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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第九話ー通学路ー帰路の夜道に人影は無くて -

もう真夜中の道路に、擦れる靴の音が寂しく響く。
後悔は無い。これで良かった。
……でも、終わりだ。これでひとりぼっちだ。
帰り道は一人。もう俺を連れ立って歩く影を見つけることはできない。街灯も何も無い道はバイト先のディーライトモールと世渡駅(せわたりえき)へと繋がっている。
この道を一人で歩くのは、実に一年ぶりだった。しかし、いつも俺一人だった。
高校の下見、願書提出、試験日当日、合格発表日、……そして登校初日。
それ以来、あの場所に足を運ぶことをやめた。
俺の受かった高校。世渡総合高校。
俺は今日、神居と火縄が同じ高校だということを初めて知った。しかし会うことが無いのは当然、あの二人は制服を着ていた。全日制の生徒だからだ。俺は定時制。定時制にも制服はあるが、ほとんどの定時制生徒はそれを無視して私服でくることが多い。
かく言う俺も、私服勢の一人だ。お気に入りのヘッドフォンを付けて登校した。
そんな高校でさえ、トラウマの一つだ。

「……あ! いたいたこんな所に……って、あれは……京士郎の通ってる学校? どうして今更こんな所に来る必要があるのさ。不登校児だったんじゃないの?」
「うっせ、一言余計なんだよ。……つーか、何で来たんだよ」

カイリは大きなため息を吐いて、お手上げという風に腕を広げた。

「はぁ……。決まってるでしょ、京士郎の異常な感情の昂りを感じたからだよ。何が起きたのかと心配してきてやったんだからね」
「そりゃ……ごくろうさん……。でも、もう終わったことだから別に良いんだよ」

上からカイリが覗き込んでくる。危うくぶつかるところだった。
疑うような視線が突き刺さる。その視線に耐えられず、視線をそらしてしまう。もう何もやましい事など無いはずなのに。

「な……なんだよ」
「とても、大丈夫そうには見えないけど? ……もし不安の種があるんなら、自分から話すのが一番引きずらないよ?」
「……だから……大丈夫っつってんだろ‼︎」
「……ふーん」

俺の急な大声にもそいつは動じない。まるでわかっているかのような口ぶりだ。
カイリは駅の方へと進む。俺は少し遅れて後を追って歩を進める。

「神居くんと火縄さんかぁ……」

そのつぶやきに足が止まった。なんで名前を知ってる? 口に出したことなんて今の今までなかったはずだ。
さらに追い打ちをかけるようにカイリは口を開く。

「駄目じゃないか、せっかく声をかけてくれたのに、それを無下にするなんてさ」
「……お前……なんで知って……」
「ん? 前に行ってなかったっけ。京士郎が離れていても、私が京士郎から見えなくても、全部見えてるし、聞こえてるんだよ?」

カイリはそう言って笑ったが、俺にとって笑える事など一つもなかった。
こいつは知ったその上で俺から聞き出そうとしているのだ。タチが悪い。

「あーもうそんなに睨まないでよ、一応これでも気遣ったつもりなんだからね?」
「知ってんなら、聞くんじゃねえよ‼︎ もう終わった! いなかったんだよ……幼馴染なんて……最初から……」
「わかった、わかったから大きな声出さないでよ。今ここにいるのは実質京士郎一人だけなんだから……他人から変な目で見られるの、嫌いでしょ?」

人通りのない路地で良かったよ。そういうカイリはもう俺を「早く帰ろう」と急かすくらいで、隣で鼻歌を歌っていた。
こう、普段ならこんな風に普通に良いやつなんだが、さっきみたいに俺を心配しているのか傷つけたいのか、時々分からなくなる。

「あ、そうそう。さっきから涙を流してる理由は聞かないであげるからさ、夕食のメニューだけ教えてよ」

前言撤回。
良いやつ……と思いたいが今のは確実に恥ずかしいタイミングだよな。肝心なことを言うのが遅い。それにとても気を遣ったとは思えない感じで混ぜてくる。さりげなさというものを学んでから気を遣って欲しい。
ハンカチで目を拭った。本当に人がいなくて助かった。

「聞いたところで、どうせ食えないだろ」
「わからないかなぁ……そこは、想像で楽しむものなの」
「まず味って概念に触れたことさえないのなら、想像してもその分悲しくなるだけだろ」
「うぅ……それは言わないでよ……私も我慢してるのにぃ」

カイリは頬を膨らませて拗ねた。いつも通りの光景に笑みが漏れる。
この三日間、結構いろいろなイベントがあったけど、やっと落ち着いた日常が戻る。
……少し、昔を思い出して。
思い出したくもない過去。
墓まで持ち運ぶべきトラウマ。
引き出しの奥底にしまい込んである一枚のカルテ。
俺が人と関わることを拒絶する要因となった忌々しい診断結果。
あまりに非情な医者による烙印によって正常な未来は永久に閉ざされた。

「どうした? おーい! ちゃんと前見ろ‼︎」
「…っ! うるせぇっ! 耳元で大声出すな!」
「どうしたの? いきなりボーッとしちゃってさ。……あ、もしかしてやっぱり二人を許しておけば良かったと後悔の念にとらわれて」
「囚われてねえよ! ……そんなこと思うはずがないだろ。……少し、昔のことを思い出しただけだ」
「へぇ、いつの?」
「お前……分かってんだろ、いちいち聞くんじゃねえよ」
「……違うよ、私がわかるのは京士郎が見てる光景と聞いてる音だけだもん。思考まで読み取れたらもっといたずらしてるよ」
「あっそ、じゃあ帰ったらお前の目の前でお前に対する悪口を書き出しながら朗読してやる。視覚と聴覚で二倍の嫌がらせをしてやるからな覚悟しておけ」

カイリが隣でわめきだした。
振り返るが、当然人影はない。校門も見えないほどの距離を歩いたようだ。
明日からはもう、あいつらと会う事も無いだろう。
と、半身で背後を見やりながら歩き出したら人にぶつかってしまった。

「うわっ! ……す、すいません」
「……おう、気を付けろよ」

5月だというのに厚手のパーカーを羽織っている。フードまで被っている。
50代位のおっさんが去ると、その臭いに思わず顔をしかめる。
……なんだこの臭い。

「…………っ!」
「ん? どうしたの? 鼻なんか押さえて」
「いや……」

なんか私さっきから「どうしたの?」しか言ってないよね、と自問自答し始めるカイリをよそに、俺は首を傾げた。
金属の加工会社にでも勤めてるのだろうか。嗅いだことの無い鉄臭い臭いが漂う。
しかし、そんな事はすぐに忘れて歩き出す。
もう夜も遅い。

「どうせもう何も起こりゃしねえさ……」
「お? 詩人か? 名前の通り目指しちゃう?」
「なんだよ名前通りって! 全然違えよ‼︎」

俺は実際一人きりだということを思い出して再び口を紡ぐ。

……俺は、この引きこもった日々が十分充実していると思えるんだ。

この小説投稿し始めてから一ヶ月過ぎてた。そしていきなりのサイト閉鎖のお知らせ。なので、オリジナル小説投稿館に移ってみます。なんかこのサイトから行けるらしいので試しに第壱話だけ投稿しました。第壱話おかしい部分あったので修正しときます。
オリジナル小説投稿館では序説を書きましたのでそちらもどうぞ。
<2016/10/10 17:24 ソト>消しゴム
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