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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二話ーGW初日ー気が遠くなるほど長い一週間 -

朝、スマホは昨夜の目覚まし設定に従い、ボカロ曲『デザートシーケンス』を流し始めた。
京士郎は身を起こして、すぐに伸びをして眠気を振り払う。

「ふぁ……」

自分の部屋なので遠慮なく生欠伸をすると、それで刺激されたのか、隣で寝息を立てていたもう一人の人物が「ん……」と呻いた。その仕草も今の京士郎の感情には作用しない。
顔を洗う為洗面所に行こうと立ち上がる。
……立ち上がろうとしたが、シャツの裾を掴まれている。
中腰の体制からまたベッドに座り込み、シャツの裾が伸びている方向を見やる。
すると寝ぐせがついた状態の白い髪の美少女が俺のシャツの裾を掴み、こちらを上目遣いで見ている。勿論、その美少女は横になったままだ。
だが、俺はそれが起き上がる気配を察知すると、直ぐさま手を振り払い部屋を出た。
……あいつが起き上がったら、もっと面倒な事になるに違い無い。
それは日々の積み重ねが生み出したある種第六感から感じるものだった。

部屋に戻ると、先程の美少女が布団で全身を包み込んで頬を膨らませていた。
どうやらお怒りの様子だ。そう、雰囲気だけ。
完全に目が覚めた俺は、美少女を無視してパソコンを起動した。
母親の朝食が完成するまで俺はパソコンで暇を潰していた。
その間、美少女は何も言わず、俺の背中に視線をぶつけていた。
俺が朝食を食しに一回に向かっても、その美少女は何の動作もしなかった。

部屋に戻ると、俺は布団をかぶったままのそいつに一言声をかけてやった。
俺に向けられる厳しい視線を真っ向に受ける。

「…………生きてるか?」

その言葉に美少女は呆れた顔をすると、布団を脱ぎ捨て再び寝っ転がった。
美少女は微笑を浮かべる。
そのさっきから鬱陶しい美少女は、毎日引きこもりと共に生活しているとは思えない程に健康的で、可愛い容姿をしていた。

「……おはようの前に酷い言葉を投げつけてくるね。女の子にこれ程の好意を寄せられているのにそれは無いよ」
「そんなの上っ面だけだろ。……そもそも俺は頼んでないし、止めろとも言ったよな?」
「……君と一緒にいるの、結構楽しいしずっとこうやって暮らせたらいいのになぁ」
「……いい加減静かにしてくれよ」

俺が冷たく突き放すような言葉を投げつけると、またくだらない事を喋りだした。
この、パソコンの起動音とともに喚き始める美少女は、幼馴染でも無いし、友人でも、可愛い妹でも姉でもない。中一の、……いつ頃からいたかは既に忘れたが、兎に角中一以来俺の部屋に住み着いた、浮遊体だ。なのに、幽霊でも俺の生き霊でもない。奇妙な奴だ。
確かに憧れたシチュエーションだし、手に入れるチャンスもあった。でも、もう戻りたいとは思わない。
その上願望を毎日繰り返されると、その願望に対する想いも冷めてしまう。自分の憧れに対する情熱はこんなものだったのか。

「繰り返すしか能のないお前に付き合ってくれる奴なんてきっと存在しないな」
「どうだろうね、少なくとも京士郎の好みは把握してるつもりだけど? やろうと思えばいろんな事できるよ? 私。見た目も良いし男の子ならいくらでも寄ってきそう」

自画自賛する奴ほど、自身の美点を潰している。
それに、誰だった最初はドキッとするだろ。
浮世の一般男子の経験値の乏しさ舐めんじゃねぇ。世界で争ってもトップクラスだろ。

「なら、社会に出て経験値稼ぎでもしたら?」
「超高齢化社会かつ企業の非正規社員雇用率も上昇してる中に、誰が身を投げると? その上引きこもりとかいじめによる自殺者数も年々上昇してるって言うし、日本の将来が危ぶまれるな」
「……まぁ、そんなまともな事言ってても言うだけなら説得力に欠けるね。所詮建前だよ。面と向かって何も言えない行動も起こさないくせに指先しか立派な事言わないんだよね」

先ほどまでの愛想どこいった。
ちなみにこの五月蝿い浮遊体はカイリと言って、別に俺に好意を寄せているわけではない。俺をからかって楽しんでるだけだ。
口から出まかせと虚言癖が絶えない。容姿の良さが唯一の救いだ。
…俺はカイリに対して何の感情も抱いていない事だけは断言しておく。

「しょうがねぇだろ……。俺が引きこもったのも理由がある。見知らぬ人に声をかける行為に躊躇いをする程内気な日本人にとって、いじめは一生の心傷だよ。……勇気出したところで何言っても周りに通じねえもん。言葉の価値を忘れた時点で最後だ」
「そっかぁ、私も君が真っ当な人間だったら困るからね。つまんなくなるし」
「え? 慰めてくれねぇの⁉︎勇気出してって言ってくれる雰囲気じゃないのこれ⁉︎」
「言ったところで変わらないでしょ? 負け確の戦と無意味な戦はしないんだ、私」

俺の必死の抗議も、カイリは気にしない。俺の心の傷を抉っただけだ。

「……はぁ、お前相手だと会話も何もかも疲れるわ」
「私は会話の訓練をしてあげてるんだよ? 初対面の人に会った時にちゃんと会話できるようにね」
「……なら会話慣れしてる人物相手じゃ意味無くねえか? 顔見知りと口下手なのは全然違うしな」
「じゃあ、次からは本物の幽霊でも連れてこようか?」
「……俺がショック死しても良いならな」

するとカイリは胸の前で両手をだらんと垂らす。……どうやら幽霊の真似らしい。
しかし真似している本人は笑顔なので全く怖く無い。
俺がこいつの手を振り払っても、こいつはすぐに掴んで離さない。何回やっても懲りずに声をかけてくる。
食べること、匂いを嗅ぐこと、環境を感じること。生き物にとって重要な五感のうち三つの感覚を失った状態のこいつなりの暇の潰し方なのかもしれない。
内容がどれだけ腐っても会話は会話だ。変化のない生活を送る俺にとって、変化のある言葉をぶつけてくるこいつの会話は多少の救いだ。実際、引きこもり始めた頃はこいつに何度か救われたから。

「……って、もうバイトじゃねぇか! やべぇ、遅刻だけはしないように気を付けてたのに!」
「あー、今ならまだ間に合うでしょ? 全力ダッシュすればギリギリ」
「俺の体力の無さ舐めんな。成人男性の平均歩行速度が俺にとってのBダッシュだ」
「あー、うん。ガンバレー」

何だよそのやる気の無い応援は。
必要最低限の物、と言えど財布とスマホくらいだ。……家の鍵バイト先のロッカーに置き忘れた。

「常備薬! 飲んだら気分がhighになる常備薬忘れてる!」
「俺が覚醒剤常用中毒者に聞こえるからその言い方止めろ!」

たまにカイリは役に立ってくれる。俺に足りない部分はこいつが持っていると言っても過言では無い。ほら、俺の疲れた以外の感情はきっとカイリが持ってる。
カイリのおかげで、俺は引きこもって以来バイト先への道中忘れ物を取りに自宅へ逆走することは無くなった。忘れ物に気がつく部分だけは有り難さを感じる。
因みに。カイリは当然の如く俺以外の人間に干渉されない。声も姿も触れることもできない。
なのに、カイリの意思でこちらに触れる事は可能なのだからタチが悪い。

「カイリ、もう家にお前が一人の時にテレビ見たりとか色々漁るんじゃねえぞ。この間みたいにセッコムが来たら俺の責任だから」
「分かってるよ〜。京士郎のパソコンの検索履歴にいかがわしいワード残すくらいにしとくから」
「それはもっと止めろ!」
「でもさぁ、引きこもりのくせにアルバイトしてるって実際どうなの? 設定とか引きこもりの定義に引っかるんじゃない? もはや高機能社会不適合者でも何でも無いような気がするんだけど」
「設定とかメタいこと口に出すなよ!」

カイリに変なことをさせない為にわざわざI-padを与えたのだ。本気で勘弁して欲しい。

「それに俺が社会に適合出来ないのは人間関係が8割だ。生き物のくせに、独立動物なのか群体動物なのかはっきり区別つかねぇのホモサピエンスくらいだろ。……それじゃ」
「おー、いってらー」

ドアが閉まり、家の内側から鍵のかかる音がするのを聞き届けてから踵を返した。
俺は、今日がGW初日だと知らなかった。だって毎週GWみたいなものだろ?
物語の常套句だが、俺はこの言葉以外にその時の状況に当てはまる代替の言葉を知らないので、ありきたりだが聞いて欲しい。
兎に角、同年代の学生達が昼の時間帯に放たれる事で後々面倒な事態に巻き込まれるなんて、思いもしなかったのだ。

4年前のトラウマが再び傷を広げ始める。

第壱話も、第弐話も、これで執筆が二度目になります。メモから消えた壱話弐話参話は一体どうな文章だったのか想像もつきません。きっと、今回のものより多少マシだったと思います。投稿して書いて投稿して書いての繰り返しなので書き溜めみたいなのは一切していません。そんな気ままな感じでやってます。
<2016/08/25 01:59 ソト>消しゴム
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