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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十話①ーエヴェレット宅庭ーフルスイング -

Side:篠村京士郎

棒をフルスイング。
棒は雑な弧を描いて設置してあるリンゴを掠めてそのまま空を切った。
リンゴはバランスを崩して地面に落ちる。
横に立っていたエヴェレットがリンゴを拾ってまた台の上に乗せた。

「そうじゃない、君はどうして振る時に目を瞑るんだい? せめて棒が玉に当たるまでは玉を目で追わなきゃ永遠に当たらないよ」
「はぁ……はぁ……しょうがねぇだろ、こちとら丸々三年は運動してなかったんだよ」
「そうは言っても……他のに切り替えるかい? 篠村くんが出来そうなものならまだいくらかある」
「いや……このまま続ける。単純作業だから体が動きを覚えやすい……多分」
「もう一度、まず軽く振ることからやり直そう。フォームはそれからだよ」

もう一度木の棒を握りなおす。軽い素振りで棒は台の上すれすれを掠める。
台に当たっても、目測が大きくずれても、何回も繰り返す。
昨日、直接対決してみて分かった。
俺はまともにやりあうなんてかっこいい事出来ない。一度は奴を押さえつけてもすぐに意味は無くなって、やり返されるだけのループだ。
だったら、時間稼ぎで防御に徹底する方が有効。だから今は普遍的な道具を使う訓練をしているんだけども……。

「じゃあもう一回リンゴを置くよ。……振る最中もちゃんと目で追うんだ、いいね?」
「そんなん分かって……」

目で追いながらフルスイング。
棒はまっすぐリンゴの中心をとらえた。
しかし、棒はリンゴの実像に届かずにスルーする。

「……だあぁ! 駄目だ‼︎ リンゴとの距離意識してなかった!」
「篠村くん、君は力を込め過ぎると体のバランスを崩して途中から軌道がぶれ始めてる。……次は力が入らないように片手でやってみよう。幸いこの棒は片手でも持てる軽さだからね」
「いやそれは簡単だろ、ほら」

片手で振ると棒はリンゴを打ち据える。
いとも簡単にリンゴが割れて中の果肉が見え隠れしている。
流石にこれは誰でも出来る。ただ簡単に思える反面簡単に止められてしまう。

「……なら棒を使うのはこれくらいにして次だ。投擲に移ろう」
「俺的には一つの事続けた方が伸びんだけど……。コロコロ変えられたらキツイんだが」
「僕は君のコーチとして言うべき事ではないんだが、実際これをベストコンディションでやれるわけがない。実戦はだいたいが分の悪い状況下でのやり合いになる。どれだけ作戦を立てても一度道を外れればそこから先はアドリブすがりになる。……だからむしろコロコロ変えてそのめまぐるしく変わる環境に慣れてもらう必要がある。規則的な訓練は持久力と連続的な行動パターンを育む。でも、不規則的な訓練は咄嗟の判断力と切り替え、つまり脳を共に働かせる行動が出来るようになる。ずる賢い思考を生むんだ」
「……なるほど?」
「社会を悲観的に捉えるのが得意だろう?」
「否定は……しねぇけどさ、常に考えろなんて無理な話だな」
「そうでもないさ。実戦で一番危険な事は思考の停止と混乱だ。……そうだ、考える事が出来なければ、視界に入る情報をすべて取り込んでみる、自分にとって重要な思い出を思い出すとかも対策としては一つだ」

そして俺はエヴェレットから柔らかくて軽いボール、しかも片手では掴みにくいボールを手渡された。体力測定のボール投げで使うようなバレーボールみたいな柄のやつだ。
エヴェレットの家には本当になんでもあるな……。昨日もエヴェレットの部屋見たら「倒れるだけで腹筋」が謳い文句のあれもあったし。サンドバッグなんか使い古されて何度も修理した箇所があったし。
なのにキッチンとか洗面所は綺麗だし何なんだこいつ。世透かしの能力言う前に家事のステータスが高すぎるだろ。

「投げ辛いんだよなぁ……このボールはさ」
「投げ辛いんならぴったりだ。後で投げやすいものを持った時に投げやすさが違う」

俺がコロコロ変わるトレーニングに四苦八苦してる横から声が飛んでくる。
その白髪の少女は病院でよく見そうな白地にクリーム色のカーディガンを着ている。

「京士郎〜! もっと肩に力入れて〜!」
「うっせ、部外者が口挟むな」

初体験する重力の呪縛からある程度回復したカイリは、俺が投げたボールをキャッチして投げ返してきた。ワンバウンドするボールを受け止めると、自分のトレーニングに集中する。
カイリが回復したのは昨日の夜だ。起きてまず第一声が「ご飯食べたい」だったのは拍子抜けだったが期待外れではなかった。
奴が寝てる間に俺たちに何があったかなんて知る由もなく勝手気ままなマイペースを貫くのはカイリの性質だ。俺が知ったこっちゃない。
今は自分でいろいろとできるようになったが昨日は大変だったのだ。
起きたはいいが立つのに一苦労して何回も転びそうになって何回も冷や汗をかいたのを思い出す。
筋肉痛がまだ続いていたとは思わなかった。
カイリ本人には悪いが頭の中で言わせてもらってもいいか?
正直介護みたいですごく嫌だ。
本人に言ったらもっと面倒くさくなりそうなので口には出さないけど。

「んで、これを急所に当てられれば……」

奴を止められる。
昨日エヴェレットが奴を止めた方法はあまり聞いた事がない方法だった。
あれは頸動脈を狙ったらしい。なんでも、心臓に近い血管に一瞬のショックを与えればそれで人は気絶してしまうしらしい。だいたいは背後から首を狙ってやるみたいなのは聞いた事があるけど、不意打ちが主流だから向いていない。

「……まぁ、別に俺が終わらせる必要性なんて、どこにも無いんだけどな」

小声で呟く。
昨日警察があの殺人鬼を逮捕していればそれで終わったんだ。でも、テレビでニュースが報道されていない時点でその可能性はない。おそらく目を覚まして素早く逃げたんだろう。エヴェレットは時間稼ぎさえ出来ればと軽めにやったと言った。
俺はもう一つ策を考えている。それでやればすぐにだって終わらせる事ができるんだ。エヴェレットに奴の居場所を探らせてそこに警察を送り込む。だけどそれにエヴェレットが賛成するとは思えない。
カイリや一葉に無理をさせて危険な思いをさせることも無い。
だから、今こうやって訓練している訳で。理由があれば努力は出来る。失うものが明確だと打ち込む決断が出来る。
ノックを意識してボールを上に投げて木の棒を構える。
当てる高度を予測して両手で思いっきり振った。

「…………ふっ!」

すると、運良く当たったボールは塀に反射してエヴェレットの後頭部を直撃した。

第二十話でっす、やっぱり来週休みます。やっぱり無理してました。次までにありもしない脳内プロットを再構築し直してきます。あれです、諸事情ってやつです。本当にしょうがないですよね。それで、次回の投稿は21日頃になると思われます(どこまでも曖昧)。
<2017/01/07 02:35 ソト>消しゴム
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