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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十話ー近所の公園ーすれ違いの果てに -

目前に迫る拳。
自分勝手だが、それを嬉々として受け入れていた。
すれ違う度に心が高鳴っていた香り。
最後に交わしたお互いの言葉。
自分の意思を伝えたいと思う程に互いの思惑は外れていく。
決して許されない予定調和。
昨日まで届かなかった言葉。

……今日からは届かなくなる通じなかった三人の幼馴染の思い。


*


夢の中にいるかの様な浮遊間に確かな違和感。
目の前にいる人物でさえ、顔が見えない。
バックヤードの机。ここはちゃんとしたレストランの様だ。俺の知っているバックヤードの広さじゃ無い。
この場所にいるのは俺ともう一人。迷惑そうな顔だ。
……そんなのは当たり前だろ。実際迷惑かけているんだから。
それにも関わらず、相手は水を差し出してくれた。たとえ建前でも嫌な相手に気を使う事ができるなんて、きっと正しい環境で当たり前の生活を送ってきたんだろうな。
俺はその水を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がる。

「……迷惑をかけたな。もう俺は大丈夫だから」

相手は訝しげな表情を浮かべる。
最初から顔色の悪さが変わらない人物が大丈夫だと言っても信用できないんだろう。

「……あの、ありがとうございました」
「……いいえ。それよりも、今度からは家で寝てくださいね。私もあまり、暇では無いので」
「それじゃ……」

後ろ手にドアを閉めた。
すでに灯りの消えたフードコート。そのど真ん中を歩いてモールから出る。
一体どうしてこんな事になった。朝から、いや、もう悪い事続きだ。
今日の朝からちゃんとした記憶が無い。
だが、時間をかければちゃんと思い出せるはずだ。
最寄りの駅から数分の場所にある公園にやって来た。誰もいない。
木の背が高いので、道路から公園の様子を伺う事はできない。一人で物思いに耽るにまちょうど良い場所だ。
ベンチに座り、目を閉じる。
断片的な記憶しか残ってないが、できるだけの事を思い出そう。


*
まず、午前中。何があったかを回想するんだ。
*


放心状態で、足を動かす。
一歩、また一歩と何の考えもなく歩いていたら、バイトも無いのにバイト先にいた。
一駅分離れたディーライトモールが目の前にあった。
気付いたら辺りは身を塞ぎたくなる様な喧騒に包まれている。その賑やかさは普段とは一変してざわつきの様にも感じる。
楽しむふりをして、ひたすらに群衆に視線を走らせる。皆疑心暗鬼にでもかかったみたいに空気がピリピリしている。
それもそうか、最近は何かと物騒なことが多いもんな。特にこの場所は人が多いから尚更のことだろう。
入り口近くのベンチに腰を下ろして電話をかける。
別にメッセージでも問題は無いとは思うが、確実性を選ぶなら電話が一番だ。
1コール。2コール。3コール。4コール目で繋がった。

「……もしもし、こんな時に何の用だい? 仕事中だから用件は手短にお願いしたいんだけど」
「……いきなりすいません、久茂先輩。でも多分今じゃなきゃ話す機会が無いと思ったんで」
「それで?」

手短に言いたいことを伝えた。理由は言わなかった。

「……なるほど。でも、流石に僕からすぐにOKは出せないかな。……今は家かい」
「いえ、モールの入り口付近ですけど」
「ならこっちまで来てくれるかな、詳しい事情を聞きたい」
「……分かりました」

まぁここまで足を運んだんだ。この距離なんてどうってことは無い。帰りは電車に乗らないと、さすがに筋肉痛になりそうだが。
店の前まで来たが、今日は何故だか客足が悪そうだ。
客を完全にさばききったところで声をかけた。
久茂先輩は「中で話そう」と、中に入っていった。商品受け取り口から続いて入る。
同じく仕事中の十秋先輩にも挨拶した。

「……まさかとは思うけど、篠村くんの友達の事でなんかトラブルでも起こした?」
「よく、分かりましたね」
「最近で思い当たる節がそれしかなかっただけだよ。話したくは無いだろうけど、一応ちゃんとした理由じゃなければ認められない」
「…………」

言わなければならないことは覚悟の上でここまで来たというのに、いざ話す場が整ったとなると口がまるで開かない。
いつだったかゲームのフレンドが「転校するのを友達に打ち明けるのは、結構勇気がいるよ。いや、勇気云々じゃなくて、自分が別れたく無いって思ってたから言いたくなかったんだ。出来ればそんな事言わずに変わらず遊んでたいって心の中で駄々をこねてただけかもしれない」と言っていた。今の俺の状況も、同じ様なものだろうか。
……駄々をこねてもしょうがない。どうにかなるものでも無いだろう。
真っ青になるほど強く握りしめていた拳を握りなおして前を向いた。
過去の出来事は関係なかった。
唯の行き違いだ。
裏切られて、殴られて、自分勝手な思考を押し付けられて俺が認めなくても、あの二人は……。


*
結果的に、二週間ほどの休みを取った。午後はもうやる事がなかった。
*


ドアを開けて外へと出た。
強風が上着をひったくるかの如く吹き荒れる。
普段なら鬱陶しい風も気にならなかった。

「どう? 少しは落ち着いた?」

カイリが心配して声をかけてくれる。
随分と情けない姿を久茂先輩に見せてしまった。さぞ迷惑だっただろう。
まさか泣き出してしまうなんて。
自分で思う程、俺は自分の事を理解していない。それがよく分かった。

「……これから、どうするか。なんか、どっか遠くに行きたい気分だよ」
「気分転換なら、多分今の京士郎を満たすものは無いと思うよ? ……こんな事、誰だってすぐに受け入れられるわけじゃ無いんだからさ」
「…………駄目だ。すぐに受け入れないと。でないと、立ち直る機会を失う気がするんだ」
「……どうしてもって言うのなら、ないわけじゃないけど」
「何でもいい。何だってやってやる」
「そう、……じゃまずはここに入ろっか」

カイリがある方向を指差す。
そこにあるのはディーライトモールだ。一度出た建物にもう一度入って何があるというのか。

「取り敢えず、気分をクールダウンしなきゃでしょ? 私について来て」

何を考えているのか分からない。アトラクションでもやれというのだろうか。
他にやる事もないので、おとなしく連いて行った。


*


そして、今朝だ。もっとも思い出したくない人生最悪の朝。


*


今朝、目覚ましに設定していたボカロ曲『イフの願い』で眼が覚めた。
昨晩一度起きたせいか、まだ少し眠い。
二度寝をしようと布団をかぶると、すぐに剥がされた。

「……なんだよ……寝かせてくれよ」

そう言うと、カイリは目を伏せて俺を諭す様に喋り出す。

「それどころじゃ、ないの。話そうか迷ったけど、今知らないともっと後悔する事になる。だから、起きて」
「はぁ? 意味が理解できねえんだけど」
「良いから、急がなくても良いけど、一階に来て」

それだけ言うと、カイリは扉の向こうへと消えた。
なんだろう。やけに真剣な面持ちだった。いつものいたずらにしては手が込んでいる。いや、あいつはわざわざいたずらする対象を呼んだりしない。
とりあえず、言うとおりにしたほうが良さげだ。
今日はバイトが無いからだらだら1日を浪費しようとしていたのに。
……昨日は嫌な事があったからな、何も考えずにただ眠っていたかったというのが本心だが。普段着に着替えて部屋を出る。
一階まで降りると、リビングのテレビの前にカイリがいた。
俺を見ると、口を開く。

「見て欲しいものがあるの。今朝のニュース番組だけど、最初から見せるね」
「何なんだよ、いきなり。……再生押せば良いのか?」
「うん」

リモコンの再生ボタンを押すと、某朝のニュース番組が流れ始めた。
それは、一つのニュースを報道している最中だった。

『えー、この地震は余震が起こる可能性があるので近隣の住人には余震に警戒して下さい』
『この場所はまた原発に近い場所ですよ』
『原発の再起動は未だに抗議の声が絶えませんからね。東北大震災の様な悲劇の再来を恐れての事でしょう』
『関東地方は南海トラフの都市直下型地震が懸念されていますからね』
『都民の皆さんも充分警戒をしてください』

先日起きた地震のニュースだ。カイリが見せたいのはこれの次らしい。

『えー、次のニュースです』

見出しが画面に映る。その文字に思考が停止した。
この朝は、俺にとって『最悪』以外の何物でもなかった。

「……あ…………………」

『これは昨日の深夜ですね』


『昨晩、〇〇県世渡市の廃工場の廃材置き場で二人の死体が発見されました。二人はいずれも地元の高校生の男女で、おそらく帰宅の途中に襲われたものと見ています。死因は刃物による出血多量だと予測されます。近隣の住人によりますと、深夜遅くに女性の叫び声が聞こえたとの事です。現場にはまだ新しい血痕が残り…………………。
えー、只今新しい情報が入りました。警察によりますとこの事件は通り魔による犯行だというとこです。そして二人の死体の身元が確認されました。死体は高校二年生の神居筑也さん18才と、火縄理沙さん17才であると判明いたしました。なお犯人は未だに逃走中で警察は証拠や情報を収集中であると…………………………』


テレビの電源ボタンを押した。
何も、考えられなかった。

こっから本番だというのに下書きのストックが無くなった。どうしよ。
<2016/10/21 22:25 ソト>消しゴム
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