時は二時間後に移行する。
「ーーーっ‼︎」
まともな受身も取れず、不自然な体勢で身体が地面に叩きつけられる。立ち上がろうとすると、再び筑也が胸ぐらを掴んできた。
不足する呼吸に、身体が疲労を訴える。
「……なんでっ……こんな事するんだよ!」
「お前、これだけやられてもまだ何も言わないのか?」
言いたい事。そんなのいくらだってある。あの時に言えなかった言葉なんて今でさえ溢れてくる。伝えたい言葉は口に出そうと思えばすぐに出せる。なのに、喉元まで溢れる言葉は、あと一歩踏み込む力がなければ出てきそうにない。
「今更、何を言えっていうんだよ! 殴られて胸ぐら掴まれて……こんな状況で俺に何を求めてるってんだよ‼︎」
もう、幼馴染とは思えなかった。驚く事に、3年間のブランクで、関係も性格も、何もかも壊れてしまっていた。
俺にはどうしようもない。3年間一度も会っていなかった相手に対して感情を吐き出すなんて、無理を言うにもほどがある。
「京士郎……なんで変わっちゃったんだよ……。学校に来ない間に何が起きた? 昔みたいには、もう戻れないっていうのか?」
戻る。遅い。何もしなかったくせに。また何もせずに俺に期待する。この他力本願な性格にはうんざりする。
俺は筑也の手を振り払った。俺だって戻りたかったのに、何もしてくれなかっただろ? もう苦しい思いをしたくないんだよ。
「戻るも何も……ただ傍観してただけのくせに。お前ら二人共、自分で言いたかねえけど、いじめられてる時お前らにも助けてっつったよな⁉︎ ……情けない話、俺も誰かに頼りたかったよ。でも、結局状況は変わらなかった。今も昔も。他人に期待するだけで自分達では何も行動を起こさない。頼れる人がいないのなら、誰も信用せずに生きてく方がいい」
「……それは、すまなかったと思う。ただ、俺たちは巻き込まれていじめられるのが怖くて何も出来なかった。心配はしていたけど、どうしようもなかった。……なぁ、理沙」
「……う、うん」
これは何かのお芝居を見させられているのか? そう思うと、苛立ちが収まらない。何も言う事が変わらないこいつらが変わらない限り、……いや……変わったとしても無理だ。
「そうやって……自分さえ良ければ全て良しで生きてきたからこんな事になったんだろうが‼︎ 昔に戻るだの、もう鬱陶しいんだよ」
「ち、違う! 俺だってそんな事…」
「……もう、良いよ……こんな不毛な事しても意味がない。俺に関わらないでくれよ。このままだと心にもない言葉が出そうだ」
二人とも幸せにな、と心にもない言葉を残して俺はその場を立ち去ろうと踵を返した。
数歩歩いたところで、手を掴まれた。さっきよりも小さく、柔らかい。
振り返らずに言う。
「やめろよ」
その手を振りほどこうとしたが、振りほどこうとすればするほどしっかりと掴まれて離れない。
「……待ってよ……京士郎! ちゃんと私たちの話を聞いてよ!」
その声に心が締め付けられる。思わず振り返った。
理沙が手を掴んでいる。俺がかつて好きだった人に手を握られている。半ば嬉しさも感じたが、同時にそれがとてつもなく心苦しい。
手から力を抜いても、逆に握る力が強くなる。
「聞いても、変わんねえだろ」
「どうしてそんな事言うの⁉︎ 悲しいよ、やっと会えたと思ったら……こんなの……」
そう言って理沙は涙ぐんだ表情を見せた。
その表情に釣られて許してしまいそうになる。口を閉じて目をそらした。
そのロングヘアから香る匂いに、あの頃は何度心が高鳴ったんだろう。今も変わらぬその匂いも、嫌悪感しか感じなくなっていた。
「悪いと思ってるけど、心配したのは本当だよ? ……筑也だって」
理沙は筑也を見た。それで筑也は咄嗟に「…本当だよ」と呟いた。俺の顔を見ずに。
瞬間、俺は無理矢理に理沙の手を振りほどき、2歩3歩と後ずさった。
俺はなぜか笑っていた。
「…………だよな。良いじゃねえか、そうやっていつまでも二人で風見鶏続けりゃいいじゃねえかよ」
二人は黙ってしまった。俺は再び帰ろうとして踵を返す。
最後に一つだけ伝えようとして、立ち止まる。
この言葉だけはちゃんと二人が忘れないように。もう思い出す事のない昔を思い出して。
「……筑也、理沙。心配なんて、嘘だろ。俺を見つけたからちょうど良かったんだろ? 別に俺の事はただの用事みたいなもんだもんな。さほどお前らから気持ちが伝わってこねえんだよ。……それに、本当に心配してるんなら、直接家に来いよ。家の場所知っててなおこようとしなかった奴らを、許さねえし知り合いとも思わねえ」
歩き出した後、後方からため息を吐く音が聞こえた。
振り返ると、もう二人はいない。
思わず笑ってしまう。
……立ち去るの早いって事は、やっぱりそういう事じゃん。
頬から伝って落ちた涙が、自らの未練を物語っている気がした。
※キャラクター紹介
・篠村京士郎(しのむらきょうしろう)
中一の頃のいじめ、幼馴染による裏切りが原因で引きこもる。現在はある目的のためにバイトをしつつ準備をしている。皮肉な事に、引きこもってからの方が規則正しい生活を送れている。カイリという存在を理解出来ずにいるが、説明出来なくてもそんな事どうでもいいと思う気持ちの方が強い。
・神居筑也(かむいちくや)
京士郎の幼馴染。中一の頃、京士郎のいじめをただ傍観していた。成績優秀。空気に流されやすい。つり目とストレートパーマが特徴。
・火縄理沙(ひなわりさ)
京士郎の幼馴染。筑也と付き合っている。かつて京士郎が想いを寄せていた。京士郎に対するいじめを止めようと試みたが、筑也に止められる。その後京士郎が不登校になった事にずっと責任を感じていた。黒髪ロングで、目が悪いためコンタクトをしている。
「ーーーっ‼︎」
まともな受身も取れず、不自然な体勢で身体が地面に叩きつけられる。立ち上がろうとすると、再び筑也が胸ぐらを掴んできた。
不足する呼吸に、身体が疲労を訴える。
「……なんでっ……こんな事するんだよ!」
「お前、これだけやられてもまだ何も言わないのか?」
言いたい事。そんなのいくらだってある。あの時に言えなかった言葉なんて今でさえ溢れてくる。伝えたい言葉は口に出そうと思えばすぐに出せる。なのに、喉元まで溢れる言葉は、あと一歩踏み込む力がなければ出てきそうにない。
「今更、何を言えっていうんだよ! 殴られて胸ぐら掴まれて……こんな状況で俺に何を求めてるってんだよ‼︎」
もう、幼馴染とは思えなかった。驚く事に、3年間のブランクで、関係も性格も、何もかも壊れてしまっていた。
俺にはどうしようもない。3年間一度も会っていなかった相手に対して感情を吐き出すなんて、無理を言うにもほどがある。
「京士郎……なんで変わっちゃったんだよ……。学校に来ない間に何が起きた? 昔みたいには、もう戻れないっていうのか?」
戻る。遅い。何もしなかったくせに。また何もせずに俺に期待する。この他力本願な性格にはうんざりする。
俺は筑也の手を振り払った。俺だって戻りたかったのに、何もしてくれなかっただろ? もう苦しい思いをしたくないんだよ。
「戻るも何も……ただ傍観してただけのくせに。お前ら二人共、自分で言いたかねえけど、いじめられてる時お前らにも助けてっつったよな⁉︎ ……情けない話、俺も誰かに頼りたかったよ。でも、結局状況は変わらなかった。今も昔も。他人に期待するだけで自分達では何も行動を起こさない。頼れる人がいないのなら、誰も信用せずに生きてく方がいい」
「……それは、すまなかったと思う。ただ、俺たちは巻き込まれていじめられるのが怖くて何も出来なかった。心配はしていたけど、どうしようもなかった。……なぁ、理沙」
「……う、うん」
これは何かのお芝居を見させられているのか? そう思うと、苛立ちが収まらない。何も言う事が変わらないこいつらが変わらない限り、……いや……変わったとしても無理だ。
「そうやって……自分さえ良ければ全て良しで生きてきたからこんな事になったんだろうが‼︎ 昔に戻るだの、もう鬱陶しいんだよ」
「ち、違う! 俺だってそんな事…」
「……もう、良いよ……こんな不毛な事しても意味がない。俺に関わらないでくれよ。このままだと心にもない言葉が出そうだ」
二人とも幸せにな、と心にもない言葉を残して俺はその場を立ち去ろうと踵を返した。
数歩歩いたところで、手を掴まれた。さっきよりも小さく、柔らかい。
振り返らずに言う。
「やめろよ」
その手を振りほどこうとしたが、振りほどこうとすればするほどしっかりと掴まれて離れない。
「……待ってよ……京士郎! ちゃんと私たちの話を聞いてよ!」
その声に心が締め付けられる。思わず振り返った。
理沙が手を掴んでいる。俺がかつて好きだった人に手を握られている。半ば嬉しさも感じたが、同時にそれがとてつもなく心苦しい。
手から力を抜いても、逆に握る力が強くなる。
「聞いても、変わんねえだろ」
「どうしてそんな事言うの⁉︎ 悲しいよ、やっと会えたと思ったら……こんなの……」
そう言って理沙は涙ぐんだ表情を見せた。
その表情に釣られて許してしまいそうになる。口を閉じて目をそらした。
そのロングヘアから香る匂いに、あの頃は何度心が高鳴ったんだろう。今も変わらぬその匂いも、嫌悪感しか感じなくなっていた。
「悪いと思ってるけど、心配したのは本当だよ? ……筑也だって」
理沙は筑也を見た。それで筑也は咄嗟に「…本当だよ」と呟いた。俺の顔を見ずに。
瞬間、俺は無理矢理に理沙の手を振りほどき、2歩3歩と後ずさった。
俺はなぜか笑っていた。
「…………だよな。良いじゃねえか、そうやっていつまでも二人で風見鶏続けりゃいいじゃねえかよ」
二人は黙ってしまった。俺は再び帰ろうとして踵を返す。
最後に一つだけ伝えようとして、立ち止まる。
この言葉だけはちゃんと二人が忘れないように。もう思い出す事のない昔を思い出して。
「……筑也、理沙。心配なんて、嘘だろ。俺を見つけたからちょうど良かったんだろ? 別に俺の事はただの用事みたいなもんだもんな。さほどお前らから気持ちが伝わってこねえんだよ。……それに、本当に心配してるんなら、直接家に来いよ。家の場所知っててなおこようとしなかった奴らを、許さねえし知り合いとも思わねえ」
歩き出した後、後方からため息を吐く音が聞こえた。
振り返ると、もう二人はいない。
思わず笑ってしまう。
……立ち去るの早いって事は、やっぱりそういう事じゃん。
頬から伝って落ちた涙が、自らの未練を物語っている気がした。
※キャラクター紹介
・篠村京士郎(しのむらきょうしろう)
中一の頃のいじめ、幼馴染による裏切りが原因で引きこもる。現在はある目的のためにバイトをしつつ準備をしている。皮肉な事に、引きこもってからの方が規則正しい生活を送れている。カイリという存在を理解出来ずにいるが、説明出来なくてもそんな事どうでもいいと思う気持ちの方が強い。
・神居筑也(かむいちくや)
京士郎の幼馴染。中一の頃、京士郎のいじめをただ傍観していた。成績優秀。空気に流されやすい。つり目とストレートパーマが特徴。
・火縄理沙(ひなわりさ)
京士郎の幼馴染。筑也と付き合っている。かつて京士郎が想いを寄せていた。京士郎に対するいじめを止めようと試みたが、筑也に止められる。その後京士郎が不登校になった事にずっと責任を感じていた。黒髪ロングで、目が悪いためコンタクトをしている。
