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- <青木 誠也> -

 唐突に本が読みたくなり、図書館に向かった。中学にもなると、図書館を利用している人は少ない。一人、青木誠也が本棚にもたれかかって黙々と分厚い小説を呼んでいる。すらりと伸びた足に整った容姿に立っているだけで絵になる。さらに、運動神経抜群で成績優秀、クラスの委員長だ。澄んだ青色が似合う。
「誠也君、何読んでるの?」
青木のファンクラブの女子たちがわらわらと集まってきた。
「沖積舎の『決定版 富士に立つ影』だ」
一人が本を覗き込み、ぎょっとした顔で言った。
「2128ページ……」
「良かったら、読んでみるか?」
「え!あっ、ありがとう。また、読んどくね」
苦笑いして、女子たちの後ろへ下がっていった。青木は満足そうにニンマリと笑った。
「私、次移動教室だから。」
「私も」
「私もだ!」
次から次へと群がっていた女子がいなくなった後、
「ふう、やっぱり女性の困った顔は美しい。今日もいい出来だ」
と青木は本棚の隙間に隠してあったカメラを眺めながら、目を輝かせる。完璧な委員長の意外な一面。澄んだ青色が濃く深い色になっていくようだ。
 「さて、どうしよう」
部屋の中をぐるぐると徘徊し、頭からアイデアをひねくりだそうと必死に考えこんでいた。なにせ相手には恨みも妬みもない。
「うーん。やりたくないなぁ」
考えがないことはないが、あんまり気がのらない。
「……」
 考えた結果、思いつかなかったためやるはめになったが自分でいうのもなんだが気持ち悪い。鏡には、本物の女性のようになった自分がうつっていた。元々、あんまり運動をしていなかったからか、手足が細く、色白でカツラと化粧をして、ワンピースを着るとあっという間にこれだ。
「はあ、仕方ない」
ため息をつき、少しかかとの高い靴をはく。恐る恐る玄関をでて、青木がよく現れるという繁華街に足を運んだ。
 繁華街を見渡すと、すぐに青木が見つかった。すぐさま、駆け寄って
「わあ、青木先輩ですよね。噂できいてたんですけど、ほんとにイケメンですね」
と話しかけた。無理やり高い声をだしたせいで、声が裏返ってしまった。そんなことは、気にならないようで青木はまんざらでもなさそうに、笑っている。
「どうしたんだい。見かけない子だね」
「私、青木先輩のことがずっと好きで付き合ってくれませんか?」
ちょっと展開が早すぎたかと思ったが、驚きもせず、警戒することもなく、あっさりと断られた。
「ごめんね。僕は一人だけのものにはなれないんだ」
「そうですか……あの、一つだけ聞きたいことがあります。ここでは、なんですので、ちょっときてくれませんか?」
「いいとも、かまわないよ」
青木が素早く、カバンの中のビデオカメラを取り出し背中にかくす。きっと何かを仕掛けてくるつもりだろう。青木を連れて、路地裏へと入った。
「聞きたいことってなんだい?」
「青木セーンパイ!これ、なんですか」
教室に仕込まれていたビデオカメラをまるでマジックを披露するかのようにそれを包んでいたハンカチをひらく。ぞわっと青木が薄い青に染まった。
「なんでそれを……」
「もちろん知ってますよね?ヘンタイセンパイ」
青木の顔は引きつり、死にそうな金魚のように口をパクパクさせている。
「そ、そんなの知らない!!!」
桃色の口紅で彩られた口をへの字にまげ、わざとらしく困ってみせた。
「そうですか……うーん、じゃあ誰のだろう?」
パシャリとシャッタが切られた。
「ふふ、それが先輩の正体ですね」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。いや、誤解だ」
慌てて、カメラを隠すがもう遅い。青木は海の底のように深く暗い青色に変わってゆく。ここまで自分の色を濃くもっているのは、初めてだ。
「このビデオカメラの映像、あなたのブログでアップしときますね。じゃあ、さよなら」
カツラを脱ぎ捨て、化粧をワンピースの袖で拭う。座り込んで動かなくなった青木をおいて、繁華街の中を人目を避けながら足早に駆け抜けた。


<2016/08/22 10:22 いろは>消しゴム
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