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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十七話②ー廃工場ー刹那的期間限定 -

Side:篠村京士郎

「……ハァ……着いた」

下野と戦った廃工場。
どこを見ても争った形跡は何処にもない。
あるのは人が住んでいる痕跡だけで。腕から流れたはずの血の跡も、あの時の戦いを物語る証拠が何一つない。
……今は誰もいない様だ。
鼻を突くような匂いがした。誰のものかはわからない血の匂いだ。
転がっている鉄パイプを一本拾う。
形状的に、下野にとどめを刺したものと同じやつだ。ただ、傷が付いていない。

「……何がどうなってるってんだよ……畜生」

その時、靴で砂利を踏む音がした。軽快に、リズム良く足音が聞こえる。
……誰かは分かっていた。頑なに信じたいとは思わない。信じたくない。
振り返る。工場の影から一つの人影が現れる。

「……って、おわっ‼︎」

そこにいたのは、ただのおっさんだった。タバコを咥えていたが、俺を見た途端に驚いてタバコは地面に落ちた。古びたジャンパーを着た、ただのおっさんだ。

「……え」
「な、なんだよ脅かすなよ、ったく。……って、あれ。あんた、さっき道端に倒れてたにいちゃんじゃねぇか。どした、こんなところに来て。散歩か?」

いたって普通の、友人に語りかけるような口調だ。
そうか、あの時の声、こいつだったのか。
いつだったか、夜道でぶつかったおじさん。あの人からも、同じ匂いがした。
俺は、知らないうちに拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。握っていた鉄パイプがプルプルと震える。
目の前のおっさんは俺の顔も見ずに、次のタバコを箱から出してライターで火を付けながら、俺に喋りかける。

「まぁまぁ、にいちゃんよ。鉄パイプなんてそんな物騒なもん捨てとけ。それで筋トレっつうんなら良いけど、俺はうるさくされんの嫌だからよ、だからやるなら」
「……なんでっ! お前がここにいるんだよ! 殺人鬼下野‼︎」

俺が叫んだ瞬間、奴の動きが止まった。
そして、その時を境に雰囲気が反転する。
空気が凍りつき、受けきれないほどの殺気が俺に向けられる。

「……どうして、にいちゃんが俺の名前知ってんだ? 警察もまだ掴めてないはずだぞ」
「そんなはずはない、とっくに知れてるはずだ」
「なんだ? 俺の名前を警察に差し出したってわけか。……ああ納得、了解」

下野はライターを内ポケットにしまい、タバコを一息に吸うと、まだ半分以上残っているそれを地面に落として踏み潰した。
そして、右手が内ポケットに入り、ナイフが姿を現した。

「なら……もうここで死ね」
「……っ、待て! 待ってくれ! 一つ聞きたいことがある!」
「……あ?」
「まさか……今までに学生を殺してはないよな。本当に殺しても世の中に影響のない奴だけ殺してるんだよな? 学生なんて1日帰らないだけでも捜索される……そんなリスク犯すはずがないよな⁈」

そう叫ぶと、下野はさも不機嫌そうに唾を吐き捨て、頭をかいた。

「あー。なんでそんなことまで知ってんのかねぇ、たかがガキ如きにバレすぎだっての」
「ど……どうなんだよ」
「そんな事、聞かなくても分かるだろ」
「じゃ、じゃあ……」
「ああ」

下野は俺の目を見てハッキリ言った。

「殺したよ。もちろんな」

世界に、俺だけが取り残された錯覚に陥った。

「勘の良いガキだったんだよ、横を通り過ぎただけで血の匂いで俺を殺人鬼だと言い張りやがった。煩かったんだよ」

膝から崩れ落ちた。
嘘だ、そんな事……あるはずがない。

「……まさかお前、あのガキの友達ってやつか。なら、これをやるよ。読んでみろ」

目の前に2枚の紙が放り投げられる。
その紙が何を意味するのか、想像が出来なかった。
分かってはいたが、脳内で認識が遅れている。

「いわゆる遺書ってやつだ。書かせてやったんだから……読まないと死んでったやつが浮かばれねぇからなぁ」

陰鬱な笑いが心をドロドロに溶かしていく。
その黒い線でいっぱいになった紙に、目を通して行く。
どうしてか、始まりの言葉は「ごめん」だった。
そこから続く文字は、読み進めて行くほどに、文字を追う目線が動かなくなっていく。
この世界では、最悪な別れをしたはずだった。
なのに。

どうしてこいつらは、俺に対する懺悔の言葉から書き始めているのだろう。
俺は確かに傷付いたが、俺もあいつらに対して情も何も無い非常な言葉で傷付けていたはず。
そこに書かれている言葉は全て、本心だろうということは明白だ。
なら、どうして素直にそれを言わなかったんだ?
いや、許す?
そんなはずは…。
俺は、ちゃんと……。
あの平行世界で、二人を殺人鬼の手から救ったはず。
なのになんで、この世界の二人は救われてないんだ?
でも、この世界の二人は死んでいて……生きてなんかいなくて。
誰かの手を借りて、下野をやっつけて……。
もう心配することは何もないなって、笑っていたはず。

本当にそんな事があったのか? 平行世界なんて……ただの夢をみていただけじゃ?
あの廃材置き場で戦った事も、スーパーでくだらない事を喋ってた事も。
夢とは思えない。全て現実だったような気がする。
また、会おうと言っていたのに。

あの自分勝手でいつでも自分の気持を優先して行動する自分勝手さ。
ようやく慣れた髪の香りと聞くと落ち着くような声。

もう、何もない。
ならば、今までの事は全て嘘?
俺は、頑張っていたつもりでいたけれど、それは全部夢だった?
分からない、信じたくない。
もう嫌だこんな世界、早く戻りたい。あの世界に戻ればみんな生きて……。

うなだれて、背後のコンテナに全体重を預けて座り込んだ。
視線がもう上に上がらない。足にももう力は入らない。
ただ、遺書らしき紙切れを握る拳だけは信じられないほどの力が込められて開きそうにない。

「……頼むから、そのまま動くんじゃねえぞ? 痛くないように終わらせてやっから、動くな」

視界がほんの一瞬だけ煌めいた。
きっと、奴がナイフを取り出したのだろう。

「……これ以上大事にして、お前達みたいなやつを、増やしたくはねぇだろ?」

逃げるなんて、そんな。
そんな気持ち、微塵もない。
こんな夢の中にいるかのように浮ついた感覚は、きっと現実ではないだろう。
きっと、次に目を開けた時には、また、視界のどこかに歪みがあるだろう。

「あの世で友達に会ってきな」

下野が強く踏み込み、靴が砂利をする音が工場内に響き渡る。

……すると、何処からか車のエンジン音が聞こえてきて、少し離れたところで止まった気配がした。
下野は動きを止めて工場の入り口に顔を向けて固まった。

「……っ、まだ仲間がいやがったのか。あんたもこいつの知り合いか」
「…………」

誰かに話しかけているのか。
会話相手は一言も言葉を発さない。

「おい、こいつを殺されたくなかったら動くな」

なんか聞いたことのあるセリフが聞こえる。
もう一人の気配が動いた。

「……コスモス‼︎」
「ニャーーーーーー!!」

掛け声とともに上から降ってきた黒猫が下野の顔に激しい引っ掻き傷を残した。
下野はうめき声とともに五歩後ずさった。
聞いたことのある声に顔が上がる。

そこには、戻ってきた猫を抱きかかえる、後輩の姿があった。
夕日に照らされるその姿が、やけに目に痛かった。

今回はボリューム少なめです、ごめんなさい。思った以上に入院生活が苦しいものだと実感されられた数日間でした。鼻呼吸出来ない状態でいい睡眠は取れませんし全身麻酔って効き目早すぎます。
手術って身体的にも精神的にも来るものがありますね(汗)。

やっぱり無理、て言うか主人公浮き沈み激しすぎ金木くんかよどうやって立ち直るのこれからどうなんのかね。
<2017/03/21 00:17 ソト>消しゴム
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