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忘れないで


午後の授業を乗り切り、どこにあるかも分からない彼の
お店へと向かっている私達。

「で?その坂城くんのお店と言うのは?どこにあるの
ですか?」  

「分かんないけど、歩いてれば着くよっ!」

無駄にポジティブな香。

もう私は帰って寝たいよ。

「あれ、名前からしてここじゃない?」

そう言って立ち止まった香の視線の先にあるのは、とても
綺麗な建物だった。

まだ、新しそうな。

「ここ、なのかな?」

「そうなんじゃない?名前も合ってるし、見るからに
お花屋さんっぽいし?まぁ、もうとっくに閉店している
ようだけど」

「萌、本当に興味無いのね」

「そんな事ないけど」

そして伸びをしようとした時、あの、と、あの日に似た
声が聞こえた。

そちらを見れば、確かにあの日の彼が居た。

「あっ、あの時はありがとうございました」

「いえ」

そう言って私達の制服を見た彼の顔つきが変わった。

「あの、ここに何か」

「あ、の、坂城、龍くんですか」

香、もう余計な事しないで帰ろうよ。

凄い緊張してるし。

「だったら?」

明らかに変わる坂城くんの態度。

「はぁ。あと、ここならもうやってないけど」

そう言って家の方へ向かう坂城くん。

「あのっ」

それを止める香。

無意識に、って感じだったけど。

「何」

「が、学校、来ないの?」

「別にあんたらに迷惑掛けてないし」

半分笑ってるように言う坂城くん。

確かにそうなんだけど、キツいね、この人。

そんな事を考える私と、その隣でただ立ち尽くす香を
その場に置いて家の中へと去っていく坂城くん。

「かお、り?」

「あの時と同じだ」

「同じ?」

頷き、続けるように言う香。

「やっぱり坂城くん、入学式は居たよ。結構かっこいい人
だなと思ったんだもん」

言うべき言葉が見当たらなかった。

「か、帰る?」

香は小さく頷いた。

私達は家に向かって歩き出した。

「あんな家なんだね」

普段、お互いの気持ちなんて考えずに会話をする私達も、
これは流石に気を遣う。

「意外と、綺麗だったね。まだ、新しそう、だし……」

異常な程に不自然な私の声。

「私、こっちから帰るね」

「あ、うん。気を付けてね」

はいよ、といつものように応え、手を振ってくれる香。

私はそれを確認した後、下を向いて、自分の歩みと同じ
速さで流れていく地面と、そこに浮かぶ自分の影を眺めていた。

秋の、綺麗で切ない、空の下で。


<2016/08/20 11:23 秋の空>消しゴム
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