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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十六話ー最後の日ー戻りゆくセカイ -



『速報!通り魔を廃工場で逮捕』


そんな見出しのニュースが流れる。そこに手錠をかけられて写っているのは正真正銘あの殺人鬼だ。警察に連れて行かれている時は普通におとなしく従っていた。
テレビを消した。もう12時を回った。
ソファの背もたれにもたれかかる。息を吐き出すと、自分の中にあったヘドロの様な空気が抜けて冷たい雪解け水がなだれ込んでくる様な気がした。

「そうだ、僕は結局あの場にいなかったから、一体どんな手を使って下野を撃退したのかを聞かせて欲しいな」
「……ああ、悪いな。そういや言ってなかった。……あれだ、お前がくれた林檎。あれを使った」
「気付いたのか、なら良かったよ」
「でもかなり偶然な要素も強かったけどな。お前も結構な勝負師だよな」
「……私全然分かんない」
「知らなくて良い」

あの時、あの林檎がなかったら本当に死んでいた。
あの林檎、手渡された時、俺には歪んで見えた。しかし、意味が分からないとカイリに手渡すと丸い林檎になった。どうして形が変わるのか、俺にはすぐに分かった。

「『歪み』を利用させるとか、マジで運ゲー過ぎる」
「……『歪み』って、何それ」
「お前は知らないんだろ、一から説明するのは怠いから結論だけで良いか?」
「それじゃ納得しないよ」

市内を追い回されていなかったら気が付かなかった。『歪み』はあの工場にあったのだ。ぐるぐると市内を駆け回るうちに、視界の『歪み』の中心があの工場にあると無意識的に感じ取っていたのかもしれない。
かもしれないなんて言っても、それを理解出来たのは『歪み』の話を聞かされていたからなのだ。
俺はその『歪み』の性質を利用した。
要するに、俺とカイリと一葉だけが触れたものを『歪み』に飲み込ませることができる。そして『歪み』がものを取り込むとその容量だけ俺達は『歪み』に引き寄せられる。
以前エヴェレットが言っていた事だが、その引き寄せられる動作はどんなに動体視力の優れた人でも反応出来ない。
下野は俺の攻撃を全て紙一重で避けていた。その『紙一重』が奴にとっての命取りになった。
俺との攻防をただのゲームだと面白半分でやっていたやつはあえて紙一重で避けていたのだと思う。
『歪み』があればその紙一重を埋める事ができる。
あの時俺と下野と『歪み』は一直線上にあった。
つまり、カイリに林檎を投げさせたのは下野の隙を突くためではない。奴が林檎を避けるのを予想した上で、林檎が『歪み』に飲み込まれる様な方向に投げさせたのだ。
よって、下野が避けた後、俺が鉄パイプを振るう直前に林檎は『歪み』に飲み込まれ、この世界から喪失した林檎の分だけ『歪み』は俺達三人を引き寄せ、俺は引き寄せられた分だけ下野との距離を縮める事ができた。避ける動作を終えていた下野に、それを避ける事なんて不可能だった。やつは相手を見くびり、自分の実力を十分に発揮していなかった事で負けた。
俺が鉄パイプを持ち下野に立ち向かう。
カイリが林檎を投げ、それを下野がかわす。
俺はそれを見届け鉄パイプを薙ぐ体勢をとる。
俺は鉄パイプを振るい、下野はそれを『紙一重』でかわせるように距離を保つ。
林檎が『歪み』に飲み込まれ、俺が『歪み』に引き寄せられ、鉄パイプが十分に届く距離感になる。
後は俺が、全身の力を込めて鉄パイプを奴の首に叩き込むだけ。
卑怯な気がしなくもないが、相手を考えるとそれくらいの事をしないと敵わない相手だったのでやむなし。
俺が下野を撃退した時の事を頭の中で回想していると、カイリが説明を求めて肩を揺さぶってくる。

「ねぇねぇ分かんないよ、何をどうしたらあの殺人鬼を倒す事ができたのー。教えろー」
「……っ。わかったよ、つまりだな」
「つまり?」
「この世界が林檎一個分小さくなったって事だ」

カイリは首をかしげる。対してエヴェレットは理解したように頷いている。
…………。
俺はふと忘れていた事を思い出した。

「……なぁ、エヴィー。一つ聞きたいんだけど」
「うん、なんだい?」
「……えっとな……あれ、ちょっと待ってくれ。目眩が」

突然を視界がぼやけ始めた。『歪み』のような一点の異常ではなく、普通に目の前が見えなくなっていく。
気付くと、隣にいたカイリはいつの間にか眠っていた。

「どうしたんだい、篠村君」
「……あれ、あれだ……。……クソッ、こんな時に眠気が……! エヴィー……一つ……だけ」
「……眠たいのならコーヒーを持ってこよう。少し待っててくれないか」
「…………あ……待……離れ……な……」

……待ってくれ、ひとつだけでいいんだ。それが確認出来れば。
もう、口が回らない。異常なほどの眠気に襲われて、そこで意識が途切れた。

あとどれくらい俺はこのパラレルワールドに居られるんだ?

その質問の、一文字目を喋る事だってかなわなかった。
その直後、全身を凍てつくような冷たさが覆った。

短めです。今話は週一目標投稿とは関係ないです。第二十七話を投稿できるか怪しいので投稿出来なかったらこれが変わりという事で。
木曜日に頑張って書こうかな、まだ修羅場は終わってないし。次々話からきっと慌ただしくなると思います。
<2017/03/07 00:16 ソト>消しゴム
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