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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第七話ー自宅・バイト先ーempty days -

光が点滅している。
視界が…眩んで……。
目の前のスクリーンが影に侵食されて、色が戻って、侵食されての攻防を繰り広げている。
その内に、目の前が真っ暗闇に閉ざされた。
まるで宙にでも浮いているかのような感覚。
手も足も何の感覚もない。五感の全てを失った。
ああ…なのに…どうしてまだ思考をする事が出来るんだ…。精神だけが身体から弾かれて、まるで人間としての思考と動作の連動がぷっつりと切れたみたいだ。
…もう自分でもこの状況に対して判断を下す事も出来なくなってきた。今の状態に対して、どうにかしようという気持ちが湧き上がらない。ただただ浮遊している。思考から自我までが疎外されたか……。
一体、一体何が起きているというんだ…。危機感を覚えるのにどうして何もしようとしないんだ…。
……もしかして…今までの堕落した生活…まともに社会的な人間として生きてこようとしなかったツケがここで回ってきたってのかよ…。
そんな後悔も今となってはどうしようも無いか…。

「本当に、呆れちゃうよ…。こんな所で落ちてしまうなんて」

誰だ…? 俺がどうなったのか知っているなら、教えてくれよ。

「しょうがないね、私がちょっとした手助けをしてあげよう! 外にいる人に声をかけてあげるよ」

………待てよ、誰なんだよ。

「じゃーねー。次こそは誰か頼れる人を探してみてよ。……もちろん、君が赤の他人を信じられるかどうかだけど……」

……暗闇に、光が現れる。
最後に自分が放った言葉は光に掻き消された。


*


声が聞こえた。名前を呼ばれている。
ゆっくりと意識を集中させようを思ったら、背中をバンと叩かれて現世に連れ戻される。

「……くん! …篠村くん! バイト中に居眠りは厳禁!」
「うわぁはいぃ⁉︎」
「ほら、客が来てるよ。接客して」

どうやら居眠りをしていたらしい。
奇妙な夢を見ていたような気がするが、全く思い出せない。まぁ、思い出した所ですぐに忘れる。
昨日の事があった翌日だ。引きこもりにとって、いや普通の人から見ても尋常じゃ無い量のイベントの多さだった。疲れるし、眠たいのは当たり前のことだろう。
しかも、朝から人員が足りていないという散々な状態だ。客はそれほどでも無いが、流石に連続しての客対応は辛い。
今朝から、フードコートに設置してあった給水機は全て撤去された。そのせいか、フードコートにたむろしているグループも少ない。水の代わりの飲み物ついでに昼食を買っていく人達もいる。

「ありがとうございましたー」

また顔も知らない人が前を横切っていく。
カイリは昨日の事があってか、俺が起きた後に布団から顔を出して(良い加減俺の布団で寝るのをやめてほしい)、少しの間考えた後に「もうちょっと寝てるよ」と言って再び布団を被った。おのれただの浮遊体のくせに睡眠欲求だけはあるとかほんと何なんですか羨ましいです(泣き顔)。仮にも引きこもりの前で一日中寝てる宣告なんて誘惑以外の何物でも無い。俺だってバイトさえ無ければ一日中寝ていたいのだ。

「……えーっと、ダブルツナチーズバーガーセットのお客様ー」

商品名これであってたっけ。
とりあえず具がツナって事は合ってるから良しとする。
すると案の定注文したらしい客が受け取りに来た。

「あーはいはい俺っす。どうもー」

…………………。
…………………あれ。
なんか聞き覚えがある声だな。
客の顔は見ずに接客を信条(誇れることじゃ無い)にしているのにも関わらず、思わず顔を上げて客の顔を見てしまった。
そこにいたのは自分よりも愛想が良くて良くできる後輩。

「って安市⁉︎ なんでお前がそっち側に⁉︎」
「ん? ああ、大丈夫っすよ。これ食べたらすぐに手伝うんで。今日10時に起きて直行して来たから朝飯まだなんすよ」
「……お…おう」

やはり今日も遅刻した安市はそれがどれだけやばいことなのかを自覚せずテーブルの一つに腰掛けた。食べたらとかそれは問題じゃねえから。
全ては客の中に食料に飢えたハイエナの様に、若い青年に飢えたおばさんというフャンが存在するからで。そしてそのファン達がこの店の売り上げの大部分を占めているからで、切るに切れない状態なのだ。しかし切ったら切ったで収入云々は別の話として人手が足りなくなる。取り敢えず戦力としては申し分無い。
客席に座る安市は、店内にいる時よりも大分大人びた印象を受ける。服装がちゃんとしているからかもしれない。いやむしろ私服の方が格好良いと思う。

「……ちょっと学生さん、今日はあの子いないの?」
「……え、ああっと。今はいないっすね」
「あらそう、ならサイダーを一つお願い」

おい目的の人がいないからって一番安い商品にするんじゃ無い。
それに最近知ったぞ。久茂先輩に声かける時は「お兄さん」で、十秋先輩の時は「お姉さん」で、安市の時は「安市くん」で、俺だけ「学生さん」なのを。
接客態度悪いのは自覚しているけど、直そうとは思わない。だってまだ俺がおばさんの中の声をかける対象に含まれているだけマシだし。
気付くと徐々に人が増えてきたようだ。早く安市が入ってくれるのを祈る。
おばさんは今日会えない寂しさに打ちひしがれているようで相手が俺なのに未練を口にする。

「今日は渡したいものがあったんだけどね、しょうがないわ」
「へ、へぇー。そうなんすか」

軽く愛想笑いをする。
今度はラブレターじゃなくてプレゼントかよ。あんたの愛する王子様は背後でブレイクファースト中だ。
心の中でそう唱える。
その後からは落ち込んだおばさんが連続で来てこっちの気が滅入りそうになる状態が続いた。途中、小さい女の子が「ポテトください! ポテト‼︎」とはしゃいでいるのを見て子供って無条件で可愛いんだなと思ってしまった。……落ち込んでるおばさんと比較して。俺はロリコンじゃないから。
人ではなくちゃんと商品目当てで来店してくれるところが可愛いと思う。そしてそれを美味しそうに口にするのが。うんロリコンじゃないよね。自分でもわからなくなってきた。

「お疲れ様です」
「ああ、おつかれー」

久茂先輩に挨拶してロッカーを目指す。
ドアを開けようとすると、後ろから襟を掴まれ一瞬呼吸が止まる。
振り返ると、一部寝癖が目立つ十秋先輩がいた。昨日の今日なので少し身構える。

「……篠村くん」
「……はい」
「……お疲れ」
「……お疲れ様です」
「昨日の……信じて良いんだよね?」
「も……もちろんですよ。なら後で久茂先輩のスマホ見せてもらったら良いじゃないですか」
「……そうだね。じゃあそうする」
「あれ、久茂先輩がパソコン持ってるって疑わないんですか?」
「久茂先輩は……パソコンは大学でしか使わない」

おおうそこまでご存知ですか愛の力ってすごい。流石の俺も怖くなる。
というよりこの盗撮ネタいつまで引っ張るつもりだよその辺どうよ作者⁉︎
十秋先輩は早速久茂先輩の元へ向かった。……今二人ともバイト中だけどバイト中にそんなことをして大丈夫なのだろうか。
昨日の記憶が蘇る。
確かに怪しい動きはしたし、被害者(仮)からしたら十分に信じられるような状況ではなかった事は認めざるを得ない。帰り際に俺に何か言いたそうな顔をしていたが、玄関に着くや否や母親が来る気配がしたので、俺が食い止めて早々に帰ってもらったのだ。その頃には時間も0時を回っていた。それなのにあの二人とも日中睡魔に襲われる事はなかったらしく、本当に同じ人間かと疑った。
家に帰ると、カイリはまだ寝ているのか布団が盛り上がっていた。
いつまで寝る気だろう。きっと俺が家を出た頃からずっと眠りの国で遊んでいたに違いない。
この浮遊体は睡眠欲求はあるのに疲れを感じないからいつまででも眠っていられるというのか。
流石に起こす。

「……おい、良い加減起きろよ。引きこもりから寝すぎだって言われる気分はどうだ。起きたくならねえの?」
「…………?」

山の頂上を揺すると、山が崩れ始めた。
すると中から、服を着崩してかなり際どい姿のカイリが出てきた。
月光に照らされる白い肌が異様な艶めかしさを放っていた。
……そう言えば浮遊体に服って概念は存在するんだな。死んだ後に何か一つ持っていけないかなとか思ったりしたが、成る程自らの全裸を晒すくらいなら他のものを諦める方が余程まともな判断だ。……幽霊になって理性が存在すればの話だが。禁断の果実を齧る前のアダムとイブになんてなりたくない。これからは彼らを「Mrs.醜態」と呼ぶことにしよう。
カイリはまだ半分夢の中にいるのか目が開かず、ベッドの上に座ったままこっくりこっくりまた寝ようとしている。未だにその蒼い瞳を覗く事は叶いそうにない。
俺は風呂に入るため立ち上がろうとすると、いきなりカイリが抱きついてきた。

「……おいカイリ、いい加減に…………ってうわぁっ‼︎」

またいつもの悪ふざけかと思い振り払おうとカイリを見やると、カイリに意識はあまりないようだった。……いや、そんなのは問題ではない。結構危ない格好してるんだった。
俺より身長が低いカイリの谷間が目に入る。
……そうか、こいつ案外大き((⊂(`∇´)デヤァ
慌ててベッドから降りると、カイリの手が解けてそのまま床に落ちた。
その衝撃で目が覚めたのか、目をこするといつもの笑顔になり、

「……あ、帰ってたんだぁ。おかえり〜」

と言って今度は普通に絡んでこようとするので、なるべく肌を直視せずに退けて部屋から出た。……なんだろ、想像とかとは違って実際目にすると思考がストップするな。
母親が昨日の先輩はもう来ないのかと聞いてきたが、もう一生来ないと思う旨の返答をするとあからさまにがっかりした様子だった。二度と来ないだろうし来させない。

「……あ、それと今日宅配便来なかった? 荷物の到着は今日だったんだけど」
「そんなの、俺の方が外に長く居たんだから知るはずないし。……だとしても連絡は来るんじゃ?」
「そう……なら……良いのよ」

一体荷物とは何だろう。母親の事だからまたロクでもない通販グッズかもしれない。
早々にシャワーを浴びて部屋に戻る。
カイリはパソコンデスクで寝落ちしていた。パソコンの電源は付いていなかったけれど、一体1日に何時間眠るつもりだろう。
久々にベッドを独り占めに安らかな眠りについた。


*


翌日、俺は自らの運命に絶望していた。
さして暑くもないというのに、尋常じゃない量の汗が首筋をつたう。喉が渇き、何度も生唾を飲み込む。目の焦点が定まらない。レジに立っているというのに頭の回転が異常なほどに遅く、思考の処理落ちが連続する。
目の前の状況にひたすら疑問符が浮かぶ。

一昨日、昨日、今日と、客の顔は見ないと決めていたのに、三日連続で呆気なくそれは脆く散った。
二度ある事は三度ある。
ならば、二度起きなければ大丈夫と安堵していた俺は馬鹿だった。
……そうだよ、昨日の二回目の時点で三回目がある事は既に決定していたのだ。
しかし、今回は何としてでも顔を上げるべきではなかった。自分の名前を客に呼ばれるという状況以外でなら。

「……お前、京士郎か? ……ハハ……久し……振りだな……………」

俺の目の前で殺人鬼が笑っていた。あの頃の俺を殺し、奴自身の人生から篠村京士郎を亡き者にした悪魔が。

色々と言いたい事はありますが、短めに。今まで「多重分岐のカイリ」でしたがタイトル決まりました。そして、壱・弐話の修正と付け足しをしました。以前とは若干会話部分などが違っているので見たければ是非。そして、この物語は平行世界を意識して構成していますが、世界観の関係性には然程凝っていません。「違う世界を見る事が出来たら絶望する事なんてないのに」「違う世界なら、きっと」と思いながら執筆しています。
<2016/09/26 19:30 ソト>消しゴム
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