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- <紫花 陽> -

 一番後ろの窓際で頬杖をついて、外を眺めているのは紫花陽だ。腰まで伸びたつややかな髪が風にゆれ、つややかな指先がそれをなでる。
「やっぱり、綺麗だなー。紫花さんは」
「告ったら?」
「なにいってんだよ。紫花さんみたいな高嶺の花に俺みたいななのがつりあうわけないだろ」
「わかってるよ。冗談だって」
見ての通り、並外れた容姿でクラスでは高嶺の花。誰近づけれない存在だった。紫花さんがふと立ち上がり、こちらに歩いてきて
「今日の放課後、靴箱で待ってて」
と耳打ちをした。耳がとけそうなほど甘い声に思わず息をのんだ。
「えっ……」
紫花さんは少し吊り上がった大きな目を細め、微笑む。全力で自分の頬を殴った。鈍い痛みが走る。夢じゃなかった―――
 放課後の帰り道、紫花さんと二人で並んで歩いていた。
「好き」
「えっ?な、なにを」
もう一回、自分の頬を殴ろうと、腕を振り上げた。
「待って。あなたのことがすきなの。本当よ」
「罰ゲームかなにか……?」
「違う」
いつもあんなに大人びて見える紫花さんがうぶな少女のように赤面して、うつむいている。
「ほんとに僕でいいの」
「そうよ……」
「……」
 しばらくして、古びた教会の前で紫花さんがピタッと足を止めた。
「どうしたの?」
「アーメン」
突然呟くと、紫花さんは祈るように手を組み、教会の鐘へかかげる。すると、正面の扉が音を立てながら開き、黒いマントをかぶった二人組が現れた。
「ようこそいらっしゃいました。話は陽様から聞いております。さあ、中へどうぞ」
言われるままに足を踏み入れると、強烈な死臭と甘ったるい香水の匂いが充満している。段々と意識がもうろうとしてくる、
「ここは……な……」
言い終わる前に目の前が真っ白になった。
 「起きてください!」
まだくらくらする意識のなか目をそっと開いた。目の前には必死になって僕を心配する水川さんの姿がうつった。僕は冷たくひどく硬い台に寝かされていた寝かされていたらしい。
「どうしてここに?」
「あとで話すから、早く逃げよう」
走るのが苦手なはずなのに、僕の手を引き走る姿が心の中にある何かをくすぐった。
「私もここに連れてこられたの。急に後ろから、何かで殴られて」
「そうなの!大丈夫」
「うん。なんとかね」
今、初めて水川さんの後ろ髪が赤く濡れていることに気づいた。
「なんで逃げるの?」
教会で嗅いだ甘ったるい匂いが鼻をかすめる。目の前には黒いマントに身を包んだ紫花さんが立っていた。
「僕に何をするつもりですか」
「ひどいわ、あなたを愛していたのに……いけにえとして、だけど……」
恋心が殺意に変わった。こうなると、自分でも止めれなくなるのを知っている。
「ねえ、どうしたの」
僕の様子の変化に気づいた水川さんが怯えた顔で後ずさった。も道路に落ちたレンガを拾い上げ、まるで、自分ではないような素早さで紫花の後ろにまわっていた。レンガを振り上げた瞬間、
「だめ!」
水川さんが飛び出きた。それでも、止まらない僕の腕を恨んだ。
「避けて」
「嫌だ」
ゴッと鈍い音がして、目の前が赤く染まる。何が起こったかわからないまま立ちすくんでいる紫花を突き飛ばし、崩れ落ちた水川さんに駆け寄った。
「水川さん……」
「大丈夫だから……」
「嘘だ、こんなに血が」
「慣れてるの」
ぐったりと垂れた腕の無数のあざと傷跡を見たとたん、涙が止まらなくなった。
 その後、血だらけの僕らをみた近所の人により警察と救急車が呼ばれた。警察に教会のことを話すと、すぐに捜査が行われ、過激派の宗教団体だと判明。警察が教会の取り壊しをおこなうといると、紫花さんは教会の廃墟のいすわり、出てこなくなった。僕は横目でテレビにうつった暗い紫に染り、髪の長い女の像にしがみつく少女を眺める。もう、前のような美しさは少しも残っていなかった……

<2016/08/27 14:21 いろは>消しゴム
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