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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十四話②ーエヴェレット宅ー可能性の世界 -

翌朝、目が覚めて顔を洗いに行こうと南京錠を外してドアを開けた俺はいきなり心臓が止まる光景を目にした。

「やぁ、おはよう。昨晩はよく眠れただろうか」
「ああ、まぁな。……っていうか、俺が起きるまでずっとドアの前にいたのか? 待っただろ」
「ざっと小一時間ってところだね。気にする事は無いよ、僕は早起きな方だから無理にノック音で起こしてしまうのも気が引けてね」
「悪りぃ、今夜からは止めるよ。お前も、こっちに気なんか遣わないで良いんだぞ?」
「大切な客人だ、粗末な扱いは出来ないよ」
「そっか。……なんかお前、良い奴だな。昨日会ったばかりだってのに、何から何まで至れり尽くせりだ。料理は出来ねぇけど、家事くらいなら手伝えるからよ、手を貸して欲しい時は言ってくれ」
「そうだな……、じゃあ、朝食後に君達全員に関わる大事な話が在るんだ。その旨を他の二人にも伝えておいてくれるかい?」
「任せろ」

なんか全部お世話になってしまった申し訳なさがあとを絶たない勢いで押し寄せてくる。
顔を洗って戻ってくると、カイリと一葉がちょうど目を覚ましたところだった。

「あ、先輩。おはようございます」
「よく眠れたか?」
「はい。でも、普段着のままなので少し寝ずらかったですね」

一葉は黒のパーカーを脱いでも黒のパンツと英文字入りの長袖。カイリは多分綿素材の白い長袖とスカート、栗色のカーディガンを羽織っている。
以前パジャマが人の睡眠に最も適した衣服だと聞いた事があるが、なにぶん俺は普段着睡眠に慣れてしまったのでいつもと変わらない。寝違えて首が少し痛いくらいだ。

「いただきます」

朝食はスクランブルエッグにハムレタスetc…の普遍的なものだったが、カイリだけが凄い幸せそうな顔で頬張っている。
思い出せば、数日前まで干渉はできるが恩恵を受ける事はできなかったんだ。それがいきなり実体化して物を食べられるようにまでなった。確かに驚きは大きいのだろう。
そこまで美味しいかと数多の中で思いながらも、俺自身の皿も気が付けば空になっていた。朝はそれほど食べるタイプではないのに、お代わりをしてしまう。エヴェレットの料理の腕がきっと凄いのだろう。
食事後の片付けを手伝い、一葉とカイリをソファに座らせる。
俺とエヴェレットが机を挟んで対面する。

「じゃあ、今から僕から君たちの置かれている状況を説明させてもらうよ。……まず」
「待って下さい」

いきなり一葉がストップをかける。
今のこの状況がまず飲み込めていないのだろう。

「説明って言われても、私はこれが何の説明なのか分かりかねます。それを教えていただかないと……」

ああ、これよくあるやつだ。自分の立ち位置をはっきりと確認しないと気が済まないやつだ。今からそれを説明して見せようとしてくれているのに、むやみやたらに割り込むのはあまり好まない。質問タイムは一番最後って、常識だと思っていたのに。

「それを順を追って説明しないと、話の本質を理解できないだろう。いきなり本題に移行しても、混乱を生むのはそれだけで時間の無駄だよ」
「……すいませんでした、続けて下さい」
「この話が終わったらいくらでも聞くといいよ」

そう言ってエヴェレットは一葉に笑いかける。

「まず、君達三人が置かれている状況を整理しようか。まず一つ、時間が一週間前に戻っている。二つ、昨日まであったはずの住んでいた住まいが無くなった。三つ、三人とも気を失ったのは夕方で、目を覚ましたのは少なくとも日が明けてから。で、良かったかい?」
「一週間っつっても、正確には五日前だが、気にするところじゃねぇだろ。あと家が無くなったのは……矛盾した言い方だが、五日後までは家があって昨日消失したって感じだな」
「戻った時間に関してはあまり問題視する必要はない。……つまり、ここまでの条件で考え得るのは、君達がタイムトリップしているという事だ。これはあくまで前提として頭の中に入れておいてくれたらいい」
「タイムトリップなんて、そんな非現実的な事言われても……」
「不安なのは重々承知している。が、それを理由に現実から目を背けるというのはあまりに愚かな判断だと思うよ。一葉さん、多分君がこの三人の中で最もまともな人だ。だから、僕は君が理解して初めて説明する事ができるんだ。僕が喋る内容はあくまで仮定。確定したわけじゃない。僅かな可能性を見捨てるというのはそれだけの未来の可能性を捨てているのとイコールだ。君だって非現実的な状況下で常識には頼れないだろう?」

一葉が頭を振って余計な思考を除去する動きを見せる。
そしてふうっと息を吐くとエヴェレットに向かい、こう言い放った。

「……分かりました。その代わり、私でも理解できる説明を頼みます」
「了解したよ。……ところで、カイリさん。あなたは家が無くなったのは何が原因か、分かるかい?」
「……一応、考えてなくはないんですけど、なんとなく並行的なやつかなと」
「と、言うと?」
「信じられないですけど、パラレルワールドにいるのかなと。……少し前に京士郎がそんなスレを見てたのでそれで思い出して……って的外れだったら恥ずかしいんだけど」

エヴェレットは手を叩いた。
彼の纏う空気が変わった気がする。

「そんな事はないよ、合っている。君の言う通り、この世界はパラレルワールドだ」
「……実感わかねぇ」
「もちろん、君達からしてみれば気を失って家が無くなっただけだからね。何か心の奥底から否定したい現実を望んだのであれば、ここがすぐにパラレルワールドだと思い込むだろう。篠村くん、君はどうだい?」
「……無いって言えば嘘になるな。でもなぁ、俺の認識するパラレルワールドってのは、……その……こんなに違っているものなのか? 元いた世界が俺が意識から遠ざけたいと願う一つの現実だっていうなら、パラレルワールドはやり直しの機会を与えられた都合のいい世界って事になる。……まず家が無いとかどう考えても優先順位が入れ替わるような気しかしないんだが」
「それは自分の持つ力でなんとか乗り切ってみせるものだよ。……この世界みたいに、僕が君達に宿を提供する偶然や運があるかもしれない」
「なら、この世界の俺の家は何処にあるんだ? ついでに一葉の家もだ」

俺は机に手を置いてエヴェレットに答えを仰ぐ。
すると、エヴェレットは鋭い視線を俺に向ける。目を逸らしそうになったが、辛うじて持ちこたえた。

「知って、どうするんだ」
「……行く、って言うのは外道だよな。何が起こるか分からないもし仮にここがパラレルワールドだとしたらタイムパラドックスが怖いしな」
「君達からみてこの世界が君達にとってのパラレルワールドであったとしても、僕からしたらこの世界が元の世界だ。そして僕から見たら君達の世界がパラレルワールドだ。本物の世界なんて無いんだよ」
「……じゃあ、この世界にも"俺"はいるんだな?」
「……もちろん。ただ、一つだけ言っておくとしたら、パラレルワールドというのは出来損ないでも未完成というわけでも無い。可能性の世界なんだ。この世界の他にもパラレルワールドは無限に存在する。しかし、どのパラレルワールドも決して接する事は無い。……特異点があったとしてもね。もし繋がっていたり、過去で一つなっているなんて『並行世界』とは言えないからね。パラレルワールドはどれも線形。因果関係の糸が切れる事なく束ねられた一本の糸なんだよ」

エヴェレットがひとしきり言い終えると、背もたれに寄りかかる。
つまり、俺達はただ一つの可能性を見ているだけなのか? 可能性が見れるのだったら、その可能性を他の方向に決定させる事も可能なはずだ。
俺達は二つの世界を知っている異質な存在。何かをするために飛ばされたはずだ。
いいように考えれば、パラレルワールドはバッドエンドをハッピーエンドにする為の残機だ。バッドエンドで終えた世界は言わば捨て駒、戻る事はまず考えたくは無いだろう。

「なら、この世界はどんな世界なんだ? 俺達のいた世界との違いを把握しなけりゃ、まず何を考えればいいか分からねぇ」
「ほとんど変わらないよ。君達の家が他の場所にあるとか、強いて言えばそれくらいだ。確かに違う点を数えればキリがないが、どれも気にするほどのものではないよ」
「じゃあ、普通にタイムトリップしただけと思っても大丈夫なんだな?」
「差し障りない。ただ、僕は今の君達の状況を一番に理解できる事と助けになる事ができる。それさえ頭に入れておいてもらえれば後は好きにしてもらっていいよ」

好きにしろと言われても、俺達が飛ばされた理由もわからないのに行動のしようがない。
というか、助けになるとかそういった大切な事は昨日の時点でも言えたのでは?
エヴェレットは続ける。

「僕が何が言いたいか分かるかい? 京士郎くん、君の殺された幼馴染もまだ生きているんだ」

「えっ」と一葉が声を漏らす。
筑也と理沙がまだ生きている。エヴェレットは「もうやるべき事は分かっただろう」と言わんばかりに片眉を上げてみせる。
…………つまり、最低な関係の終わり方をした幼馴染と顔をあわせるという事だ。
いきなりの幼馴染との再会を示され、思考が回らない俺の口から出た言葉は明らかに動揺しているとしか思えないものだった。

「……先輩、どうして言ってくれなかったんですか。私、先輩のいる状況も知らずに自分勝手に振舞って……邪魔なら邪魔と言ってくれれば……」
「一葉ちゃん、気にする事はないよ。こいつが望んでなっただけだから、他の誰でもない京士郎自身の所為なんだから」
「……先輩?」
「……知ってるか? らっきょうとエシャロットは同じ野菜なんだぞ」
「はい?」
「何言ってるの?」

しかし、起こり得る出来事の流れも元の世界と同じなら、どうしろというのだろう。どうせ、歴史の流れには逆らえない。出会いをやり直せても、二人は救えない。
そんな心の不安を見透かしたように、エヴェレットが指をひとつ立てた。

「ーーーあと一日だよ。君がこの世界に来て既に二日が過ぎようとしている。……どういう意味かわかるかい?」
「また……あいつらが殺されるんだな」

俺の後ろ向きな回答を聞いて、エヴェレットは心底期待外れだと口にする。

「……わからないのか。君はあの二人が殺されるという世界の流れを知っている人物の僅か一握りなんだ。『また』じゃない、『まだ』なんだ。君はこの可能性の世界で、『二人の殺害を阻止する』という可能性を手に入れてたんだ、と言えばさすがに理解はできるだろう」
「……出来るのか? ……そんな、止めるなんて。俺がその歴史の流れを変えちまったら、タイムパラドックスが起きて……何もかもが終わるだろ」
「僕は出来る限りの協力をするよ、誓おう。君が今すべき行動のアドバイスもしよう」
「そんな事しても、俺には力なんてねぇし、……第一変えられねぇだろうし」
「だからまだわかっていないと言ってるんだ」

何も恐れないかのような気迫を帯びた言葉に顔を上げる。
一葉とカイリがエヴェレットを見やる。俺の心中を図ってくれているのだろうか。口を挟まずに事の成り行きを見守ってくれている。その心遣いに俺はこの上ない申し訳なさを感じる。
しかし、エヴェレットは今度こそ、俺の胸のうちに抱える不安要素をすべてぬぐい切って見せた。

「ーーーこの世界ではまだ二人が殺されるという事実が起きていない。つまり、二人が殺される未来と殺されない未来があるんだ。……シュレーディンガーの猫の応用だけどね。起きていない事象には選択肢が用意されている。それにタイムパラドックスというのは矛盾しているように見えて全てが真理で可能なんだ。逆説がパラドックスで、矛盾はコントラディクション。英語は得意じゃなかったかい?」

なんか、もう、いろいろと疲れました。
<2016/11/19 01:24 ソト>消しゴム
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