昼休み。中庭の花壇の前で鼻歌を歌いながら、木ノ下さんが水をやっている。それを廊下の窓からただボーと眺めていた。
「いつも水やりして偉いわね。何を育ててる……の……!?」
生徒のファイルなどを運んでいた先生が足を止めて花壇を覗き込み、ぎょっとした顔になる。
「食虫植物たちです。かわいいくてしかたないんです」
木ノ下は嬉しそうにニコニコ笑った。
「へえ、かわいいわね」
先生がぎこちない様子で褒めるといっそう顔を輝かせ、
「見てください!!」
と二枚貝のようなはを開いて今か今かと待ちわびてる植物にコオロギを与えた。いつもそよ風に揺れる、そこらへんの植物とは比べものにならないスピードでコオロギを捕食する。
「す、すごいわね……じゃあ、私資料まとめなきゃいけないの」
苦笑いを浮かべて、先生はそそくさと逃げていった。木ノ下は植物たちと目線を合わせるようにしゃがむと、恋人と接するかのように話しかけた。
「ひどいね。あなたはこんなにもかわいいのに……ん?まだ足りないの分かった」
ぱっと立ち上がり、急いでどこかへとかけて行った。
あれから、木ノ下さんを見かけていない。授業にも出てきていないが、荷物は置きっぱなしだ。木ノ下さんは理科が好きなただの女の子で今のところ興味を惹かれることはとくにない。体調でも崩して、保健室にいるのだろう。
「どうしよう。愛しい子たちが待ってるのに食料がこれだけしか手に入らなかった……」
生物室から聞き覚えのある声が聞こえた。最終下校時刻はもうすぎている。不思議に思って、中に入ると誰もいなかった。
「おかしいな」
周りを見渡すと、2時間目に来た時にはなかったものが転がっていることに気づいた。、大小さまざまな動物の死体、そして、まな板と包丁、ミキサーなどの調理器具が
「なんで、こんなところに?」
もっと近くで見ようと、かがみこんだ瞬間。背中でカタッと物音がして、小さな手が僕の首を絞めた。
「うっ、ぐぅ……」
「これじゃ、もの足りないかも。まいっか」
視界がぼやける中、背後に目をやった。木ノ下さんの笑顔がうつり、それを最後に意識を失った。
異常な吐き気に襲われ、目を覚ました。
「起きたんだね。寝てたほうが楽なのに」
白衣に身を包んだ木ノ下さんが微笑んだ。右手に注射器を持っている。
「それを僕に?」
「そうだよ!これは私が開発した、筋肉と臓器をほんの数分で脂肪かえる薬。でもね、副作用で吐き気、手足が麻痺したりするんだ」
吐き気を抑えながら、いうことを聞かなくなった身体を問いかけた。どうしたら、生き延びれる?答えはすぐ帰ってきた。”殺せ”
「緑色は好き?植物たちは?」
「もちろん、大好きだよ」
「そっか」
今、木ノ下さんと話しているのは僕じゃなかった。興奮のために顔が赤く輝き、斧を斜め上から叩き込むような、そんな蹴りを入れた。木ノ下さんはくたっと倒れ、頭を抱えうずくまった。そして、勢いよく、起き上がると棚のマッチを片手に生物から飛び出した。
花壇の前に立つ僕を木ノ下さんは窓にふらつく体をまかせ、必死に止めようと叫ぶ。
「いや……うぅ……だめ!!やめてよ!!!」
木ノ下さんの絞り出すような訴えを無視したまま、マッチを擦った。
「ねえ、解毒剤はどこ」
「私の机の中!お願い、やめて」
身を乗り出したひょうしに手が滑り、木ノ下さんは窓から放りだされる。木ノ下さんに下敷きになった愛しの植物たちは悲鳴を上げ、一瞬にして跡形もなくぐしゃぐしゃになった。
「うそ……」
「君が潰したんだ。でも、よかったね。おかげで、死なずに済んだ」
「うぁぁぁ……」
植物たちに触れる血だらけの指先から緑色に染まり、植物たちと同化していく
「色に染まりゆくこの瞬間はいつみても綺麗だ」
うっとりと眺めていると、
「やっぱり、君だった」
と澄んだ柔らかな声が僕の理性の手を引いた。ふと意識が遠のき、僕は僕に戻った。
「水川さん……」
我に返ると、水川さんは涙をためた瞳でこちらをにらんでいた。
「陽ちゃんをレンガで殴ろうとした、あなたの殺意を込めた白く濁った瞳をみた日から、気づきました。今まで、大切なクラスメイトを消していたのはあなただと」
「違うんだ。僕じゃない、信じてほしい」
「嘘です。だって、さっきも緑ちゃんを殺そうと」
「してないよ。ほんとに……」
この人には嫌われたくない、と心が騒ぐ。抑えきれない気持ちは涙となってあふれ出た。
「……ごめんなさい。な、泣かないで」
水川さんはその場に座り込み、子供のように泣く僕に申し訳なさそうにハンカチを差し出した。そして、ゆっくり僕の隣に腰を下すとポツリポツリと話し出した。
「私ね。人の色が見えるの」
「え?」
「きっと信じてもらえないよ思うけど―――」
「いつも水やりして偉いわね。何を育ててる……の……!?」
生徒のファイルなどを運んでいた先生が足を止めて花壇を覗き込み、ぎょっとした顔になる。
「食虫植物たちです。かわいいくてしかたないんです」
木ノ下は嬉しそうにニコニコ笑った。
「へえ、かわいいわね」
先生がぎこちない様子で褒めるといっそう顔を輝かせ、
「見てください!!」
と二枚貝のようなはを開いて今か今かと待ちわびてる植物にコオロギを与えた。いつもそよ風に揺れる、そこらへんの植物とは比べものにならないスピードでコオロギを捕食する。
「す、すごいわね……じゃあ、私資料まとめなきゃいけないの」
苦笑いを浮かべて、先生はそそくさと逃げていった。木ノ下は植物たちと目線を合わせるようにしゃがむと、恋人と接するかのように話しかけた。
「ひどいね。あなたはこんなにもかわいいのに……ん?まだ足りないの分かった」
ぱっと立ち上がり、急いでどこかへとかけて行った。
あれから、木ノ下さんを見かけていない。授業にも出てきていないが、荷物は置きっぱなしだ。木ノ下さんは理科が好きなただの女の子で今のところ興味を惹かれることはとくにない。体調でも崩して、保健室にいるのだろう。
「どうしよう。愛しい子たちが待ってるのに食料がこれだけしか手に入らなかった……」
生物室から聞き覚えのある声が聞こえた。最終下校時刻はもうすぎている。不思議に思って、中に入ると誰もいなかった。
「おかしいな」
周りを見渡すと、2時間目に来た時にはなかったものが転がっていることに気づいた。、大小さまざまな動物の死体、そして、まな板と包丁、ミキサーなどの調理器具が
「なんで、こんなところに?」
もっと近くで見ようと、かがみこんだ瞬間。背中でカタッと物音がして、小さな手が僕の首を絞めた。
「うっ、ぐぅ……」
「これじゃ、もの足りないかも。まいっか」
視界がぼやける中、背後に目をやった。木ノ下さんの笑顔がうつり、それを最後に意識を失った。
異常な吐き気に襲われ、目を覚ました。
「起きたんだね。寝てたほうが楽なのに」
白衣に身を包んだ木ノ下さんが微笑んだ。右手に注射器を持っている。
「それを僕に?」
「そうだよ!これは私が開発した、筋肉と臓器をほんの数分で脂肪かえる薬。でもね、副作用で吐き気、手足が麻痺したりするんだ」
吐き気を抑えながら、いうことを聞かなくなった身体を問いかけた。どうしたら、生き延びれる?答えはすぐ帰ってきた。”殺せ”
「緑色は好き?植物たちは?」
「もちろん、大好きだよ」
「そっか」
今、木ノ下さんと話しているのは僕じゃなかった。興奮のために顔が赤く輝き、斧を斜め上から叩き込むような、そんな蹴りを入れた。木ノ下さんはくたっと倒れ、頭を抱えうずくまった。そして、勢いよく、起き上がると棚のマッチを片手に生物から飛び出した。
花壇の前に立つ僕を木ノ下さんは窓にふらつく体をまかせ、必死に止めようと叫ぶ。
「いや……うぅ……だめ!!やめてよ!!!」
木ノ下さんの絞り出すような訴えを無視したまま、マッチを擦った。
「ねえ、解毒剤はどこ」
「私の机の中!お願い、やめて」
身を乗り出したひょうしに手が滑り、木ノ下さんは窓から放りだされる。木ノ下さんに下敷きになった愛しの植物たちは悲鳴を上げ、一瞬にして跡形もなくぐしゃぐしゃになった。
「うそ……」
「君が潰したんだ。でも、よかったね。おかげで、死なずに済んだ」
「うぁぁぁ……」
植物たちに触れる血だらけの指先から緑色に染まり、植物たちと同化していく
「色に染まりゆくこの瞬間はいつみても綺麗だ」
うっとりと眺めていると、
「やっぱり、君だった」
と澄んだ柔らかな声が僕の理性の手を引いた。ふと意識が遠のき、僕は僕に戻った。
「水川さん……」
我に返ると、水川さんは涙をためた瞳でこちらをにらんでいた。
「陽ちゃんをレンガで殴ろうとした、あなたの殺意を込めた白く濁った瞳をみた日から、気づきました。今まで、大切なクラスメイトを消していたのはあなただと」
「違うんだ。僕じゃない、信じてほしい」
「嘘です。だって、さっきも緑ちゃんを殺そうと」
「してないよ。ほんとに……」
この人には嫌われたくない、と心が騒ぐ。抑えきれない気持ちは涙となってあふれ出た。
「……ごめんなさい。な、泣かないで」
水川さんはその場に座り込み、子供のように泣く僕に申し訳なさそうにハンカチを差し出した。そして、ゆっくり僕の隣に腰を下すとポツリポツリと話し出した。
「私ね。人の色が見えるの」
「え?」
「きっと信じてもらえないよ思うけど―――」
