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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十四話ー廃工場ー鉄パイプの戦士 -

「うああああぁぁぁあぁぁっっ‼︎‼︎」

激痛に耐えきれずに腕を抱えてうずくまる。
下野は抜け出して俺から距離をとった。

「……こんなもん使うつもりは無かったんだがな」

突き刺さったナイフは腕を貫通して反対側にまで紅く染まった金属が暗い輝きを放ち続ける。
抜かなきゃ、出血を……ああ、くそ……。血が、紅い、止まらない。
ナイフを抜き取ろうとして突き刺さるナイフを握り力を込める。

「あっ……がぁっ、……クッッソがぁぁ……」

しかし、少しナイフに力を加えただけで腕に電撃が走り、すぐさま断念してしまう。ただでさえ異物であるナイフが更に肉に触れて接触部分から拒絶反応がでる。
……これは無理だ。
再び抜こうとしても、さっきの電撃のような痛みを頭で考えてしまい、全くナイフを握る手に力が入らなくなってしまった。またあの痛みが俺を襲うとなると、臆病になる。
血で赤くなり使い物にならなくなった左手は諦めて、まだ使える右手に鉄パイプを掴む。
片手でも十分に扱える。訓練の時もそうだった。片手の方が思い通りに動く。そう思い込まないと、この痛みに飲み込まれてしまいそうだ。
先ほどまでのあざや打撲なんて、左手に比べたら気にもならない。……まだ、耐えられる。

「……道具なんてなくても、俺を殺せるんじゃなかったのかよ」
「お前が想像以上に凄いやつだったって証だ。まぁ、勲章みたいなもんだ、嬉しく思え」

何度目になるのかわからない鉄パイプでの薙は、やはりいとも簡単に避けられてしまう。
扱うのが片手だと、多少無理な体勢で攻撃もできる。
ただ心配なのは、片手だけの力でやつを仕留められるのかということ。やつに攻撃が当たったとしても、当てれば勝ちなんて生ぬるいゲームなんかじゃない。
当てて且つ一撃でやつを気絶させられるくらいの力がないと意味がない。
……せめて、左手も使えたらな。
ナイフが抜ければなんとかいけるかも、なんて淡い幻想を抱いてしまうほどに劣勢だ。
ここへ来て間もないから地の利を活かせる戦い方もできない。やつの攻撃パターンもわからない。……そもそも、やつに攻撃が当たるかもわからない。

「そんなに痛いのかよ、動きがさっきより緩くなってんゾォ」
「……うっせぇ」

確かに疲労が溜まってきている。痛みが相乗効果で俺を痛めつける。
ふとした油断が、鉄パイプを握る力を弱める。
手から落ちた鉄パイプがカランと大きな音を立てる。
刹那、やつが呆れたような顔で向かってくる。

「……勝手に戦意喪失してんじゃねぇよ‼︎ どんな腰抜だよお前はぁ!」
「いでっ! えええぇぇあああぁ‼︎」

左手を巻き沿いにした蹴りに工場の入り口付近まで飛ばされる。
いや、痛みから、やつから逃れたいと思う気持ちが、無意識に働いてのけぞったのかもしれない。
左手の痛みはさらにヒートアップする。
……やべぇ、これ、俺死ぬんじゃねぇか?
だってこんな……無理だよ、痛いし疲れた……なんの策もない、こんな一方的にやられて、それでもまだ「勝てる」なんて夢のまた夢だ。勝てる見込みが無い……。
すると、外から誰かが走ってくる音がした。それが誰かは容易に予想がついた。
市内でやつから逃げる途中に、カイリだけは逃がせた。エヴェレットに連絡を取るように別行動をとらせていた。カイリがもう走れそうになかったというのもある。

「……‼︎ 京士郎、その腕どうしたの⁉︎」
「あ? ああ、俺一人じゃやつ相手に何もできやしない。応援も待たずに一人で突っ走った結果がこれだ」
「……下野に、やられた」
「どうも出血が多すぎるし体はあちこち痛ぇし完全に行き詰まったよ」
「やめてよ……そんなこと言わないでよ……京士郎がいないと、終われないのに」

そばで泣きそうになるカイリをなだめる。俺は相変わらず壁に背を持たれたままだ。
下野は気持ちを隠す事もせずに怒りをあらわにする。

「……面倒くせぇなあ、まだ一人いやがったのか。……ああ、もうつまんねぇしそろそろ終わらせるかなぁ」

そんな……ここで終わるとかありえねぇぞ⁉︎
なんか策は無いのか? 時間稼ぎでもなんでもいい、その場しのぎで耐えられるような……………。
…………………。
ふと、カイリが手にしている赤いものが目に入った。

「おい……それ、なんだよ」
「……え? これは、エヴィーが持って行けって言ったから持ってきたけど、これ一個で何ができるのか、私には何も……」
「林檎……? マジでエヴィーがこれを?」
「うん、というより、一葉ちゃんは無事なの?」
「え、ああ、無事……だけど……」
「よかった! でも、京士郎もその……ナイフどうにかしないと」

カイリが持ってきた林檎は色こそ赤いが形は悪くて醜く歪んでいる。
エヴェレットはどうしてこんなものを……。
…………?
いや、俺がおかしいのか? エヴェレットは至って冷静だ。そして……。
何を伝えたいのか、それを端的に、簡潔に表している。
一つ、可能性が見えた。

「カイリ、俺は我慢してるから腕に刺さったナイフを引き抜いてくれ」
「……え⁉︎ なんでいきなり! 出血がひどくなるよ!」
「いいから早く‼︎ これが最後かもしれねぇんだ! もたついてると取り返しがつかなくなる!」
「……分かった。じゃあ……いくよ?」
「ああ、頼む」

左腕を強く押さえつける。目を閉じて歯をくいしばる。

「ーーーーーッッッ‼︎」

瞬間、左腕に激痛が走る。多少涙が流れるが声はあげなかった。
正気を保つために自分自身に言い聞かせる。
最初の痛みに比べればこんなの何でもない、痛みは断続的だったから、ほんの一瞬だけそれが強くなっただけだ。
目を開くと、左腕には何も突き刺さっていない。赤く血が流れているだけだ。
俺の腕から抜いたナイフを持っていたカイリの服が、赤い水玉模様になっていく。
左腕は……まだ痛いが自由だ。鉄パイプを拾う。

「待って!」

カイリが俺の右腕を掴んで離さない。
パーカーを脱がされて、半袖のTシャツだけになった。
すると、カイリはアニメやドラマのように自分の服の裾を裂いて、その布を左腕の傷口に巻いていく。

「もしこれが最後だとしてもさ、傷口くらいは塞いでおかないと。……一葉ちゃんに心配させちゃうでしょ?」

そのカイリの笑った顔が、俺にはひどく印象的だった。白い髪に青い瞳、赤く染まった服のコントラストが鮮やかな写真みたいに脳裏に張り付いて剥がれない。

「……そうだな。傷口なんて、見て気分がいいもんじゃねぇよな」

立ち上がる際に下野には聞こえないようにカイリにそっと耳打ちをする。
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに親指を立てて「任しといて」と言った。
立ち上がって下野に向き合う。距離は遠い。
パーカーを脱いだせいか、血が抜けたせいか、体が軽く感じる。
もう視界も霞んで視界の端がぼやけ始めている。

「……なぁ、おっさん。最後に一度、賭けをしないか?」
「賭けだぁ? こんな状況で何を言い出すのかと思えば、っつうか、おっさんって言うな」
「おっさんは今まで通り避けてもいいけど、防御と反撃はなし。一分それに耐えられたらおっさんの勝ちだ。俺を殺しても構わない」
「……まぁ、飽きてきたしな、そっちは使うのは鉄パイプだけか?」
「まぁ、そうだよ」
「ふんっ……いつでもかかってきな」

下野は余裕の表情でポケットに手を突っ込んだ。
今は俺も笑うしかない。
殺人鬼の背後で縛られている一葉は、俺の姿を見てなのか、恐怖ゆえなのか、もう泣いてしまっている。
俺はその出会って間もない後輩に笑いかけると、後輩は何を感じ取ったのか、激しく首を横に振って嘆願するような眼差しを俺に送る。
俺は鉄パイプ両手で握り、踏み込んだ。

「カイリ‼︎」
「了解っ!」

掛け声に合わせて、カイリが丸い林檎を投げる。
投げられた林檎は寸分違わず下野の頭部目掛けて迫る。
当然の如く、下野はそれをしゃがんで避けた。その間に俺は距離を全速力で詰める。
エヴェレットが言っていた人間の急所。首の頸動脈。人間は、突然頸動脈に衝撃がくると、そのショックで気絶する、と。
立ち上がった下野の首だけを狙う。
左腕が力むと同時に悲鳴をあげるが耐えながら両手で鉄パイプを構える。

避けようと背後に交代する下野を追う。
これ以上詰められないと思い、目前の下野に最後の薙。
下野はかかとで地面を蹴り後退する。それも、紙一重で避けられるように計算された動きなのだろう。
そして、予測された通り、俺の薙は当たらずとも紙一重で届かない。

しかし。

届かなかったはずの足りない紙一重分のリーチが、傷一つない鉄パイプが、下野の首を捕らえた。

この二週間、鬱っぽくなってました。まぁ、どうでもいいです。投稿が遅れてしまいました。諸事情により、主人公の名前を「京詩郎→京士郎」に修正いたしました。左は、変換がしやすいという理由で使ってました。ごめんなさい。
そして、この小説を投稿し始めてから半年、閲覧数1000ありがとうございます!受験などいろんな人にとって今は忙しい時期です。身体も精神も健康に気を使ってください。
<2017/03/01 17:39 ソト>消しゴム
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