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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十三話②ーGW初日終焉ーFrom Scratch -

しかし、俺達はまた公園に戻ってきざるを得なかった。
誰も声を発さない。当然の事だ。誰だって予測できるようなものでは無い。
家で一葉にメガネを返すというミッションは未遂に終わった。
一葉の、家は無かった。俺、篠村京士郎の家も同等に。昨日まで『篠村』の苗字を示し続けていた表札が消えて、家には知らない人が住み着いていた。まるで今までその家に住み続けていたかのように、いたって普通に生活していたのだ。
一葉も昨日は家に上がって俺の家を知っている。しかし、庭には一匹の犬がいて、家の住人に確認のしようが無かった。
完全に行き詰まった。
一体何が起きたのだろう。カイリが他人に認識され、干渉され、俺と一葉の家が消失した。俺のスマホも一週間までの日付を表示している。タイムリープ的な何かか? だとしたらその現象を引き起こす鍵が何だったのか分からない。
俺はコンビニからの帰り、一葉は自宅マンションの手前で気絶して、目が覚めた時には昼になっていた。
今は時間が過ぎて日が傾いているが、帰るあては無い。最悪俺達はきっとこの公園で野宿する羽目になるだろう。そんな事は絶対にごめんだが、俺には頼れる人も場所も何も無い。
だから、この公園で途方に暮れているわけであって。

「……なんか、同じような話を聞いた事があるよ」
「何だよ」
「コンビニからの帰り道に異世界に飛ばされた少年の話。行くあてもなく路地裏に入ると三人のチンピラに絡まれ……」
「お前それ他の物語だからそれ以上言うなよ‼︎」
「何だったっけ、確かリ◯ロとか言ったっけ」
「この暗い雰囲気を明るくしようとしてくれてんならありがたいけどパクリは冷や汗しかかけないから絶対に止めろ‼︎」
「先輩五月蝿いですよ、口を慎んでください」
「ぐっ……」

三人揃ってベンチに座る。一つのベンチにカイリと一葉。少し離れたベンチに俺。
お先真っ暗だ、文字通り。
そんな状況にも関わらず、俺の腹が音を立てる。緊張とは無関係に空腹のアラームが有機物の供給をせがんでいる。仕方なく袋からなけなしのジャンクフードを一つ取り出し、小包装のそれの封を切る。
一口サイズの小腹対応用菓子を口に放り込んだところで、一葉が袋を見つめている。

「いるか?」
「……えっあっ、私……間食はしない主義なので」
「なら持っとけ」
「……カタジケナイです」
「武士かよ」
「京士郎、頂戴」
「ほい」
「ん、どうも」

全員、元気がなく会話が続かない。
それぞれ、思うように菓子を貪る。
俺はタイムリープに心当たりがあるが、一葉は完全に関係が無い。
何かしなければいけないのだろうが、何をすればいいか思いつかない。交番に行くか、ワンチャンス賭けてバイト先を当たってみるか。
持ち物は財布(入っているのは3万と小銭)と菓子が入ったレジ袋と一週間の日付を示すスマホ(日付だけが戻っている。情報は失われていない)。カイリは当然の事持ち物は無い。一葉は……期待出来そうにない。小物入れのような大きさの肩掛けバックとアニメイトのグッズの入った袋くらいだ。
……本当にどうしようもねぇな。

「なぁ、こうしてても意味はねぇと思うんだが、取り敢えずなんかないか?」
「私からは……さっぱりですよ……」
「他力本願バンザーイ」
「今日はここで野宿かよ……」
「……職質とか、されないですかね」
「……考えたくもねぇ、俺が連れて行かれる」
「その心配は無いよ、僕が解決案を一つ提示してあげてもいい」
「うおっ、マジか恩にきるぜ…………ってうわああぁぁ‼︎ 誰だお前⁉︎」

いつの間にか、俺の隣に人が出現していた。
栗色の長髪を後ろで纏めている男がいた。
俺は驚きのあまり何故かベンチから滑り落ちた。
他の二人も、少なからず驚いている。

「……そんなに驚かれるとは思っていなかったよ、やり過ぎてしまったかな」
「……先輩、知り合いですか?」
「全っ然知らねぇよ‼︎ 誰だって言っただろ⁉︎」
「情けないねぇ京士郎、普段からの私との練習は何だったのかな?」
「え……お二人同棲しているのですか」
「それはもう毎日同じベッドで寝てるくらいの……」
「余計なこと言うなよカイリ! お前が勝手に入ってきてるだけだろ⁉︎」
「……先輩、引きこもりだからってその年で同棲は引きます」
「一旦静かにしてもらっても宜しいかな‼︎」

相変わらず座ったままの男は立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。
俺が立ち上がると、男は咳払いして話を始めた。

「どうやら君達は歯どめ役がいないようだね、僕が先に用件を伝えてしまった方が良さそうだ。……君達、行くあてが無いんだろう? 僕が救いの手を差し伸べると言ったら、どうする?」
「……どういう意味だよ」
「そのまんまの意味さ、含みがあるわけでも無い。ただ、君達に泊まる場所を提供すると言っているんだ」
「信用出来ねぇな」
「そこの二人はどうだい?」
「私は……どちらかと言うと賛成かなぁ」
「私は、先輩が大丈夫というのであれば付いて行きますが。先輩……」

どうしたものだろう。いきなり現れた男を信用しろと言われても出来ない。
今の手品みたいなもので警戒心を解かせて家に呼び込み……ということもあり得るかもしれない。見た目ではまず怪しい風貌では無い。長髪なのが気になる。
それを抜きにすれば、とてもありがたい申し出だ。すぐに飛びつくだろう。
俺も出来れば賛成したいが、裏が無いと証明されるか、他に決定打がなければそのつもりはない。

「何度も言うが、今の一瞬であんたを信用しろと言われても、無理な話だ。俺達にはこの上なくありがたい話だ。でもな、それじゃああんたは何のメリットがあって俺達を助ける?」
「……君達、この世界は初めてだろう。何も知らないし、理解していない」
「……何の事かさっぱりなんだが」
「まぁ、昨日まであったはずの自分の家が無くなったとなれば、僕に従うしか道はないと思うよ?」
「……!」

一葉を見る。首を横に振った。
誰にも言っていないのなら、どうしてこいつが知っているんだ?

「……決まったようだね。では、僕の家に案内するよ」

しょうがなくついていく。後ろに二人を匿う形になって歩き出す。

「……そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったな。俺は……」
「篠村京士郎君、だろ? それと此花一葉さんに、……悪いがそちらの女の子の名前は知らないんだ」
「……知らなくて当然だろ。一応カイリと呼んであげてくれ」
「カイリさんか、分かった。覚えたよ」

前を歩く男が街灯の真下で立ち止まる。
弱々しい光にライトアップされた男は、ここで立ち止まるのを予測していたように両手を広げた。

「僕の名前はエヴェレット。エヴェレット・タイムラインだ。以後宜しく。……ああそうだ、呼びにくかったら、エヴィーと呼んでくれて構わない」
「海老?」
「エヴィー。BではなくてVだ。そこだけは間違えないでくれたら良い」
「分かったよ、世話になるぜ」

こうしてこの世界での一日目が終わり、俺達はそろってエヴェレットの家へと招かれる事になった。

もう視界の一部に、渦巻くような歪みは無い。

風邪を引いたので、気まぐれで投稿します。もはや週一投稿の概念はどこへ行ったのか……。
今話のタイトルの『From Scratch』の意味は『ゼロから』です。
物語は進行しませんが、今週分は週末に投稿します。
<2016/11/09 20:18 ソト>消しゴム
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