最終下校の音楽がなり、読んでいた本を静かに閉じる。大きく伸びをして、教室を見渡すと水川さんの机にポツンと残されたノートに気づいた。
「忘れもの?」
何の気になしに、ノートをめくった。
7月6日
今日、可憐ちゃんが学校に来ませんでした。風邪かな?心配です。お見舞いに行こうと思います。
7月7日
今日、お見舞いに行ったら、可憐ちゃんの様子が変でした。布団にくるまり、目がうつろで小刻みに震えていました。どうしたのって聞くと「襲われた」と言いました。このときの可憐ちゃんの怯えた顔が忘れられなくなりました。
7月8日
今日、男子たちがふざけて筆箱を投げあいをしていて、本を読んでいた男の子に当たってしまいました。当たり所が悪かったらしく、倒れていました。私はその男子を背負って保健室に連れて行ってあげました。思った以上に軽くってびっくりです。先生も心配そうにその男の子のお母さんに電話をしていました。
7月9日
今日、先生が学校に来ませんでした。いつもあんなに元気で学校を休んだことがない先生なのに、どうしたんだろう?すると、ホームルームで先生が行方不明になったと言われました。昨日からおうちに帰ってないそうです。最近、怖いニュースを聞くので心配です。
このノートはどうやら日記のようだ。
「おい、もう最終下校過ぎてるぞ。早く帰れー」
学年主任が入ってくる。僕は慌てて、水川さんの日記をカバンにしまって学校をあとにした。
家に帰って、自分の部屋にこもると、水川さんの日記を開いて再び読み始めた。
7月10日
今日、黄島君が私の好きなお笑い芸人のネタをしてくれました。面白くって、笑いが止まらなくなってしまいました。でも、クラスメイトのことをネタにするのはいけないなーとおもいます。しかも、髪まで切ってしまうなんてひどいです。
7月11日
今日、黄島君が学校に来ませんでした。連続登校記録に挑戦してるのにいいのかな?
7月12日
今日の朝、黄島君が水死体で見つかったと新しい担任の先生から教えてもらいました。黄島君がいなくなると、クラスが少し静かになりました。さみしいです。
めくるごとにクラスメイトへの愛情が罪悪感にさいなまれそうになる。パらぱらとめくっていくと、黒く塗りつぶされたページを見つけた。光に透かしてみると、赤鉛筆でぎっしりと書れた”死にたい”の文字が生々しく浮かび上がった。
「なんで……」
その後も塗りつぶされたページは何枚もあった。どれも切羽詰まった悲痛な叫びばかりだ。
最後のページをめくった。なぜか、血がこびりつき汚れている。水川さんの癖のある丸文字がところどころ水に濡れたようににじんでいた。
7月20日
今日、父を殺した。これから私も屋上を飛び降りようと思う……。もし、これを君が見ているのだったら私の全部を君に知ってもらいたい。
私の物心つく前にお母さんは自殺した、もともと精神的に弱い人だったみたいでお父さんのつくった借金と近所づきあいがうまくいかなかったことで原因死んでしまった。父は夜な夜な知らない女の人とどこかにいって、遊びほうけていた。酔って帰ってくると必ず、私を殴るの「こぶもちは要らないんだってよ。お前のせいだ!!」と言いながら。ときには焼酎の瓶で頭から殴られることもあった。ある日、父が赤紫に染まるようになった。それがあんまりも綺麗でつい口元が緩んで、それを見た父は顔を真っ赤にして、包丁で髪を切り落とし、頬を切り付けてきた。恐ろしかった。思い出すだけで震えが止まらなくなる。ねえ、私はいらない子だったのかな。私は憎かった父を殺した。これは間違っていることなの。君だったらどうする?
大好きだったよ。さようなら……
気づくと、学校への道を無我夢中に走っていた。間に合わないのは分かっている。けど、もしできることなら水川さんの涙をぬぐい、抱きしめたい。夜に染まった学校は薄気味悪く、僕の足を鉛のように重たくさせた。それでも、屋上へ必死に足を進めた。
「水川さん!!」
屋上に飛び出し、周りを見渡した。いない……。柵にしがみつき、体を乗り出した。
「嘘だ……」
真下に赤い水たまりにショートカットの少女が倒れていた。横には背中に包丁が突き立てられた男の人も倒れている。殺した後、一緒に飛び降りたのだろう。正真正銘、水川誠の死体だ。足元には手紙が一通、僕よりひと回りも小さい靴と並んでいた。
「うぅぅ……なんで……」
水川さんの優しい丸文字に涙がぐっとこみ上げ声を詰まらせる。
これを読んでくれているということは、来てくれたんだね。ありがとう。もし許されるなら、君と死にたかった。暗くて、狭い感情に押しつぶられそうで苦しいよ。ねえ、こっちに来て、寂しいよ……
手紙を静かに閉じると、ぎゅっと握りしめた。
「大丈夫。僕も今すぐに行くから」
柵を乗り越え、下を見下ろした。思わず足がすくんだ。なかなか体が思うように動いてくれない。この柵から手を放して、飛べばいいだけなのに。
「こ、怖いよ」
ふと人の気配を感じ振り返ると、水川さんが立っていた。体中べっとりと血で汚し、ニコニコと笑っていた。
「えへへ、怖くて死ねなかった。もう少しあなたと生きていたくって」
「よかった。」
ホッとすると、ずっとこらえていた涙が止まらなくなった。
「泣かないで。」
いつもの優しい水川さんのはずなのに違和感を覚えた。水川さんがいたずらに成功した子供のように輝くように笑った。
「嘘だよ」
「……?」
「私は君をこの手で染めるために待っていたの」
水川さんの手が僕の背中に触れる。
「さよなら」
耳もとで甘くささやいた。
「嫌だ!!うあぁぁぁぁ!」
落ちていく、雪のように白く染まるのをこの身に感じる。こんなにも綺麗に染まったのは初めてだ。次の瞬間、すべてが僕から消えた。
「忘れもの?」
何の気になしに、ノートをめくった。
7月6日
今日、可憐ちゃんが学校に来ませんでした。風邪かな?心配です。お見舞いに行こうと思います。
7月7日
今日、お見舞いに行ったら、可憐ちゃんの様子が変でした。布団にくるまり、目がうつろで小刻みに震えていました。どうしたのって聞くと「襲われた」と言いました。このときの可憐ちゃんの怯えた顔が忘れられなくなりました。
7月8日
今日、男子たちがふざけて筆箱を投げあいをしていて、本を読んでいた男の子に当たってしまいました。当たり所が悪かったらしく、倒れていました。私はその男子を背負って保健室に連れて行ってあげました。思った以上に軽くってびっくりです。先生も心配そうにその男の子のお母さんに電話をしていました。
7月9日
今日、先生が学校に来ませんでした。いつもあんなに元気で学校を休んだことがない先生なのに、どうしたんだろう?すると、ホームルームで先生が行方不明になったと言われました。昨日からおうちに帰ってないそうです。最近、怖いニュースを聞くので心配です。
このノートはどうやら日記のようだ。
「おい、もう最終下校過ぎてるぞ。早く帰れー」
学年主任が入ってくる。僕は慌てて、水川さんの日記をカバンにしまって学校をあとにした。
家に帰って、自分の部屋にこもると、水川さんの日記を開いて再び読み始めた。
7月10日
今日、黄島君が私の好きなお笑い芸人のネタをしてくれました。面白くって、笑いが止まらなくなってしまいました。でも、クラスメイトのことをネタにするのはいけないなーとおもいます。しかも、髪まで切ってしまうなんてひどいです。
7月11日
今日、黄島君が学校に来ませんでした。連続登校記録に挑戦してるのにいいのかな?
7月12日
今日の朝、黄島君が水死体で見つかったと新しい担任の先生から教えてもらいました。黄島君がいなくなると、クラスが少し静かになりました。さみしいです。
めくるごとにクラスメイトへの愛情が罪悪感にさいなまれそうになる。パらぱらとめくっていくと、黒く塗りつぶされたページを見つけた。光に透かしてみると、赤鉛筆でぎっしりと書れた”死にたい”の文字が生々しく浮かび上がった。
「なんで……」
その後も塗りつぶされたページは何枚もあった。どれも切羽詰まった悲痛な叫びばかりだ。
最後のページをめくった。なぜか、血がこびりつき汚れている。水川さんの癖のある丸文字がところどころ水に濡れたようににじんでいた。
7月20日
今日、父を殺した。これから私も屋上を飛び降りようと思う……。もし、これを君が見ているのだったら私の全部を君に知ってもらいたい。
私の物心つく前にお母さんは自殺した、もともと精神的に弱い人だったみたいでお父さんのつくった借金と近所づきあいがうまくいかなかったことで原因死んでしまった。父は夜な夜な知らない女の人とどこかにいって、遊びほうけていた。酔って帰ってくると必ず、私を殴るの「こぶもちは要らないんだってよ。お前のせいだ!!」と言いながら。ときには焼酎の瓶で頭から殴られることもあった。ある日、父が赤紫に染まるようになった。それがあんまりも綺麗でつい口元が緩んで、それを見た父は顔を真っ赤にして、包丁で髪を切り落とし、頬を切り付けてきた。恐ろしかった。思い出すだけで震えが止まらなくなる。ねえ、私はいらない子だったのかな。私は憎かった父を殺した。これは間違っていることなの。君だったらどうする?
大好きだったよ。さようなら……
気づくと、学校への道を無我夢中に走っていた。間に合わないのは分かっている。けど、もしできることなら水川さんの涙をぬぐい、抱きしめたい。夜に染まった学校は薄気味悪く、僕の足を鉛のように重たくさせた。それでも、屋上へ必死に足を進めた。
「水川さん!!」
屋上に飛び出し、周りを見渡した。いない……。柵にしがみつき、体を乗り出した。
「嘘だ……」
真下に赤い水たまりにショートカットの少女が倒れていた。横には背中に包丁が突き立てられた男の人も倒れている。殺した後、一緒に飛び降りたのだろう。正真正銘、水川誠の死体だ。足元には手紙が一通、僕よりひと回りも小さい靴と並んでいた。
「うぅぅ……なんで……」
水川さんの優しい丸文字に涙がぐっとこみ上げ声を詰まらせる。
これを読んでくれているということは、来てくれたんだね。ありがとう。もし許されるなら、君と死にたかった。暗くて、狭い感情に押しつぶられそうで苦しいよ。ねえ、こっちに来て、寂しいよ……
手紙を静かに閉じると、ぎゅっと握りしめた。
「大丈夫。僕も今すぐに行くから」
柵を乗り越え、下を見下ろした。思わず足がすくんだ。なかなか体が思うように動いてくれない。この柵から手を放して、飛べばいいだけなのに。
「こ、怖いよ」
ふと人の気配を感じ振り返ると、水川さんが立っていた。体中べっとりと血で汚し、ニコニコと笑っていた。
「えへへ、怖くて死ねなかった。もう少しあなたと生きていたくって」
「よかった。」
ホッとすると、ずっとこらえていた涙が止まらなくなった。
「泣かないで。」
いつもの優しい水川さんのはずなのに違和感を覚えた。水川さんがいたずらに成功した子供のように輝くように笑った。
「嘘だよ」
「……?」
「私は君をこの手で染めるために待っていたの」
水川さんの手が僕の背中に触れる。
「さよなら」
耳もとで甘くささやいた。
「嫌だ!!うあぁぁぁぁ!」
落ちていく、雪のように白く染まるのをこの身に感じる。こんなにも綺麗に染まったのは初めてだ。次の瞬間、すべてが僕から消えた。
