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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第三話ー同日のバイト先ー冷徹と相対する狂気 -

昼前の午前中。いつもの様に淡々と仕事をこなしていた。

「御待ちのお客様ー!隣のレジをご利用ください!」

目の前に人が来た。
昼前ということもあってか、人気が多い。しかし、実際に忙しくなるのはこの後からだ。
だと言うのに今店にいるのは3人。どう考えても少ない。俺と同じ時間にシフトを入れているバイトがもう一人いたはずだが、一体どうなっているのか。
レジ二人に商品要員が一人とか本当どうかしてる。
すると、俺より若干背の低い青年が制服に身を包み近寄ってきた。残りのバイト。二十分の遅刻をしていて、悪びれる様子も無く言葉だけが謝罪をする。

「篠村先輩、遅れてすいませんっした。レジ俺が変わりますんで休んでて良いっすよ」
「一体お前に何の権限があって……ってか謝るんなら俺じゃなくて先輩に言えよ。それまで俺が持っとく」
「…あーそっすね。お願いしゃす!」

そう言って店内に駆け込む青年は安市直徒(やすいち なおと)は、俺と同年代なのに俺の事を先輩と呼ぶ変人だ。高校生特有の爽やかな笑顔と絶対にスポーツ界系のツンツンヘアーが特徴。ホストクラブでも無いのに固定客がいるらしく、彼のシフトを熟知したおばさん達が昼にやってくる。
その人気ぶりは凄まじく、俺と安市がレジに立っていると、レジが空いているにも関わらず安市の方へと客が流れていく。さらに、前後が安市ファンに挟まれた客は、レジが一つ空いていて誰も行く気配が無いなら自分が行きたいが、自分の前には同じ気持ちの人がいるかもしれないし、もし自分が行ったとしてその事を他の客に指摘されるかもしれないから、結局安市ファンが捌けるまで俺がレジにいる意味はなく、また普通の目的で来店した客もまるで混雑時のディズミーランドのアトラクションに並んでいるかのような謎のストレスに悩まされるのだ。
対して、俺は変わらず最低の接客態度だ。
人の列。メニュー。指。レジ。メニュー。レジ。数字。手と金。ボタン。紙。手。袋。手。
客の顔を一切見ないし、にこりとも笑わない。良くいる少し印象の悪いバイトを演じている。
ただ、声は張り上げるように言われているので、そこは守っている。声出さないと指示が届かないしな。

「次のお客様ー! ………って、何だ。今日は始まんの早えな」
「…篠村くん注文は! ってああ。今日は早いな」
「俺そっち手伝わなくて良いすか?」
「一人の客には一人の店員で充分。今日も立っててもらえるか?」
「……分かりました」

声を掛けてきたのはこのファーストフード店『MAG』の俺の唯一の先輩。久茂(くも)という。大学生。店長もいるが、シフトの都合上顔をあわせることがまず無いのでそちらはこの際どうでも良い。それと、早い時間帯からいた今だ声を聞いたことの無い(多分)先輩。見た目的にどう見ても年上なので(とりあえず)先輩。
久茂先輩も『本日の安市贔屓タイム』の始まりに気付いたようで、ため息を漏らす。
俺はただメニューに目を落とし、新商品『ダブルツナチーズバーガー』を写真て美味いかどうか決めつける暇つぶしを始めた。
ツナのくせにダブルって何だよ。チーズをツナ同士で挟めばツナが分断されてダブル扱いになるとでも? 詐欺だろ。前回の期間限定新商品『和風桜海老かき揚バーガー』は良かったのに。
すると、意識が完全に飛んでいる俺を呼ぶ声があった。

「バイト中に暇潰しなんて最低だな、君は」

まさか店長か。俺はハッとして相手の顔を見た。
しかし、それにいたのはよく見る顔だった。毎日顔を会わせている、少女。

「やっ!いつ見ても無愛想な店員さが抜けないね!」
「…何の用だ」

出来るだけ小さな声で喋る。幸いフードコートは五月蝿……賑やかで俺の声は隣にいる安市にも聞こえない。
目の前のカイリは腰に手を当て、俺に指を突きつけた。

「そりゃあもちろん、好きな人のためならどこへでも…」
「鬱陶しい。用が無いならさっさと帰れよ」
「いやいや? 私は暇潰しに来たの。暇が潰れて跡形もなく消え去るまで帰らないからね」

突然現れたカイリは、全くもって何を考えているのかよく分からない。何のために存在しているのか。何故俺の所にいるのか。少なくともこいつが、突然異世界から現れた可愛い妹でも、唐突なる大冒険の始まりを告げる使者(妖精でも可)でも、俺の内に潜むあらゆる敵をも凌駕するチート能力が目を覚ました証拠でも何でも無いことは分かりきっている。
腕を組んで人の列を見やる。
すると、カイリはレジの縁に座り込んで足をパタパタさせた。
……本当に暇なんだな。

「…ねぇ」
「何だよ、帰れよ」
「つまんないから何か面白い話してー?」
「自宅なら兎も角、場所を考えろよ。帰れよ」
「じゃあ仕事しろー」
「お生憎様客は同級生が独り占めだ。帰れよ」
「そこに山積みになってるトレーの山崩してあげよっか?」
「仕事中なんで止めてください帰って下さい」

変にいじられそうなので、やれる仕事を探す。不要レシート入れのレシートを片付けた。
………終わってしまった。
いっそ本当に崩してもらって…いや、暇潰しに仕事を選ぶって俺の方も相当仕事厨に成りかけている。 仕事と言えど手を抜ける部分は徹底的に手を抜こう。
カイリは今レジを離れて、フードコート内のセルフサービスの水を無駄に垂れ流している。…あいつの暇もとうとう危ない領域に入ったか?
周りの気付いた客がひそひそと耳打ちし始める。

「……ねぇ、あれ誰も触ってないよね?」
「……え? なんで流れてんの?」
「……故障かな」
「……最後に使ったの俺だけど、水は止まってた…はず」

ついに水が水受けの許容量を超えて溢れ出した。
流石に止めようと思ったが、多分俺が行くと遊ばれる気がするので放置しておく。
知らない知らない。俺が言っても聞かないし、責任が俺にかかる訳でも無いし。
溢れ出した水を不審に思いついに客が動き出した。恐る恐るだが、手にはファストフードにはお約束の紙ナプキンが握られている。
……あまりにも頼りない。他の店員呼ぶとかしないのか。
客に動きがあったと分かると、カイリは思わぬ行動に出た。
大げさに機体を揺らし始めた。飽和状態の水受けから水が一気にビシャッと飛び出した。
いきなりガタガタ揺れ始めた機体に、立ち上がった客も身を硬直させて立ち止まった。
すると、カイリは何を思ったのか、コードを抜いて一度水に浸す。電気の供給がなくなったはずなのに未だに揺れが収まらない機体。

「…あっ!」

客の一人が声を上げた。
一体何だ、と思うか思わないかの刹那、水に浸っていたコードが再びコンセントを目指す。
カイリのやろうとしていることを瞬時に理解し駆け出そうと足を踏み込もうとしたが、既に遅かった。

ビリッ…バチバチバチバチバチバチッッッ!!

コードがコンセントに触れると同時に激しく音を立てる。
その音の大きさに耳を塞ぎ、感電したコンセントから放たれる閃光が目を焼いた。
機体がボンッと煙を上げて事は終わりを告げた。
「ギャッ」と機体から離れていたにも関わらずその場ですっ転ぶおばさん。
三秒も音はなっていなかったとは思うが、音が響きやすい一階フードコートの全員の耳に音が聞こえていたと思う。しかし、その場にいる全員に何が起きたのかを理解させるには十分すぎる時間だった。

「だっ大丈夫ですか!」

久茂先輩が飛び出していく。それにつられ、近くの店の店員も渋々駆け出して行く。
「離れてください!」「怪我はありませんか⁉︎」現場周辺以外の人はまるで時が止まったかのようにその場を見つめていたが、やがて息を吹き返したかのようにざわめきが戻る。
泣き出した子供をあやす親。一体何が起きんだと、下りエスカレーターから顔を覗かせる野次馬。
隣の安市は「あれ…大丈夫っすかね」とその細い目を糸のようにして現場を見ていた。
無口の先輩でさえも、久茂先輩とともに飛び出していったんだ。俺だって「…うわぁ……」くらい声を上げても良かったかもしれない。

「………………………」

しかし、俺は煙を上げる機体のすぐそばをジッと見つめている。
…何が起こったのか理解出来ない。俺はその光景に一種恐怖すら覚えた。

…煙を上げる機体の側の壁に身を預けて、ずっと笑っている人物。俺以外それの存在に、そのまるで無邪気な子供が面白い玩具を見つけた時に上げる笑い声にも、誰も気付かない。

クスクスクスクスクスクスクス…………………………………。

俺は今まで、こんなに楽しそうなカイリの笑い声を聞いた事が無かった。

意識が急に遠くなる。目が眩んで視界から光が消えた。

タイトルとあらすじ変えられるじゃん……。何してたんだよ、一体。流石に消え失せた参話をうろ覚えの記憶で二度目の執筆をするのは難しいです。自分でこんな展開だったのか疑わしく思ってます。しかし、後々の展開を考えるとこれで良かったと思います。ありがとうございました。
<2016/08/27 13:41 ソト>消しゴム
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