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- <黒沢 涼子> -

彼女はたとえようのないぐらい、真っ黒だろう。光一つ見えないほどの漆黒だ。
「お願い、やめて!」
教室の隅、黒沢涼子がいつものように水川さんをいじめていた。黒沢はこのクラスでの絶対権力者。誰もが関わりたくないと、目をつぶっている。僕もその中の一人だ。
「おい、そこのキモイ男子」
ビクッと体を震わせ、恐る恐る振り返る。
「早く来い」
「はい」
「こいつの髪を切れ」
「え……」
水川さんはショートカットでこれ以上切るところなんてない。
「いやだ……たすけて…」
怯えた顔で助けを請う水上さんを押さえつけて、黒沢が叫んだ。
「さっさとしろ!!」
僕を蛇のような、切れ長の目が睨み付ける。
「ごめんなさい」
唇を固く噛みしめ、ハサミを強く握りなおす。水川さんはあきらめたように涙がたまった瞳を静かとじた。ハサミをそっと髪にあて、勢いよく切り落とした。
「いやぁぁぁ!!!」
金切り声が響く、床に散らばったつややかな黒髪。黒沢のだ。
「すみません……すみません……」
小刻みに震える僕の手のひらを水川さんの小さな手のひらが重なる。
「ありがとう」
水川さんが真っ赤に腫れた目を細め、笑った。そっと、水に濡らしたハンカチを水上さんの手に握らせる。
「許さない……覚えていろ……よ……」
床をかきむしるようにして、落ちた髪の毛を拾い。恨めし気に呟き、教室を出て行ってしまった。ここままだと、仕返しされる。脳の危険信号が「殺せ!」と叫んだ。
 フードを深くかぶりなおし、視線を前に向けた。黒沢の後を足音を消し、追う。ショーウインドーを眺めながら、ゆっくりとあるく黒沢はひと目を引く大きな屋敷の前で立ち止まり、
中から出てきたメイドとともに屋敷の中へと消えていった。
「ここがあいつの家……」
きらびやかな豪邸に怖気づいてしまう。”やめといたほうがいいかな”そんな思いをふりはらい。玄関まえにカミソリを仕込んだ手紙と来る途中に拾ったカラスの死体を添えた。誰にも見られていないことを確認して、そっとその場をあとにした。
 部屋にこもり、せわしなくキーボードを叩くと青白く光る液晶画面は、黒沢のありとあらゆる個人情報が映し出す。それを次々に拡散させていく。その作業を繰り返しているうち、まるで自分が機械にでもなったような気がした。でも、少しも苦痛ではなかった。やっとのことで終えると、達成感で自然と笑みがこぼれる。大きく伸びをすると、布団に横になると恐ろしいほどぐっすり眠れた。
 朝、登校してきた黒沢は少しやつれた顔をしていた。
「黒沢さん、大丈夫?顔色が悪いよ」
「昨日の夜。何回も電話がきて眠れなかったの。電話にでても、ずっと無言で」
そういうと、ギロリとこちらをにらんだ。僕は気づかないふりをして、そっぽを向いた。その日はそれ以上なかった。
 次の日、目が充血し、昨日よりさらにやつれていた。
「ど、どうしたの?」
「ちょっと……ね……」
それ以上何も言わず、一日中机に突っ伏して眠っていた。
 その次の日、焦点のあってない瞳に、ぼさぼさの髪。疲労しきっている。
「黒沢さん……?」
友達もかける言葉を失ったようだ。
「保健室行ってくる」
おぼつかない足で教室を出て行った。
 それから、二日後黒沢はこなくなった。それを誰も気にすることなんてなかった、平和な教室に黒沢の居場所はない。
 ある日、誰かもわからないような姿になった黒沢が唐突に登校してきた。自分の席に座り、助けを求めるような眼差しで教室を見渡す。しかし、黒沢に話しかける人は誰一人としていなかった。すっと立ち上がり、黙ったまま、まっすぐにベランダに出る。そして飛び降りたのだった。叫んだ、先生だけが。他は誰も何も言わなかった。まるで黒沢のことが見えていないようかのようにいつもどうりの時間を過ごしている。
「さよなら。真っ黒な心をもった人」
誰かが嘲笑まじりの声で呟いた。そしてすぐに、救急車のサイレンの音にかき消されたのだった。

<2016/08/25 18:50 いろは>消しゴム
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