ベッドに仰向けに寝転がり、自分の手のひらを見つめた。昨日の水川さんのことが頭から離れない―――
「あのね、私。人の色が見えるんだ。本気で人を殺そうとしている人ほど鮮やかに染まるの。それは、息をのむほど綺麗で…… 」
そう言って、泣きそうな顔で笑った。僕は恐る恐る自分をきつく縛っていたなにかをほどき、口を開いた。
「僕もそうなんだ」
恐る恐る水川さんの顔を見る。目が合う。
「知ってるよ」
あどけない微笑みとともに僕の思いもしなかった返事が返ってきた。
「え?」
「だって、君は私と同じ目をしてる。好奇心にむしばまれて、まぶしいくらいに輝かせてるんだ」
水川さんの澄んだ湖のような瞳の奥が白く濁った気がした。大きく深呼吸をして、
「でも、君は怯えてるんだ」
とまっすぐと言った。胸がざわめき、意識の半分が姿を消した。なんで……
「ごめん。今すぐ逃げて……」
でも、身体が”行かないで””助けて”と手を伸ばしている。
「大丈夫だから。負けないで」
その手を水川さんは握りしめ、どろどろとした闇の中から引っ張り出してくれた。
「負けたくない!!!」
僕は水川さんの手を強く握り返した。その瞬間に僕は僕に戻る。荒い息づかいのまま水川さんを見つめた。
「君は君自身に怯えていたんだ。ほら、もう怖くないよ」
水川さんの触れたところから透明に澄んでいく。僕も水川さんの頬に触れる。頬から首筋に伸びる痛々しい傷跡に思わず、
「水川さんもなんだね」
といっちゃいけないと思っていた一言が零れ落ちる。口を固く結んで、水川さんは下を向いた。
「僕に話してくれないかな?」
驚いた顔で僕を見た。強くうなずいて見せる。
「ありがとう。でも、君にはまだ話したくない。ごめんなさい」
そういって僕に背を向け、走って行ってしまう。そんな水川さんを止めるすべを僕は知らなかった。
ため息ををついて、もう一度手のひらを見かえす。透明に染まっていた身体は曇りガラスのように白く濁っていた。
「僕はだめみたいだ。水川さんみたいに綺麗にはなれないよ……」
僕はいつからこうなってしまった?頭の中を探ったが、幼い時の記憶はひどく曖昧で思い出すことは困難だった。
「僕の色はなに」
おもむろに立ち上がり、洗面所に向かった。長いこと掃除してない鏡は薄汚れている。鏡を睨み付ける、何の個性もない自分がうつっていた。たとえるなら白色。雪とか、雲とかのそんな綺麗な白じゃない。限りなく灰色に近い、ほこりのような色。
「汚い色だな」」
一瞬、鏡にもう一人の僕がうつった。薄気味悪い微笑みを浮かべ、手招きしている。
「はは、あはははは」
笑いが込み上げてきた。心の底から笑いながら、鏡を殴りつける。
「負けないで」
水川さんの声がふと頭をよぎる。
「大丈夫。僕はもう負けないよ」
それに答えるように力強く呟いた。鏡の中にいたもう一人の僕は音もたてずに消えていた……
「あのね、私。人の色が見えるんだ。本気で人を殺そうとしている人ほど鮮やかに染まるの。それは、息をのむほど綺麗で…… 」
そう言って、泣きそうな顔で笑った。僕は恐る恐る自分をきつく縛っていたなにかをほどき、口を開いた。
「僕もそうなんだ」
恐る恐る水川さんの顔を見る。目が合う。
「知ってるよ」
あどけない微笑みとともに僕の思いもしなかった返事が返ってきた。
「え?」
「だって、君は私と同じ目をしてる。好奇心にむしばまれて、まぶしいくらいに輝かせてるんだ」
水川さんの澄んだ湖のような瞳の奥が白く濁った気がした。大きく深呼吸をして、
「でも、君は怯えてるんだ」
とまっすぐと言った。胸がざわめき、意識の半分が姿を消した。なんで……
「ごめん。今すぐ逃げて……」
でも、身体が”行かないで””助けて”と手を伸ばしている。
「大丈夫だから。負けないで」
その手を水川さんは握りしめ、どろどろとした闇の中から引っ張り出してくれた。
「負けたくない!!!」
僕は水川さんの手を強く握り返した。その瞬間に僕は僕に戻る。荒い息づかいのまま水川さんを見つめた。
「君は君自身に怯えていたんだ。ほら、もう怖くないよ」
水川さんの触れたところから透明に澄んでいく。僕も水川さんの頬に触れる。頬から首筋に伸びる痛々しい傷跡に思わず、
「水川さんもなんだね」
といっちゃいけないと思っていた一言が零れ落ちる。口を固く結んで、水川さんは下を向いた。
「僕に話してくれないかな?」
驚いた顔で僕を見た。強くうなずいて見せる。
「ありがとう。でも、君にはまだ話したくない。ごめんなさい」
そういって僕に背を向け、走って行ってしまう。そんな水川さんを止めるすべを僕は知らなかった。
ため息ををついて、もう一度手のひらを見かえす。透明に染まっていた身体は曇りガラスのように白く濁っていた。
「僕はだめみたいだ。水川さんみたいに綺麗にはなれないよ……」
僕はいつからこうなってしまった?頭の中を探ったが、幼い時の記憶はひどく曖昧で思い出すことは困難だった。
「僕の色はなに」
おもむろに立ち上がり、洗面所に向かった。長いこと掃除してない鏡は薄汚れている。鏡を睨み付ける、何の個性もない自分がうつっていた。たとえるなら白色。雪とか、雲とかのそんな綺麗な白じゃない。限りなく灰色に近い、ほこりのような色。
「汚い色だな」」
一瞬、鏡にもう一人の僕がうつった。薄気味悪い微笑みを浮かべ、手招きしている。
「はは、あはははは」
笑いが込み上げてきた。心の底から笑いながら、鏡を殴りつける。
「負けないで」
水川さんの声がふと頭をよぎる。
「大丈夫。僕はもう負けないよ」
それに答えるように力強く呟いた。鏡の中にいたもう一人の僕は音もたてずに消えていた……
