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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十話②ーエヴェレット宅庭ー約束 -

Side:カイリ


さっきボールを掴んだ感触がまだ手に残っている。
手のひらを見つめてその余韻に浸る。やっとここまで出来るようになったんだ。
ベランダに座って足をぶらぶらさせながら京士郎がトレーニングに励む姿を他人事のように見つめた。
…………変わったよなぁ、あいつも。この世界に来るまでは、あんなに臆病で目を背けることしかしないロボットのようだったあいつが、今は誰か……というよりは自分の為? に頑張っている。
私は約二日くらい寝込んでいた。初めての感覚に心も体もびっくりして、好奇心ばかり先走りして体が付いてこれなかった。
自分的には無理をしてた自覚は無い。だって楽しかったし。無理をしてたならあそこまで笑うなんてできなかった。
ようやく目の前の事から色んなものに目を向けられるようになったと思ったら、置き去りにしてた疲れが追い付いてきた。苦痛も苦しかった。字に「苦しい」って入ってるくらいだしね。
私は何も知らずにただ寝込んでた。その間に色々あったらしくて、私は一人おいてけぼり。……こういうの、慣れてるからいいんだけど。
後で話は整理して聞かせてもらえるらしいので今は暇潰しの穀潰し。
……ああ、日差しが眩しいな。京士郎はよくこんな中で体を動かせるな、すぐに疲れそうなのに。
改めて、私は私の立ち位置が今も昔も変わらないことに気付く。
元の世界ではただ見るだけ喋るだけで、力になれなかった。あまつさえ心配かけて迷惑かけて、京士郎が正気に戻らないようにただ気持ちの注意を逸らすだけで、もっとダメな方向に引っ張ってた。
今のこの世界では、一人先走って追い抜かれて、知らないところで話が進んでやっぱり見てるだけ。
この状況に流石の私も焦り……というか何というか自分の不甲斐なさを悔しいと思う。あの京士郎を正気に戻したのは一葉ちゃんだって言うし、年上として、ずっと一緒にいた仲間として、何かしたい。
なりより、一葉ちゃんに少しは先輩らしさを見せ付けてやりたい!
……あれ? そういえば私一度も先輩って呼んでもらえてないよね? ずっと「カイリさん」としか呼ばれてないような気がする。
なんか親しげに呼び合えるような呼び名無いかなぁ……。私には固有名詞が存在しないからただ京士郎が私をカイリって呼んでるだけで他に名前がありそう。っいうか、あってもいいよね? じゃないと、やっぱり距離感がある気がして壁を無意識に作りそうだし言いたいのに言えないもどかしさとかありそうだし。
暇潰しが暇すぎてため息をついたら気に留めてくれたのか一葉ちゃんが喋りかけてくれた。

「大丈夫ですか? 体調が悪いのなら無理をしなくてもいいですよ?」
「うん、大丈夫。色々心配かけちゃってごめんね」
「いえ、お気になさらず。何か気になる事があったら言ってください」
「そっか、じゃあ……一つさ話をしようよ」
「何の話ですか?」
「まぁ……色んなね? 私はもっと一葉ちゃんのこと知りたいし、仲良くなりたい。逆に聞きたいことあったら聞いていいよ」

一葉ちゃんは少し考え込んで、顔を上げた。

「よかったら、何ですけど……カイリさんって先輩とどんな間柄なんですか? その、兄妹だったりとかそんな感じで」
「私かぁ……」

考えた事がなかった。聞かれることは無いしまず私自身が認識されるものでもなかったし。
兄妹……双子? なんて無いか。
とりあえず思い当たる節があるのは……。

「これもこれで現実離れした話なんだよなぁ……」
「え?」
「説明しづらいっていうか、私は……あいつ? って言えばいいのかわかんないな。うん、難しいなこれ」
「ゆっくりでいいですよ」
「まあ、知ってる通り私は京士郎と同じ家に住んでるんだけどね、兄妹じゃなくて、居候でもなくて、血縁関係にも無い……。私=京士郎って言うのが一番かな」
「どういう意味ですか? なんかまた平行世界が関係してるとかですかね」
「あーまぁそんな感じ。京士郎の事から説明したほうが早いね。……今は違うんだけど、京士郎は以前二重人格者だったの」
「以前って事は、もう治ったんですか」
「治ったって言うより、京士郎の中から無くなったって言うのが正解。そしてその無くなった人格が私。お分かり?」
「カイリさんが、先輩の人格?」
「そ、私は二重人格者の京士郎から分離したもう一つの人格って事。だから、元々の世界に私の体は存在しないんだ。だから一葉ちゃんにも見えないし京士郎だけが私を認識出来る。もちろん、一葉ちゃんが京士郎の家に来た時もずっと見てたよ?」

う〜ん、何だか自分を客観的に捉えるのは初めてすぎて何が自分の特徴なのか……。
まぁ、説明できる事はしたよね。

「ま、そんな感じかな。次は一葉ちゃんの番」
「え⁉︎ それだけですか! もっと何かあると思ってましたけど……」
「残念だけどね〜、履歴書とか書かされたらほぼ白紙だよ? 生年月日曖昧だし性別は一応女だけどそもそも生きてるのかさえも危うい」
「ええ……。エヴェレットさんの時と同じ空気を感じますね」
「あんま自分に興味無いんだよ」

体がなくても、こうやって色んな人と関わり会えるのは結構楽しいけど。話すたびに次の言葉が勝手に出てくる。何でも無いことなのに、それがずっとやめられない。

「私、そういえばずっと気になってたことがあるんですよ」
「あーあー、なんかずっと悩んでるぽかったもんね」
「分かってたんですか……。まぁ、元の世界で、猫を飼ってたんですけど、今大丈夫なのかなってずっと心配で、昨日やっと無事だってわかったんです」
「ん、なんで? まさかエヴィーに聞いたとか?」
「エヴェレットさん、他の平行世界を垣間見る能力があるらしくて、それで見てもらったんです。私は見ていないので確定では無いんですけど、これで安心だなって……」

手元を弄って本当に安堵した表情で柔らかく微笑む一葉ちゃんは、なんだか……。
ああ……、人のこういう顔って好きだな。見てるだけでこっちの不安まで霞んで見えてしまう。
今まで、本当に今まで自分の心の内を打ち明けたことなんて一度だってなかった。まず京詩郎は聞き流すタイプだから私の言葉なんてただの茶番としか受け取らないだろうし。
心はすごく穏やか優しい気持ちなのに、目の奥に熱がこもる。
口が自然と開く。これは、止まりそうに無いな、なんて思って。

「ねぇ……一葉ちゃん。お願いがあるんだ……」
「お願い……ですか? いいですよ……って、大丈夫ですか?」

どうやら私は、我慢出来なかったみたいだ。
こぼれ出した涙が頬を伝う。……なんだろ、頬を涙が伝うと少しくすぐったいんだよね。

「お願いって言うよりは、約束かな。一葉ちゃんに、頼みたい事。無責任で自分勝手だけどさ、私が思いつく限りこれしか方法がなくって……」
「はい……なんでしょう」
「京士郎も一葉ちゃんも全部終わったら元に戻れる。そう思うんだ。元の世界に、何もかもが元どおりの世界に。たださ、私はきっと元どおりに行かないと思うんだ……。元の世界に私を受け入れる器が無いから、この世界から弾かれたらそのまま消えるかもしれないじゃない? だから、その事でお願い」
「え……ちょ、ちょっと待って下さい! なんでそんな事……、わからないじゃないですかそんな事なんて。エヴェレットさんに聞いてみましょう! そうすればきっと……」

すっと立ち上がる一葉ちゃんの手を掴んで行かせないようにする。
今は、少しでも遠くに行かないで欲しい。きっと、一度側から人がいなくなったらもう話さなくなっちゃうかもしれないから。

「エヴィーと最初に会った時、私だけ名前が分からなかったでしょ? それって、私がかなり不安定な存在だからだと思うんだ。向こうの世界の私は、ただの京士郎の妄想かもしれないしさ」
「いなくなるなんて……言わないで欲しいです」
「これも可能性の話。だから、もし私がいなくなったとしたら、あいつの事、任せてもいいかな」
「先輩を……ですか?」
「そ、京士郎は結構臆病で自信が持てないやつだから誰かが引っ張らないと今みたいに何かやろうとしないし。……それにいつかは私はいらなくなる存在だから。いつ消えてもおかしくないよ? 京士郎も私を認識できなくなったらそれこそ私なんてただの亡霊と同じだし」
「……でも」
「これはただの仮の話。真に受けないでよ、洒落にならないじゃん」

そう、私だって洒落になってくれた方がいい。だから、答え合わせなんてしたくない。
一葉ちゃんの言葉で胸が熱くなる。涙が止まらなくなる。

「……なら、私からも一つ約束して下さい。私と一緒に元の世界に戻ってきて下さい。こんな話をされて、目が離せなくなっちゃうじゃないですか。カイリさんも戻ってやっと全部解決なんです。一人だけ途中でいなくなるなんて卑怯ですよ」
「……わかった。約束だよ、絶対に戻ろう」

小指と小指を組んで指切りげんまんをした。
ここでやっと、心の不安を乗り越えられる気がした。
……絶対に戻りたい。戻って、一葉ちゃんの猫を見たりしたい。
この世界での日々が、どんどん手放せなくなる。
指切った、で離れる手を、一葉ちゃんが掴む。

「戻る時は、手を繋いだままで帰りましょう。皆で、ちゃんと帰るんです」

……あぁ、絶対に戻らなくちゃ。
目の前にいる友人に、悲しい思いはさせたくないな。
この子は笑ってないと駄目なんだ。

久々にボクらの太陽をプレイしてきます。
太陽ぉぉーーー!
<2017/01/07 02:37 ソト>消しゴム
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