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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十二話①ー世渡市道中ー類は後輩を呼ぶ -

空が厚い雲に覆われて、現在この人の住む地上に生命エネルギーの源『太陽光』は届いていない。人々はどよめきと焦燥感に駆られてまだかまだかと目前の光景に言葉を漏らしている。
本日は我らが眷属にとって運命の日とも言えよう。
久々にこれほど多くの同志が集う程の理由は何なのか。
これ程までに人を集結させる力を持ち合わせながら、その力の正体は一向に姿を現そうとしない。たかだか5センチにも満たない薄い壁に阻まれて、その壁が向こう側から開くのも心待ちにして居ても立っても居られない様子で遂には押し合う仲間の間に割って入り前後の仲間をなだめようとする者まで現れ………………。

「ど……どうしてこんな所で……」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえて振り向く。
するとそこには昨日も一昨日も見た顔が居た。少し判断が遅れたのはその人物が昨日までと違う服装だったからだ。
極め付けはこの嫌そうな顔である。
俺は自分の背後に誰もいないことを確認し手招きすると、その人物はゆっくりと距離を詰めてしかしながら上体を俺と反対方向に逸らした。
どうやらこの俺はたったの二日で嫌われてしまったようだ。
いや、この場合は二日も持ったと考えるのが自然か。
俺の横にはまだもう一人分のスペースがあるにもかかわらず後ろに並ぶそいつを横へと促した。
すると、ポツリと声が漏れる。

「……どうしてここにいるのですか」
「ここにいる時点でもう分かってんだろ。……そんなに俺が嫌かよ」
「嫌……という訳ではありませんが、何かこう……二日連続で迷惑をかけられた相手に街の中で偶然出くわすというのが精神的にくるものがありまして……」
「俺はお前の上司じゃねぇんだから。……気持ちは分かるけどさ、二度あることは三度あるって現実に起こり得るんだよ。三度目の正直とも言うしな」
「なら私はその三度目に正直な気持ちを出しても良かったということですね」
「それ正直の意味合い違ってくるぞ?」

本日は曇天なり。
最寄りのアニメイトの前にできた行列の最後尾に俺達はいる。好きなプロジェクトのアイテムがアニメイト先行発売ということなのでいち早く手に入れるべく、いつもより早起きしたはずなんだが……。

「しっかし、やっぱ上には上がいるもんだな。5時起床の俺でさえこんな後ろに……」

既に行列は建物外にまで伸びている。その所為か、先程は浅はかながら割り込みをしようとした奴が他のオタクに糾弾されている。いくら口が立つずる賢い頭の持ち主であっても、悪いことは悪い、数の暴力には逆らえない。数の暴力の次には物理的な暴力へと発展するだろう。
因みに隣にいる背の低い学生は火の粉が飛び火しないか不安でキョロキョロしている。

「おい、一葉。気にすることじゃねぇよ。こういう日にはそう珍しい事じゃねぇ」
「いえ、どうして先輩の隣に並ばなければいけないのですか? というより、普通に呼び捨てにしますね。しかも名前の方を」
「あー、まぁ苗字でも良かったとは思うがこの場で此花っていうとなんかお前が痛い人に見えるだろ。ってか、今先輩っつったか?」
「同じモールのバイトの先輩でしょう。仮にも」
「結構ジャンルは違うと思うけどな。……っと、やっと開店か」
「……先輩も、特別版目当てですか?」
「当たり前だろ。その為に早起きしたんだ」
「私も早起きしましたけど、少し……眠いです。先輩はピンピンしてますね」
「知ってるか? 普段から早起きな奴が受験とか強いんだぞ」
「先輩受験した事あるのですか? 引きこもりと伺ってましたが」
「まぁ、偉そうに言えたもんじゃねぇよ。俺が受けたのだって、たかが定時制だしな」
「……もしかして、世渡総合ですか」
「ああ、総登校日数二日の不登校児だよ」
「へぇ」

……先輩、か。
やはり慣れない。どうも呼ばれる度に心に突っかかる感触が残る。
あの日の事とか、まだ吹っ切れてねぇのかな。触れてこなかったから消えたものと思い込んでいた。
筑也と理沙の事は、まだ受け入れきれていないし、未だにテレビすらつける事が出来ていない。録画してあるアニメが溜まってるっていうのにな。
ニュースでその事件を見るのが怖いのだ。
幼馴染の名前が、顔写真が事件現場の背景とともに映し出される光景が恐怖でたまらない。他人事だと笑っていたかつての自分をぶん殴ってやりたい。

列は進んで俺は一葉と並んで入店。
店頭には目的の商品がこれでもかと言わんばかりに積み上げられていた。
その燦然とした光景に、後めたい思考が掻き消えた。
もはや脳内を埋め尽くすは期待と狂気的な程の興奮だ。それを手に取った瞬間レジへと向かう。


*


昨日一昨日入店前までの柵はどこへ行ったのか、アニメイトを出た俺と一葉は完全に意気投合していた。
プロジェクトの話題に心酔し、心が通じ合うほどに語り尽くし…………。
というのはただの誇張表現で、普通にこれがどれほどの物だろうと期待に胸を膨らませるくらいのもので。しかしその熱の入り方はおばさん達の井戸端会議や茶話会に引けを取らない。
話題は一転して好きなキャラクターの服装から互いの服について。

「まあ流石にイヤフォン+パーカーの組み合わせはこのプロジェクト発祥ってわけじゃねぇし、パクリだとか騒々しい事いうのは行き過ぎだな」
「それほど好きだという事ですよ、もはや一種の宗教です」
「分からなくもないけどな…………しかし、お前の格好ひでぇな。いつもそれなのか?」

俺自身も多少は人目を気にして平均的な服装だが、一葉のそれはとても見るに堪えない。
黒のパンツと黒いパーカー。とりあえずあるものを着てきたとそう語っている。

「い、いいではありませんか。どうせここに来るのはそれ程服装を気にする人なんていないのですから」
「そうは言ってもな……。いざ別の場所に行こうとした時に困るだけだぞ」

本音を言わせて貰えば、女の子としてもう少し可愛らしい格好をしてほしい。
制服の方が似合っていたなんて言いたくはない。
スマホを取り出していじり始める。
すると覗き込んできた。別に気にしないがプライバシーとか個人情報云々を気にして……。

「………………あっ」

何かに気付いたように一葉が声を上げた。

カゲロウデイズの映画が公開された。主題歌もめちゃくちゃカッコいい!絶対見に行く!
そんな事は置いといて。遅れまして今回はほぼ会話回です。そして、言い忘れていたけどこの小説に出てくるボカロ曲アプリ店名芸人等全て存在しませんのでお気をつけ下さい。『下策上等アンダーテイク』とかそれっぽい曲名を考えたりしてるTHE適当主義者なので内容はご想像にお任せします。
<2016/11/05 19:38 ソト>消しゴム
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