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- <赤城 信二> -

 教卓のまえで暑苦しく、自分の学生時代を語っている赤城信二先生は燃えるような赤だろう。
「昔はモテモテでな、バレンタインには数えきれないほどのチョコが靴箱に入っていたもんよ」
ベタな話に飽きて、興味のなんてないのに借りてしまった本をパラパラとめくった。
「田中、パスパス」
「ほいよ」
田中と鈴木が筆箱でキャッチボールをし始めた。中に何が入っているのか、ガチャガチャと音を立て重たそうだ。
「おい、あぶないからやめろよ~」
先生の注意の声に気を取られた、片方の手元が狂い筆箱がこちらに向かってくる。
「え……」
これをよけられるほどの運動神経など僕には存在するわけもなく、次の瞬間目の前が真っ暗になった。
 目を覚ますと、嗅ぎ慣れた匂い。どうやら保健室で寝かされていたようだ。おでこのあたりがズキズキする。ここに直撃したのであろう。
「あら、起きたの?大丈夫?」
保健室の百合香先生が心配そうに聞いてくる。
「もう、大丈夫です」
軽く返事をしつつ、時計を確認するともう7時をまわっている。
「いいんですか。こんなに遅くまで保健室あけてて」
「今日は特別よ。お母さんん来てるわよ」
百合香先生はやれやれと、肩をすくめた。
「どこにいるんですか」
「赤城先生と教育相談室にいると思うわ」
やっぱりだ。何もいわずに保健室をあとに、教育相談室に向かった。
 教育相談室のドアをノックすると、ドタドタと音がして少ししてから、
「入っていいぞ」
と返ってきた。
「おう、元気になったみたいだな」
「はい」
「そうかそうか。まあ、座って」
ゆっくり椅子に腰を下ろし、母に目をやった。少し息づかいが荒く、頬が赤らんでいる。服も少し乱れているようだ。
「大丈夫なの?」
「うん。もう平気だよ」
隠せると思っているのだろうか。僕にもうとっく知っているのに、母が先生と浮気していることぐらい。
「お母さん。今回のことは本当に申し訳ありません。私の不注意で」
「いえいえ、気になさらないでください」
「後で、しっかり注意いたします」
「もう夜遅いですし今日はこの辺で」
「ありがとうございます。今日は時間をとっていただいて」
「こちらこそありがとうございます」
先生と生徒の母親っぽい会話。何のつもりだろう?
「さあ、帰るわよ」
母は、お辞儀をして足早に出て行ってしまった。
「じゃあ、お大事にな!」
先生は、さわやかに手を振る。ふと今日の美術で使った彫刻刀が黒カバンに入っているのを思い出した。
「先生、人を殺すことは悪いことでしょうか」
「……?」
「先生、僕知ってますよ。母以外にも、百合香先生と浮気しているのも」
「な、なんのことだ……」
目が泳ぎ、汗が滲み出した先生の目の前に、彫刻刀を突き出す。
「僕も思うんです。その人が悪者だったら。殺してしまってもいいと」
「やめろ!!!」
先生は一瞬で真っ赤に染まった。
 動かなくなった先生を引きずって家への帰り道を歩いた。少し肌寒いな、帰ったら温かいココアでも飲もう。のんきなことを考えているうちに家の中庭についていた。
「とりあえず隠そう」
周りを見渡す、使わなくなった犬小屋を見つける。
「入るかな?」
押し込んでむると、思った以上にぴたっりなサイズだった。後始末は明日学校から帰ってにしよう。
「あら、帰ってたの。入りなさい身体が冷えるわよ」
「はーい」
 ガチャッ――
「ただいま」
「おかえりなさい」
学校から帰ってくると玄関に鞄を放り投げ、すぐさま中庭に向かった。
「うっ」
あまりの悪臭に思わず鼻をおさえる。原因はもちろん先生の死体だ。犬小屋か先生を引っ張り出してみると、足がちぎれ1本なくなっていた。きっと、野良犬にでも食われたにちがいない。
「さて、どうしよう」
人を殺すのは、初めてでどうしたらいいか分からない。考えこんでいると、冷たい風がほおをかすめた。
「そうだ!」
木の枝や枯れ葉を集め、死体に乗せる。そして、ライターで火をつけた。
「これでよし。温かいな」
澄んだ青空が秋がきたことを告げている。
「あら、何やってるの?」
母が不思議そうにのぞき込んできた。
「焚き木さ」
「いいわね。それより、赤城先生行方不明だって、さっき青木さんがメールをくれたの」
「ふーん」
「本当に残念だわ。いい先生だったのに……」
母は、手首についた赤い跡を恋しそうに見つめた。
「先生はお母さんが愛するような人じゃないのにね」
バチッと音を立てて、炎がひときわ激しく燃え上がった。 

<2016/08/20 11:52 いろは>消しゴム
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