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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十三話①ー池の宿公園ー無くなる -

……。

……ん。

今朝は肌寒いと思っていたのに、なんだか、蒸し暑くなってきたな。

昨日は肌寒かったのに、半日で地面が熱を発しているなんて、地球温暖化とは本当に侮れない。特に、寒暖の差で体調を崩しやすい体質なんだ。これからもこんな日々が続くというのなら、また温度とは縁の無い部屋に閉じこもるしか方法は無い。

確か、休むと申告してあったはずだ。戻るのも、戻れる時になったらと言われた気がする。

本心を言うと、もう戻れる気がしない。自分で、自分がわからない。幼馴染を失ったあの日だって、その事をこの上無いほどに痛感したはずだ。

思っていた事と、本心に隠れていた物の正体は矛盾していた。俺が、変な意地を張っていたせいで、疑心暗鬼に陥って何も見えなくなっていた。

……いや、見たくなかった。あれだけ裏切られても、まだ自分の中に彼らにすがりつこうとする自分が存在する事を。

まぁ、もう戻らないんだ。関係も、幼馴染も。

それでも、呼ぶ声がする。

遠く、意識から遠く離れた場所から呼ぶ声が聞こえる。


*


「……い! ……おい! 兄ちゃん、大丈夫か? こんな真昼間から地面に寝っ転がってると、車に轢かれんぞ!」

昼間……?
ああそうか、今は昼間なのか。
それにしても、何をしていたんだっけ。昨日の夜までの記憶しか無い。
確か、コンビニに在庫が底を尽きたのでジャンクフードを補給しに買い出しに行って……。
その後……。

「うー、じゃねぇよ。あぶねぇぞ、ノンケでも構わず食っちまういい男が来てもしらねぇぞ?」
「……はうっ‼︎」

それまで完全に途切れていた意識が一瞬で覚醒した。
いきなり起き上がって肺の空気が全て放出される。突然の無酸素状態に驚いて深呼吸をした。
見上げると、なかなかにダンディなおっさんが俺の上に影を掛けるように立っていた。

「あー今の世代にこのネタ通じんだな。……何はともあれ、兄ちゃんが無事で何よりだよ」
「えっ、ああどうも。…………あの、俺ってどうなってました?」
「なんだ、自分でも覚えてないのか。道端で倒れてたんだよ。これじゃあまだ初夏は程遠いなんて気楽なことも言ってられねぇなぁ。水分補給はこまめにしとくんだぞ、兄ちゃん。この世の中俺みてぇな良いやつばっかじゃねぇからよ、場合によっちゃ財布の中だけ取られるとか、考えたくもねぇようなことばっか起こりやがる」
「俺……気絶してたのか。……っていうか、ここどこだよ⁉︎」
「どこって、世渡池の宿公園のすぐ近くだよ。どこか分かんねぇってんなら、彼処にコンビニあるからそこ行け。……じゃあ、もう兄ちゃんも大丈夫そうだからお暇するとするか。気を付けろよ、この街でも平和なことばっかじゃねえからな。……連続殺人、とかあるかもしれねぇぞ」
「は、はぁ。ありがとうございます」

世渡池の宿公園。近所か。
と言うか、連続殺人あるかもじゃなくて既に発生してるからな。俺の身近で。ニュースとか見ていないのだろうか。
今日はGW最終日か。これでやっと、心残りはあるが平穏な生活に戻れる。

「に、してもだ。俺はなんで気絶なんかしてたんだ?」
「……あ! やっと起きたか‼︎ ほら、お茶買ってきたよ、取り敢えずどっか日陰でも行って休も」

首をうんうん捻っていると、心配そうな顔のカイリが走ってきてお茶を手渡してくる。
流れのままキャップを捻り、和風葉っぱのだし汁を食道から胃へと流し込んだ。冷えているのがよく分かった。
そして喉が渇いていたこともあってか、半分ほど飲みきった所で、ひとつ疑問が浮かんだ。

「……カイリ、これ買う金はどうした?」
「京士郎の財布から拝借して。いけなかった?」
「いや正直ありがたいし、お前にしては気が利いて……ってああ悪かったって! 感謝してるって言ったろ⁉︎」
「なんとも心配しがいのない感謝をありがとう」

珍しく怒り始めたカイリを宥めながら、ふと先ほどの疑問がよみがえった。

「なぁ、俺ってどうして気絶してたんだ?」
「……それは……私にもさっぱりなんだよね」

聞いても、カイリも気絶していたらしくそれ以前の記憶がすっぽりと抜けてしまっているようだ。取り敢えず、池の宿公園にいって、いつもの位置のベンチに腰掛ける。
すると、スマホにメッセージが届いた。一葉からだった。
『From:此葉一葉
To:篠村京士郎
Subject:今どこですか?
本文:すいません、今どこにいるか教えていただきませんか?
それと、どうしてこんな事をしたのか教えてもらえたらと思います。』
どうしてこんな事を、だと?
記憶を弄ってみても一葉に関して何かちょっかいを出したり物を盗んだりなんて記憶は毛頭ない。
あったとしても、メガネくらいだが、それは俺のせいじゃない。
『今は池の宿公園にいる。場所分かるか?』と返信した。
涼しげな風が吹き荒れる。
この時は、頭が混乱していて何かがおかしいと思う余裕は無かった。
記憶がないという経験は初めての事で、酔っ払ったらこんな風になるのかとあまり原因について言及しようとはしなかった。
十分くらい経つと、公園の入り口に一葉が見えた。
軽く手をあげると、それに気付いて駆け寄ってきた。
四日連続で顔をあわせるとは、一体なんの腐れ縁だろう。
俺は、「メガネの事か」と聞こうとすると、一葉に言葉を掻き消された。

「……見つけました! 先輩、早く元に戻してください!」
「…………は?」
「は? ではなくてとぼけずに……先輩じゃないんですか?」
「何が」
「いえ、だから先輩が知ってると思って私は戻ってきたんですけど……」
「……ねえ京士郎、話が噛み合ってないよ? 一回状況を整理したらどうなの?」
「ああ、そうだな……なあ、一回何があったか聞かせてくれねぇか? 俺も、昨日の夜からの記憶がねぇんだよ」

少しフリーズした様に一点を凝視する彼女に説明を乞う。
聞くと、同じ様な状況下にいることがわかった。
一葉も昨日から今までの記憶がない事。
家に帰ろうとしたら、表札が自分の家のものではなくなっていた事。
そして、日付が一週間前に戻っている事。
最初のもの以外、心当たりがあるはずもなく。

「表札がどうのとか、俺が何か出来るわけない。お前の家もしらねぇし、昨日お前のスマホをいじった事もない」
「で、でも私がトイレに行ってる時なんかに……」
「お前のスマホのロックはアルファベットだろ、俺のは数字6桁。数字なら兎に角、アルファベットはどうやったって一分やそこらで開けられるはずがないだろ」
「……なら 、指の動きとかで……」
「お前が思うほど俺は万能じゃねぇぞ? 隣り合ったアルファベットを交互にタップしてても、俺からじゃ一点を連打してる風にしか見えない」
「……万策尽きました」

がっくりとうな垂れる一葉。
メガネが無い一葉はメガネをかけている時よりも可愛げがある。コンタクトの方が似合っていると言ったほうがいいのか、それ程の仲でもないのに言う権利はないか。

「それはともかくとして、メガネ忘れていっただろ。家まで取りに来い」
「ああ、そうでした。一番大事な要件がそれでした」
「大事なら忘れるなよ……。行くぞ」

立ち上がって歩き始める俺を、一葉が呼び止める。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

振り返ると、一葉は躊躇うように俺の隣の空間を指差して、確かに言った。

「あ、あの……彼女さんと一緒だったのなら、邪魔してしまって申し訳ないのでまた今度でも……」
「いや、何言ってるんだよ。彼女とかいるわけねぇ。生まれてこの方いたことねぇよ」
「じゃあ……そこにいる人って誰ですか?」

そこで、ようやく俺は一葉がカイリを指差していることに気付いた。
カイリが見えている。そんな事、あるはずが無い。カイリも、状況が飲み込めていない様子だ。

「……いやいや、まさかな」

そう口ごもる。
外に出た数が少なかっただけかもしれないが、カイリを認識出来る人物なんていなかった。
一葉の手を掴んで、何も無いはずの空間へ誘導する。
そして。
そのまま空に弧を描くはずだった手が、止まった。
そんな事あるはずが無いとムキになり一葉の腕が謎の弾力によって前後する。

「え、えっと先輩……」
「そんなはずはっ……!」

目を開いて視界が開いたと思った刹那、視界が暗転する。

「わぶっ‼︎」
「いきなり何してくれんのさ⁉︎ っつわあああぁぁぁゾワゾワしたぁ! こんな感覚初めてだよっ!」
「何で実体化してるんだよお前はっ‼︎」
「知らないよ、私にも知りえない事だよ! 間接的だからって許されると思わないでよ⁉︎」

急に論争を始めた俺とカイリの蚊帳の外で一葉が弱々しく手を挙げる。

「あ、あのー、事情を説明してくれませんか?」

俺とカイリは目を見合わせる。
今すべき事を見落としていたみたいだ。

「……取りあえず、家に帰るとすっか」
「……だね」

秋の花粉症が辛いです。良い加減くしゃみのし過ぎで鼻の奥が痛い。
<2016/11/09 20:13 ソト>消しゴム
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