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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十七話ー廃材置き場ー追って追われて -

Side:火縄理沙

「……なぁ、理沙。お前はこれで良かったと思うか? 俺は……どうにも信じられない。何もかもが突然で理解が追いつかないし、このまま進んで良いのか……」
「京士郎の事?」
「ああ」
「……うーん、それは私も同じだよ。だって、私達は一度突き放して見捨てたのにそれでも笑って話しかけてきてくれるなんて、許してくれたのかなって……そう、思いたくなるよ。でも、内心がどうか分からないから、きっと聞かなきゃいけないと思うんだ。……それと、病気の事と学校のこと。京士郎が学校に来なくなってから私達は連絡……出来なかったから、責任取れるところは取らなきゃって……」
「俺らもあいつも強くない。あいつだってそれなりの覚悟があって話しかけてきたはずだ。でも、やっぱり辛いんだろうな、コンビニ行ってくるとか言って、きっと何処かで深呼吸でもしてる。……あいつがすべてを元どおりに戻す意思があるんなら、俺達も全力で協力しよう」
「……そだね」

しかし、驚いた。その一言に尽きる。
昨日、一昨日モールにいた時に姿を見たときは嘘かと思った。学校に行っているかどうかは知らなかったけれど、あの時間に働いているという事はきっと、そういう事なんだろう。
でも、人と会うのが嫌ならわざわざ接客なんてしない。いつまでも国の制度や学校の意向に従いただ流されるままに未来を歩もうとしてる私達とは違って、京士郎は一人で歩いていた。
彼は、変わろうとしていた。もう、自分で物事の決定ができるほどに。
だから、あの日見かけたときに本当は話しかけようとした。なのに、フードコートの給水機で遊んでいた子供達がその給水機を壊してしまい、煙を上げるまでの間に彼の姿はレジから消えていた。その時は私達を見て逃げたんだと思った。

「それにしても、私は筑也のほうがちょっと心配だったな」
「……なんでだよ」
「だって、筑也って頭良いくせにあまり考えずにもの言っちゃうでしょ? 頭で思った事がすぐ口に出ちゃうから先生の反感を買ったんだよね」
「それは、奴が悪い。問題点とは全く関係のない事柄を結びつけて脅迫しようとしたからだ。俺は悪くない」
「そ、筑也は悪くないよ。……だから、さっきはちゃんと京士郎の話を黙って聞けて良くできました」
「……はぁ。あれは俺も何か言える状況じゃなかったからな、俺も非を認めてる」

昨日は電話をかけてみた。10コール、かけ直してもう10コール。
誰も出なかった。京士郎が家に居なかったら、誰も出るはずはない。彼の母親は仕事に行っているはず。シングルマザーの家庭に昼の時間帯は無い。
だから、今日はもう一度モールに行こうとしていた。そしたら、京士郎が来た。
『俺がしたい事は罪の清算じゃねぇ。取り敢えず、今日は普通に会話がしたいと思って来た。……それと、お前らが心配する事じゃねぇけど、今日はすぐに帰れ。このままグダグダしてても事は悪い方向に進むだけだ。……色々とやんなきゃいけねぇのは分かってるが、それは互いに気持ちの整理をしてからだ』
本当に、情けない。元からそうなると思ってたけど良いとこ無しだよ。
……それにしても、コンビニにしては長いな。
この近場だと思いつくのは一箇所しか無いはずだけどなぁ。
そのまま戻るのが怖くなって帰ったっていうのも可能性としてあり得る。
同じ事を思ったようで筑也は腕時計を見ている。

「……遅くないか? いったいどこまでいってんだよ」
「一応、行ってみる? コンビニまでさ。支えなきゃいけないのは私達なんだし」
「なら、俺が行くから理沙はここで待っててくれ。行き違いになっても困るしな」
「うん、じゃあ待ってるから行ってきて……って、どうしたの?」

いきなり、筑也が一点を見つめて動きを止めた。
肩を揺さぶると、彼は視線の先を指差した。そこにはせわしなく動く三人の影。

「あれって……京士郎じゃないか? ……誰かに追われてるのか?」
「あ、本当だ……ってあの方向全然違う方向じゃん! ちょっと待って追わないと‼︎」
「え、追うって……待ってるんじゃないのかよ」
「……馬鹿。一番後ろの全身真っ黒の人、どう見たって不審人物だよ! 力になってあげないと!」
「はあ⁈ まさか撃退するって言うんじゃ……」
「するって言ったら?」
「…………分かった睨むな。それで、戦力は?」
「え? 筑也一人だよ? いざとなったら通報するから」
「ああもう、今日はとことんついてない‼︎ 体育『2』の俺に期待するなよ!」
「もとから期待なんてしないって」

二人して駆け出す。
なんだろうこの感じ、なんだか昔を思い出すなぁ。
このせわしなさ、ごちゃごちゃで息の合わない感じ、まさに昔のまんまだ。
全員、体だけ成長したけど結局変わってない。

……それにしても、京士郎が連れているもう一つの影は誰だろう?


*


Side:篠村京士郎

声を潜めて物陰に隠れていた。
人二人を隠すには少し小さく感じる物陰に一組の男女。
危機が去るのを息を飲み込みただただ心の中で祈り続ける。
今いる場所が学校やのどかでくつろげる場所であったならどれだけ良かっただろう。
今置かれている状況は微笑み合えるものではない。

とある廃材置き場の廃材に、たった一人の殺人鬼が蹴りを入れる。
どうやら見つからず相当に苛立っているようだ。
隣で震える後輩の背中をさすって落ち着かせながら距離をとって次の廃材の陰へと慎重に移動する。理不尽な面倒ごとに巻き込んでしまった罪悪感に苛まれながら、拳を握りしめた。
エヴェレットのアドバイス通りに来たは良いものの、そこからが分からない。
何をすれば良いのか、立ち去れば良いのか? 殺人鬼を野放しにして。
ならば警察を呼べば良いのか? 奴も馬鹿ではない。警察の捜査を掻い潜り、平然と街中を歩き回る肝の座った人物だ。

「……何をすりゃ良いってんだよ。俺も覚悟決めてきたけど、流石に人を殺めた人間をどうこうできる手段なんてそんなに持ち合わせてねぇっての」
「……先輩……逃げましょう? なんでこんな場所にずっといるんですか? 私……私は死にたくないですよ……。お願いです、早く……」
「……ごめんな、今俺が言えるのはそれだけしかない。出来れば一葉だけ先に逃がせればそれが一番良いんだが、入り口はあいつの視界に入る。物音も立つしな」

あいつに対抗するにしても、言ってはなんだが一葉がお荷物だ。
俺があいつの気を留めているうちに逃がしても、一葉の事だ、戻ってきてしまうだろう。
……くそっ、経験が無いと全ての物事にすぐ答えを求める性格が恨めしい。
一葉一人救えずに幼馴染を救うなんて出来るのかよ。

「ーーーおらぁっ‼︎ ……さっさと出てきやがれ! 隠れてないで恐怖に引きつった顔を拝ませろよぉっ‼︎」

罵声と共に廃材の山がまた一つ、盛大に音を立てて崩れ去っていく。隠れ蓑がまた一つと減っていく。生きて帰る可能性が、一つずつ確実に潰されている。
今は無限にあるたった一つが惜しい。引きこもっていた頃は一体どれだけの未来の可能性を見逃していたんだろうか。
きっと、俺はまだその可能性を救い切ることなんてできっこない。
……なら、救えなかった分を一つの犠牲で済ませてしまうのはどうだろうか。
俺がここで犠牲になれば……。

「……先輩」

一葉が服の裾を引っ張る。
いや、くだらないことを考えるのは止めよう。俺はそうやって何回も逃げてきたんだ。
今度は、今回は、逃げるだけじゃない。絶対に逃げ切ってやるんだ。
先の見えない未来の中間セーブをしよう。
長い間失敗してもリセットせずに続けてきたんだ。
全部無くしても俺は目を背けていても今の今まで止まらずにここまで来た。
自動セーブに頼らずに自分の力で、他人の力も借りて、一度立ち止まって振り返るんだ。

「……今だ」

また二つ隣の陰に逃げ込む。
……しかし。
廃材から飛び出た鉄パイプに足を引っ掛けてつまづいてしまう。
かくれんぼが終わる。

「ーーーしまっ…」

盛大な音を立てて一つ山が軋む。

「……先輩! 大丈夫ですか! 早く立ってください! ここで終わりたくないですよ‼︎」
「くっそ……」

地面に手をついて立ち上がる。
突然の転倒で三半規管に誤差が生じたのか、視界が不安定に揺れる。
ザッザッとこちらに近づく音がする。
まぁ、気付かれたか。当たり前だよな。あんなに馬鹿でかい音を立てて聞こえないやつのほうがおかしい。どうして俺はいつもこう肝心なところで……。全く、悔やんでも悔やみきれない。せっかくのチャンスを手に入れたのに、自分の手でそれを不意にしてしまうなんて。

「……はは」

口から諦めのため息が漏れ出た。
それを聞いて一葉は俺の考えを察知したのか、必死に俺の腕を引いて逃げようとする。
橙色に色づいた地面に大きく伸びる黒が混じる。
……一葉、ごめんな。こんなことに巻き込んで。それも俺のせいでこんなことになって、怖い思いさせて。お前一人でも良いから逃げてくれよ。赤くて暗い未来を見るのは俺一人で十分だ。だから、もう……俺なんかおいて行ってくれ。
そして、声が聞こえた。

「……まぁ、覚悟が決まったとは言えど、諦めの良さは変わらないのか」
「……え? どうして……」

一葉が信じられない光景を目にする。そして、顔を上げた俺も同じものを見た。
……どうして、ここにいるんだよ。

「全く、当事者ではない一葉さんが生きようと努力しているというのに当事者が諦めてどうするんだい? 僕が見たいのはそれじゃあないんだけどな」
「エヴィー……なんで……」
「言っただろ、僕はオブザーバーだ。他の世界から来た君の可能性を見届ける義務がある」
「見届けるって……それ終わるって事かよ」
「……フッ」

初めてエヴェレットが鼻で笑った。
エヴェレットが一葉を立ち上がらせる。そして、俺にも手を差し伸べた。

「そんな質問が出来るってことは、まだいけそうだね。さぁ、まだ終わっちゃいないよ。君の役目はここからだ」

力の入らない足で、辛うじて立ち上がる。
エヴェレットのシルエットがゆっくりと振り返り、廃材置き場の中央へと向かう。

「おい……そっちは」
「応援は呼んでおいた。それを見て君がやる気になるかどうか僕は知らないよ」
「……応援?」

深く考えもせずにつられて歩き出す。
そして、観察者によって準備された俺へのステージが照らされている。
少し離れた場所に立つ影が笑う。

「また新しい登場人物か。あと何人出てくるんだ? 一体どれほどの表情を見せてくれるつもりだよ」
「俺は……まだ……」
「まあ、一人増えたところで別に変わらないがな。さっさと終わらせるか」
「おい! 待ちやがれこの変質者ぁ‼︎」
「……あ?」
「……どうして、なんでこんな」

廃材置き場の入り口に二人の人物。筑也と理沙。
どうしても、諦めさせないんだな。
エヴェレットに視線を向けると、ポケットに手を突っ込んだまま「さぁ、これで役者は揃った」とさも他人事のように喋る。
エヴェレットの奴、応援とか言いながら俺を追い込むつもりだ。役者なら俺一人で十分だってのに。

「……分かったよ、やってやるよ。全部拾えるように、やれるだけやってやるよ」
「先輩、私は……」
「ん? ああ、とりあえずエヴィーを盾にして身を守っとけ」
「分かりました。……あの、先輩」
「どうした」
「頑張って……下さいね」
「……おう」

改めて殺人鬼と対面する。
こうして会うのは実に三度目だ。
元の世界で、夜道に肩をぶつけた時。
こっちの世界に来て、目を覚ました時。
そして、今この時。

四度目は、もう来させない。
怠惰に見逃していたブランクの分だけ、取り逃がした後悔を今から取り戻してやろうか。

第十七話、お待たせしました。
テストやらカラオケやらモンストの映画やらで書けませんでした(遊んでないで書けよ)。
第十八話もちゃんと投稿する予定なのでよろしてお願いします!
本当のこと言うと、映画見た後にクレーンゲームでゲットしたBluetooth対応のイヤホンが雑音ひどいのと音質が悪いのとでめっちゃ幻滅して書けなかっただけです。
<2016/12/12 20:38 ソト>消しゴム
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