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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十二話①ースーパー『えくぼ』ー意志の弓にて -

「……しっかし、どうしてリンゴが必要なのかねぇ」

普通にスーパーに来たけど、考えてみればコンビニでも良かった気がする。
その点、「まぁ良いじゃん」で流せてしまうカイリはすごいと思う。変に小さなことで引きずる俺と違って結構許容範囲が広い。

「でもさ、下野? っていう奴が本当に今日行動するんなら確かにエヴィーの判断は正しいと思うよ? だって、私達が全員家にいて放火でもされたらそこで終わりだから敢えてバラバラにして被害を少なくしようとしてるのかも」
「その頭のいい奴の『敢えて』の基準が俺には全く分かんねぇよ。……つーか、家みたいな狭い場所だったら例えエヴィーでも太刀打ちできないと思うぜ?」
「でも京士郎は場所が狭くても広くても結果は変わんないでしょ?」

これからやろうって時に気分を下げるようなこと言うなよ。
実際そうなのは否定できねぇけど。
持つカゴにはリンゴが一袋分入っている。その中にお徳用サイズのお菓子やらを入れていく。
……そう言えば俺がこうやって人の多いところで買いものって……、いや、接客のバイトしてるから疑問に思ったけど引きこもりでも人混み大丈夫なんだな。
むしろカイリがこの場で倒れないことを祈る。
まぁ見た感じ大丈夫そうだし心配することはないか。
エヴェレットから渡された買い物リストを眺めていると、背後から肩を叩かれた。

「よう」
「……おう、お前らかよ」

見慣れた顔、筑也と理沙がいた。
この世界では紹介がなかったが一応付き合っているんだよな。それで二人でこのスーパーに来てしまう勇気に感服する。

「悪かったな、そんな落ち込んだ声出さないでくれよ」
「外で人に声かけられるのが嫌だっただけだ。……それで、その後は? なんも変わりねぇか?」
「私達は大丈夫、……むしろ京士郎の方が心配だったよ。だって、今もあの殺人鬼の行方は分かってないんでしょ? それに、私達を守るためとは言え、死ぬかもしれなかったのに……」
「ああ、大丈夫なんだな、なら良かった。きっと奴が理沙達に関わってくることはないだろうから安心しとけよ。ただ、仮に姿を見かけても絶対に関わろうとするなよ、次は生きて帰れる保証がないからな、俺のレジリエンス舐めんな」
「レジリエンスってなに?」
「精神的な心の回復力の事。カウンセリングで使われる用語だ」
「へぇ〜カウンセリングの事に詳しいんだね?」
「いや俺はカウンセリング経験ねぇからな?」

筑也が首をひねる。
当然だが鵜呑みにできる話じゃないし不安を直ぐに払拭できるほどの安心材料を掲示してない。

「……何だろうな。お前のその漠然とした自信は。どうして断言出来る。それに、警察に言ったりした方が」

そうだよな、でも今の警察は良くて注意喚起くらいだろうな。ましてや学校行ってない引きこもりの戯言ならなおさら。事件が起きてからしか動かないように見えてしまうから自然と条件から外されている。

「俺が『今後はあんなことに巻き込まれませんように』なんて願っても逆の事が起きるのは分かりきってるしな。知らない内に悪いフラグがめちゃくちゃ立ってんだよ」
「良い方向に向かうフラグはないのかね」
「全部真っさらに解決すればあるいは。俺みたいな引きこもり(フラグスイーパー)の悪いフラグの回収率だけは高いからな、むしろ才能か?」

エヴェレットのことは語らない。
信じてもらえないだろうし、喋りだしたらきりがない。

「……今出来るのは考えない事だな、どう考えても日常に持ち込んでいい悩みじゃねぇしさ」
「異端分子の事は忘れろってか? ハハ、冗談キツイな。そうそう頭の中から追い出せる経験じゃない」
「成績に響いちゃったらそれはちょっとだけ考えるけど……京士郎も皆生きてたし、悪い思い出じゃないよ」

お前達にとっちゃそうなるよな。俺は違うけど。
こいつらが近い未来この事を笑い話に出来る日が来るのなら…………それは、無いな。この世界の俺はあの時の事を知らない。理沙や筑也とも仲違いしたままだ。元に戻った時に食い違いが生じるから、それだけは何とかしとかないとな。

「……そうだ、その事なんだが」
「京士郎! これ! これもお願い〜って、あれ?」

……あ。
こいつの存在忘れてたぁぁ!!!!
今まで言及されなかったから俺も気に留めてなかったけど、こっちの世界にこいつは存在しない。どう説明すれば……。
カイリも状況の悪さを悟った顔で俺に尋ねた。

「……えっと……もしやこれはお取り込み中……?」
「いやもう……タイミング悪すぎだろ……タイミングの問題じゃ無いか、そうか、お前を連れてきた事自体が問題だった!」
「えええ⁈ ちょっとそれは酷いよ! 私は頼まれたから来ただけなのにそこまで言わなくてもいいでしょ⁉︎」
「お前がノリと気分だけで生きてる生物だって事忘れてたよ……ホント不幸体質だな」
「不幸体質⁉︎ どっちが! どう考えても不幸体質なのは悪く言われてる私でしょ⁉︎ 他人を蔑むならそれ相応の生活と地位を取り戻してからにしてよ!」

もはや口から溢れて止まらない悪態にストップをかけたのは筑也だった。
そうだ、こっちも忘れちゃいけないんだった……。
挙手した筑也に俺が発言の許可を与える。

「どうぞ」
「どうぞって言うか……まさかとは思うけど京士郎の」
「それは無い‼︎」
「あり得ない!」

絶対に『彼女』という単語が続くと思ったが故の即否定である。
俺とカイリの息の合った否定に筑也は「そ……そうすか、すいません」と若干縮こまる。

「なら……どういった関係で?」
「どういった、どういった関係、そうですかそれ質問しちゃいますか。それはな……」

……どう説明すれば⁉︎
元の世界じゃただの浮遊体だったし、幽霊同等の扱いで……。

「えっと…………背後霊?」
「マジか、俺にも霊感あったんだな。で? どこに店の商品をわざわざ律儀にカゴに入れる背後霊がいるんだ」
「京士郎、流石にその説明は可哀想だよ……普段は仲いいんでしょ?」
「仲……良いの?」
「いいよもう、なにも言わなくて。……えっと妹です」
「京士郎……妹さんいたの?」
「えっ、いやそれ俺に聞かれても……いたの?」
「本人がキョドッてどうするんだよ。それで、お名前は?」
「コトカって言います。兄がお世話になってます」

コトカ? 誰だよ。まぁ、カイリって日本人じゃ無いような名前いうよりはマシか。

「京士郎、どうして言わなかった」
「あー、生き別れの妹とか言ったら納得してくれます? 現状俺にはそれしか言えない。ってか俺もそこら辺よく知らないし」

カイリからフォローちゃんとしてよ! みたいな視線が飛んでくるが目をそらして回避。
俺はなんか面白がって適当になってる。
と、思ったら遊びの空気はすぐに終わってしまった。

「なら、妹さんとの時間を邪魔しちゃダメだし、俺達は行こうか」
「そうだね。じゃあ京士郎、またね」
「ああ、ちょっと待ってくれ。最後に一つ」

これが最後かもしれないから伝えておかなければいけない事は言っておく必要がある。のちのいざこざや勘違いを生まないためにも。

「次会う時、俺はもしかしたら今までの事忘れてるかもしれないんだ。いきなりこんな事言って悪い、でも実際そうなるかもしれない。次会った時に今日の事を忘れて酷い言葉をぶつけるかもしれない。だけど、そうなった時はできるだけ普通に接して欲しい」
「忘れる? どうしてだよ、なんか深刻な病気にでも……」
「違う、その可能性はない。でも、俺は次にあった時にまた仲違いなんてなりたいねぇんだ。だから、頼む。もし仲違いした後にまた話しかけられる理由を今作っておきたい。目的がなかったら、俺はきっとなにもしないし避けると思う」

頭を下げる。思えば、こいつらに頭を下げてお願いなんて、今までなかったな。
二人は顔を見合わせたが、すぐに笑顔になった。
そして、差し出される手。

「まあ、妹の事も忘れてるような感じだから、あり得るかもな。……分かったよ、その約束してやるよ」
「仲直りの理由なんて言わなくても、私だって胸糞悪いのはお断りだよ」
「……ありがとな、二人とも」

最後に握手を交わす。
本当に、これが最後だと思ったほうがいい。俺が次を期待しては叶わない。

「じゃあ、またな」
「それじゃあね」
「ああ…………そうだ、次会った時は、ちゃんとお前ら二人とも付き合ってるって事、伝えてくれよな」
「⁉︎」

二人は顔を赤くして帰って行った。
カイリが物でいっぱいになったカゴを持ち上げた。
俺たちも遅くならないうちに帰らなくてはいけない。

「なんか……珍しいね。京士郎からあんな言葉が出るなんて思ってもなかったよ」
「ふざけろよ……。つうか、悪りぃな、お前の事どう説明すればいいか俺には想像がつかなかった」
「想像って……それこそ酷い物言いだよ……」

出来ればこのまま元の世界に帰ってしまいたい。
「また会う」約束が出来ただけで俺は満足だった。
セルフレジの最後尾に並びこんだ。

②は……来週です。
間話を来週のどっかで気分で投稿します。でも短いと思うので。
もうすぐバレンタインっていう事に近所のイトーヨーカドーに行って気づいた。
しかしまぁ……都会っていうのはイベントの大量消費地だね。季節がベルトコンベアーの上に乗っかっているみたいに目まぐるしく景色が変わっていく。
<2017/01/29 23:14 ソト>消しゴム
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