「香はっ、何でそんなに冷静でいられるの?」

「本心だからだよ」

香のその言葉に再び言葉を失う。

「あれが龍の、坂城龍の願いだからだよ。心からの」

何で、今まであれは本心じゃない、そう言ってくれたのに。

何で急にそうなるの?

私はただ香を見つめた。

「これが、私達に出来る事なんだよ」

嫌だ、信じたくない。

そんな思いで首を振った。

まだ、あるはずでしょ?

私達が、龍に出来る事。

「これが、最後だから。これが、私達に出来る、最後の事」

「力になれるんじゃないの?龍の事、助けられるんじゃないの?香が、香が言ってくれたから、今まで……」

溜まっていたものが溢れ出すように、まとまりのない言葉が溢れていく。

「大丈夫、これが、力になるんだよ。龍にとって」

ゆっくり、落ち着かせるように言う香。

本当、子供みたい。

自分でも思う。

自分の思い通りに行かなければ、思いが届かなければ。

泣く。

泣き叫ぶ。

今まで何度かやった。

しかも、学校でもそんなような事……

思い出すだけで顔が熱い。

けど今は、それよりも龍の事で頭がいっぱいだった。

「嫌だよ、まだ、一緒に……」

「大丈夫。そのうち、後悔して戻ってくっから」

その言葉を、ただ信じる事しかできなかった。

これを疑えば、何も信じられなくなりそうで。

これだけは、信じていたい。

私は頷き、少し休んでから学校へ向かった。

会いにくい、龍も居る学校へ。




深呼吸して教室のドアに手をかける。

そしてそっと開ける。

静かな教室。

誰も居ない。

悲しい程に静かな教室。

「移動、だったかな?」

「かも、しれないね……」

お互い覚えてない。

私達は荷物を片付け、まだ慣れない位置のロッカーに
鞄を入れた。

香とは席が隣だった。

女子と女子が隣になる事はかなり珍しく。

私達は有り難くその席での生活を楽しませてもらってる。

二人で席に突っ伏す。

お互い、龍の事だけで頭をいっぱいにして。

あれが、本音?

本心?

嘘だよね。

違うよね。

そう、また言ってくれるよね。

香。

信じてるよ。

もう泣きそうだった。

悲しい程に静かなこの教室。

その雰囲気もあるだろう。

『お願いだから消えないで』

消えないよ。

けど、龍から消えようとしてるんじゃん。

初めてだったのに。

ここまで人を大切に思ったの。

なのに、何で居なくなるの?

これだからか。

私が、自分の事しか考えられないから。

そんな奴と一緒に居る、それだけで香も巻き添えに。

香には、何て謝ったら良いか……

机に突っ伏しながらここまで色々な事を考えたのは初めてだった。

そして、こんなに涙を流したのも……

<2016/08/22 19:25 秋の空>消しゴム
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