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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第十九話ーエヴェレット宅ー世界を見透かして -

Side:神居筑也

熱い。まだ春の下旬だぞ?
火照る体に風を受けるのもいいけれど、一番良いのはやはり歩くことだ。
それでもここまで走って息切れしていないというのは、週二の体育も無駄ではなかったんだと実感する。
ただでさえ体力の無い俺が、この中では一番体力がある。そう他人を見下して優越感に浸ることで、自身に降りかかる不安の感情を振り払っていた。
でも今は振り払うことができない。
唐突な殺人鬼との対決、そこから逃げてきたとは言えど、まだ問題は残っている。
隣で息を上げている情けない引きこもり。俺が社会の輪から弾き出した幼馴染。
まだ俺には、片付けなきゃいけない問題がある。

「……それにしても京士郎、お前こいつらとはどんな関係性だよ」
「はぁぁ〜……なんだって?」
「ちゃんと聞けよ。こいつらは何なんだって聞いてんだ」
「ああ……あの女子は俺のバイト先の後輩で隣の男が……えっと……宿主?」
「何? 泊めてもらってんのかよ、マジでどんな関係だよ」
「とある事情で家に帰れないから、唯の親切心から宿を提供してもらってる。名前はエヴェレット・タイムラインって言うらしい」
「ああ……外人か」
「外人ってだけで納得するってかなり偏見だぞ、それ。……まぁ分かってくれたんならいいわ」
「そうか……」
「……なぁ、話は変わんだけど、さっきは巻き込んで悪かったな。根回し気配りが足りなかった。出来ればあんな状況になるのは避けたかったんだけどどうしようもなかった」
「……聞きたい事言いたい事が多いのは俺も同じだ。……て言うか、俺達があそこに行ったのも偶然じゃ無いんだけどな。なんか今話してて少し話が見えた。あのエヴェレットとか言う奴に呼ばれたんだよ、あの場所に来いって電話が来た」
「……はぁ、やっぱりそうなのか、後で理沙にもよろしく言っといてくれよ」
「ああ。……それより、どうして殺人鬼なんかと殺り合おうとしたんだよ。お前が簡単に勝てるような相手じゃ無いだろ」
「……それなら俺もお前に言いたい事がある。……どうして俺が逃げろっつった時にさっさと逃げなかった? 俺としては一人でも逃がそうと必死だったから構う暇が無かったから気を遣えなかった。お前はあの場で何をしようとしてた? 何か明確な目的があってあの場に理沙といたのか?」
「…………」
「俺からしたら、あの危険な状況で何も出来ない奴はあの場から離れさせようと努力するけどな」
「……出来るわけねぇだろ。そんな、お前だけを置いて逃げるとか」
「……それはここで言うことじゃねぇだろ」
「また昔みたいに逃げるとか出来なかっただけだ」
「……それで、ただ見てるだけだったと?」
「ち……違う!」
「本当にそうなのか? どうせなら昔みたいにいなくなってくれれば有り難かったんだけどな」
「じゃあ逃げればよかったと、そうか、お前自分で気付いてないだろうけどな、かなりの天邪鬼だな」
「……どうしてだよ」
「あそこで逃げたらお前が俺達に話しかけてきた意味がなくなるだろうが。お前の事だ、どうせそれなりの勇気が必要だったんだろ?」
「…………うるせぇな‼︎ そんな過ぎたこと気にしててもしょうがねぇだろ⁉︎ 体力無ぇくせにまた思い上がってんだろ! いい加減その性格直したほうがいいと思うけどな、筑也こそ社会出れないんじゃ無いのか? バイトしたこと無いだろ」
「は、はぁ⁉︎ 何言ってんだ、振り切った雰囲気醸し出しといて実は結構根に持ってんだろ? だからねちねちとさぁ」
「くっそ変わんねぇなその性格、どうにかなんねぇの?」
「お前こそその絶対に譲らないみたいな虚勢張ってても意味ねえよ」

面と向かって睨みあう。
そういえば、まだこうして互いの顔を見ることはしてなかったんだな。今更気付いた。
建前というのは実に気味が悪い。何かを隠すための建前なのに、その隠す何かすらわかっていない時がある。
振り切っていなかったんだ。

「……もう止めようぜ、お互い言いたい事は決まってる。だろ?」
「気にするのは止めだ。引きずるのもだ。あの時の事のツケはたった今キッチリ清算した。それでいいよな?」
「だったら金輪際その話題は無しな、思い出すのも結構辛かったりすんだ」
「……そうか、迷惑かけたな、本当に」
「今度なんか奢れよ、それで勘弁してやる」
「そんな事でいいのかよ、……まぁ軽く済ませたほうがいいのか」
「理沙にも伝えといてくれ、それじゃあ、またな、筑也」
「ああ、またな京士郎」

拳と拳を軽く突き合わせて互いにそれぞれの帰路をいく。
これでなんの後腐れもない。俺達の間には何もなかった。
また、俺達はただの幼馴染に戻る。



*

Side:篠村京士郎


「あんな簡単でよかったのかい?」

玄関を上がると、エヴェレットが話しかけてくる。
あの時の事は、あの時の事。確かに心に傷は残ったが、それでも関係の修復は可能だった。
それだけ確認出来れば満足だった。

「簡単に、片付く事も有るんだよ。……まだこれで終わりってわけじゃないけどな」

そう言って笑う。
やらなきゃならない事。半分は済んだ。
残った半分は、更に難題。正直俺が解決する必要があるのか分からないけれど、それを完遂して初めて本当に安心できるような気がする。

「それで、僕は君に聞かなければならない事がある」
「……さっきのあれか」
「そうだ。僕は君にアドバイスはすると言った。でも手を貸すとは言っていない。それを承知の上で君はあんな事をしたのか、理由を教えて欲しい」
「理由……ね。ふざけて言えば、手を貸す貸さない以前に誰だって自分の命が危なくなったら回避行動に出るだろ? お前が奴とやり合えば、確実に勝てる。どう見てもお前の圧勝だったけどな」
「ふざけて……なんて事は理由にはならない。本心は、どうだった」

本心かぁ。
あの時のとっさの判断でって言っても、理由にはならない。その行動原理の根底では何を考えていたのか。
……いい理由が思い付かない。デタラメにでっち上げてもエヴェレットの信用を損なうだけだ。取り敢えず、箇条書き程度の事を言っておこう。

「お前も見てて分かるだろ、俺じゃ全然相手にならなかった。正直なんも考えてなかった。俺一人でどうにかできる状況じゃなかった。それに時間がかかってたら警察が合流してもっと面倒な事になってた。警察が解決しても、お前の言う意味での本当の解決にはならない。……それに、頼れる奴がそばにいたってのもあるかな」

ひとしきり言い終わって、沈黙がその場の空気を侵食する。
10秒程の後、エヴェレットは小さくため息を吐いた。

「……しょうがない、何もかも準備不足だった。君がもっと早く決心していればもっとマシな考えに行き着いてくれたのかな」
「マジですまねぇ」
「いいんだ、それじゃ次の機会に向けて対策会議をしよう次までにはまだ期間がある」
「なぁ……ちょっと良いか?」
「ん? なんだい?」
「その……さ、お前のなんでもかんでもお見通しみたいな自信はなんなの? 初めて会った時も俺たちが来るのを知ってるみたいだったよな。……どうしてそこまで自信を持てるんだよ」

俺が若干話についていけずに質問する。
というか、いろいろ過程を省きすぎだ。名探偵の名推理を聞いた後での犯人逮捕なら納得できるけど、気付いたら何もかも警察が解決していつの間にか事件が片付いてました、みたいな……この……腑に落ちない生ぬるい感覚が残る。
エヴェレットは若干考えてから「ああ」と呟いた。

「していなかったかい? 僕がそれらの出来事を全て事前に把握できる事を」
「……は?」

んん⁇ 頭の処理が追いつかないぞ? 何を言っているのかさっぱりだ。

「僕はこの世界含め数多にある可能世界の可能性を全て見る事が出来る能力がある」

耳を疑った。
……い、いやいやそんな事……ねぇ? あるわけない、あれだ、きっと行き当たりばったりってやつだ。そもそも、そんな事ができるんならエヴェレットが全部やってくれれば良いんじゃない?

「ああ、そうなんだ。……で、ぶっちゃけ実は?」
「いや、もうぶっちゃけたんだけどね。世界を見透かす能力、世透かしの能力だよ」
「……本当にそんなのがあるんだとしたら、なんで黙ってた?」
「聞かれなかったし、必要な情報じゃないからね」
「そもそも、どうしてお前がそんなものを持ってる訳?」
「こういう物語ではありがちなパターンだと思うよ? 僕みたいなチートキャラは一人くらいいてもおかしくはないじゃないか」
「何言ってんの?」
「いや済まない、少し冗談を言った。……でも、能力自体は本物だよ」

ううむ?
聞いただけでは、なんて言っても思い返せばその能力があったからと言われれば納得できるけど事柄があんな事やこんなこといっぱいあり過ぎてもはや速攻で脳が納得しかけている! なんかもう楽な方へ身を委ねれば良いんじゃないかって方向に脳が処理を始めてしまっている‼︎
でも……。
信じたいけどすぐには信じたくない変なプライドが邪魔して……いや、これは恐怖だな、うんきっとそうだ恐ろしすぎて恐怖しているんだ。

「なぁ……、俺が仮にそれを信じるとして、だ。今までにその能力を駆使して俺にアドバイスをしてくれてたのか?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、手はかかると思うんだけどその能力の証明をもう一度見せてくんね? 俺がそれを信じるためにもう一押し欲しい」
「信じるのかい? そんな非現実的な僕の能力を」
「お前が実際持ってんなら話は別だ。……それに、それがなかったら俺はここまでたどり着けなかったしな」

すると、エヴェレットが空を見つめて何やら紙に走り書きした。
その瞳を観察しても、特に変わった点はない。
世透かしの能力。簡単に言うと、パラレルワールドをカンニングする能力。
しかし、そんな未来を覗くなんて本当にできるのか。パラレルワールドは世界が違えど時系列は同じなはず。時間の先読みなんて平行世界関係なくただの未来予知な気しかしないが。
目の前に一枚の紙。九つの数字が書き込まれていた。

「これで良いかな」
「ナニコレ」
「少し時間のかかる証明だよ。宝くじの。知らないかい? 数字を九つ選んで」
「ちょっと待てよ、なして宝くじなんかの番号を? 当たってるの? これ」
「それはお楽しみだよ、ちなみに内容は度を考えて二等にしてある。金額は……まぁ自分で調べた方が驚きは大きいかな」
「そうじゃなくて、今すぐにできるような証明を……」

俺が納得出来ずに食い付くと、エヴェレットはふっと笑う。

「二等だよ? 信じたくないのかい? 当たっていると信じたければ僕のことも信じれば良い。当たっていないと疑うのであれば僕は協力出来ない。信じれば君はお金と明るい未来を勝ち取れる。信じなければ……分かるね」

エヴェレットはそう言うと俺の肩に手を置いた。
つまり俺は、目の前に餌を吊るされた馬みたいなものか。
俺が呆然と突っ立っているのをよそに、踵を返してエヴェレットはリビングに向かっていく。
俺はハッとして後を追いかける。

「全く……そんなの信じるしかねぇじゃねぇかよぉ……」

人間の心理につけ込むこの方法は賢いのか卑怯なのか。
信じるしか道のない俺にとってはどちらとも決めがたい。

みかんとコタツと整ったWi-Fi環境。この三つさえあれば冬は生きていけます。
……あの、第二十話は新年になってからで良いですかね。スランプ言ってるのに調子こいて2話連投なんて言うもんじゃないですね。今頑張って第二十話書いてます。
それでは、みなさん良いお年を。
<2016/12/31 19:45 ソト>消しゴム
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