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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十八話ー廃工場ー混合する履歴書 -

Side:此花一葉

何が起こったのか理解出来ないのかただ後ずさって額に汗を浮かべる殺人鬼は平行世界で見た人物と同じくあのナイフを持っていた。
後ろにいる二人に声を変えてから先輩のもとへ駆けつけた。

「……後はお願いします、ご助力感謝します」
「クッソがぁ……いったん引くしかねぇだろうが‼︎」

殺人鬼は走って工場の奥へと走り去る。とっさに二人はその影を追う。
壁に背を凭れてただうなだれているその人物は今まで見てきた人物とは違ったような雰囲気だった。
先程はちらりとこっちを見た気がしたが、どうにも反応がない。

「先輩、大丈夫ですか? 私です、此花一葉です」
「……分かってる、来なくても良かった。お前は、なんでこんなところに来たんだよ」
「なんでって……先輩はここにいるだろうと思って助けに……」
「いいから、もう俺はいいんだ。逃げろ。わざわざ危険に身を晒すなんてことしなくていいんだよ。あいつから逃れるなんて生半可なことじゃないし、もう何をしても意味ねぇよ」
「……何か、あったんですか」

無言で二枚の紙を差し出してきた。
どちらの紙も文字で埋め尽くされている。内容を見るに、何かの謝罪文のように思える。
でも、くしゃくしゃになっているのはどうしてだろう。これが何かを表しているのか想像がつかない。

「これは……?」
「遺書だ」
「……え?」
「お前もあっちで見ただろう? 俺の二人の幼馴染を。そいつらの遺書なんだよ、これはさ。……ハハ……救ったはずだったんだけどな、なんか、いろんなことやって助けた気になってたけど、どうにもあいつらが生きてるって頑なに信じてたもんだから何が何だか……夢でも見てたんだよ……長い夢を見てたんだよ、そうだよ、俺のせいで」

記憶にはまだ新しい、先輩が幼馴染だと言っていた人たち。
……そういえば、平行世界に来てまだ間もない時にその二人は亡くなったと話に聞きました。先輩がフードコートで二日連続で眠っていたのは、もしかしたらそのせいだったのでしょうか?
……。
私も事情を知らなかったとはいえ、少し冷たかったかもしれないですね。
だから、あっちの世界で救おうと躍起になっていたのですね。先輩にとって、救ったはずの幼馴染が死んでいるというのは、確かにショックではあると思います。
でも、先輩、それは駄目です。

「夢じゃないです、全部本当のことです。だから、まずはここから逃げましょう? 落ち込んでないで立って下さい」
「いいよ俺は、もうどうせ」
「……良くないです、先輩の為に助けの手を差し伸べてくれる人は私だけじゃないってことをもう少し自覚してください」
「……は? おい、誰か連れて来てんのかよ。なんでそんな」
「いま時間を稼いでくれてます、だから」

殺人鬼を追ったはずの二人が息を切らして戻ってきた。
涙を流す先輩は誰か来ていることを知ると、私の後ろに視線を移した。
私が単身でここに来ても力にはなれないことはわかっていた。それ以前に間に合うかどうかも確かではなかったので、足を貸してくださる方にお願いして助けてもらうことにした。
どんな人達か知りはしなかったのですが、助けを求めてすぐに駆けつけてくれて、……私は反対したのですが殺人鬼の足止めもして下さって。
本当に、先輩はいい人に恵まれていますね。
先輩はその二人をみると目を見開いて頭を抱えた。

「……なんで、久茂先輩と十秋先輩が……」
「いまあのお二人が時間を稼いで……って先輩‼︎」
「なんで……なんで来てるんだよ。おかしいだろ、相手は殺人鬼だぞ?」

先輩は信じられないものを見るような目で立ち上がりそして丸腰のまま近づく。
殺人鬼を追いやった二人はフラフラと歩く先輩に気付くと手を振って無事を確認する。

「おお! 篠村くん無事かい? どうしてこんなところに君がいるのか疑問だけど、まあまずはその後輩と逃げるんだ」
「どうして、こんな場所に来てんですか。しかも殺人鬼がいるっていうのに……」
「……ハァ、篠村くん……もう少しその子に感謝……したほうがいい」
「十秋先輩も! 死にますよ⁉︎」
「…………それはいいの。ただ……死ぬかもしれない人が……手の届く距離にいるんだったら……とりあえず手を伸ばしてみるしか……ないでしょ」

一呼吸置いて。

「実際……まだ死んでなかった」

それだけ言うと、再び工場の奥へと足を向けた。
そのお二人の実力は未知数で心配ですが、今は先輩を優先して車に誘導しなければならないですね。
驚かせないように近付いて、服の裾を引っ張った。

「先輩、行きましょう?」

返事が無い。目線も、二人の方向に向けたままただただ立っている。
私の力じゃ先輩を動かすことなんて出来ませんし。
成り行きを見守るしか…。

「取り敢えずだ、篠村くんはその子と一緒に逃げて」
「そんな……見捨てられるわけ……」

まだおろおろと立ち往生する先輩を見て、十秋さんはきっぱりと言い放った。

「見捨てるって言葉は守る立場の人間が使う言葉……あなたは助けてもらっているって自覚がないの? 何も出来ないのに心配だけするって……それは大きなお世話……」
「と……十秋、それは言い過ぎだ」

十秋さんは見た目に反して突き放す一言を残すとスタスタと歩いて行ってしまいました。
私には、あんなこと出来ませんね。
十秋さんの言葉に何も言い返せずに先輩は行き場を失っていた手が力無く垂れ下がる。
口には出しませんが十秋の言う事は正しい。今の先輩にどうこう言う資格はありません。
先輩の背中を押すと何の抵抗もなく先輩の足が動いた。

「……先輩」

そこでやっと私の存在を思い出したのか、先輩は力無く笑って足を進め出した。

「悪い……迷惑かけたな。十秋先輩の言う通り、俺は何も出来てねぇしこんな時でも自分の事ばっかだ」
「……」

そんな事ないです。
喉まで出かかった言葉を強引に押し込んでただ先輩を車へと誘導する。
入り口近くに止められた車はまだ新しくて、大人数乗るのに適していません。ただ、その分小回りが利く事は重要だと思います。
狭い車内に先輩が入ると激しい金切り音が工場の方向から聞こえてきた。

「……」
「やっぱり、気に……なりますよね」
「いや、足手まといにはならないようにしねぇと」

先輩はどこか遠い目で工場を見ているけれど、そこにどんな感情がこもっているのか、分かりかねた。
でも、あとは二人が戻ってくれば出発はすぐに出来ますし、大丈夫でしょう。
そのために、エンジンだけはかけておきましょう。
ハンドル横にキーを差し込んで回すと、特に不具合も無くエンジンが温まり始めた。
運転席から後部座席へ行こうと一度外へ。
後部座席のドアを開けた時に、ふと視線を感じた。

「……?」
「どうした、一葉」
「いえ、何でも。大丈夫で……す……」

きっとあの二人のものだろう。きっともう戻ってきているはずで……。
工場から車へと視線を移した時に気付いた。
工場の反対側、距離にして50mもない反対側の扉から一つの影が。
太いシルエット。明らかに、あの二人でない事は想像が付いた。なら、こちらを見つめているのは。
脊椎を悪寒が走る。
……逃げなきゃ。
ドアを勢いよく閉めて先輩に注意をする。

「先輩! 先輩はここで隠れていて下さい! 絶対に声を上げないで…………ぁ」

影が動いた。
足が自然と工場へと向かった。
先輩が後ろから声をかけてくれましたが、もうそれを受け入れるほどの余裕はありませんでした。

「おい、一葉‼︎ 駄目だ戻ってこい! 中に逃げても奴の思う壺だ! 一葉‼︎」

ですが、先輩の声もエンジンの音にほとんど掻き消されて何を言っているかわかりませんでした。でも、あの殺人鬼にはあの声は聞こえていないはずです。
無我夢中で走り、視界が暗転すると、そこへ逃げ込んだはずなのにどうしてか不安感が強くなってさらに奥へと進んでしまう。
先輩を車へ置いてきたのは囮にするためではなかった。あの時に感じた視線、先輩の事が見えていたかどうかは知らないけれど、確実に私を見ていた。

「あ……かく、隠れないと……どこかに……見つからないところ……」

迷っている内に靴が地面を叩く音が工場内に響き始める。
徐々に大きくなる音に何の考えも無く隙間の多い廃材の山の裏へと隠れてしまう。
向こうの様子を伺うためとは言えど、こちらから見えるという事はあちらからも見えてしまうという事。
知らず知らずの内に犯してしまった失敗に恐怖がプラスされて涙が溢れ出す。
心臓の鼓動が五月蝿い。静かにして、静かにしなきゃ見つかってしまう。

「あのガキ二人はどこに行った……?」

もう聞きたくないというほど聞いた声が再び耳に入り以前の記憶が蘇る。
いつだったか連れ去られていつ殺されるかわからない状況の中ただひたすらに助けを求めていたあの時。
あの時は「殺さないからうるさくすんな」と脅されていても命の保障だけはされていた。
それが今はどうだろう。何もない。今の殺人鬼はあの時のやつと違い、遊び半分で私を探してはいない。心臓の鼓動を止めるために探している。
……見つかったら、殺される。
負の想像をするたびに漏れそうになる嗚咽を手で、唇で、歯で、喉で抑えながらただひたすらに耐える。鼓動と共に加速する恐怖の足音が、何とかしようと策を練る思考を丁寧に確実に搔き消して、気を紛らわす余裕を与えてくれない。
意識が、嫌が応にも現実を取り入れ、なす術がないと囁くほどに考えようとする気力も根こそぎ持って行った。
そんな気が緩んだ時だった。


ーーーカァンッ


大きな音がノーガードの耳を襲った。

「……うっ」

衝撃で小さな声が漏れた。
慌てて口をふさぐ。
さっきの音はきっと、靴でコンクリートの地面を強く叩いた時の音。
……もう、駄目です。耳も口も手も頭も言う事を聞いてください……兎に角今だけは、少しの間でいいですから……。
カツッ、カツッと歩く音が徐々に中心へと移動する。

……先輩っ。

「なんだ?」

意識に呼応した声がした。
その声の方向に頭を向ける。
まさか……先輩、助けに来て……。

「こんなところに隠れてやがったのか」

殺人鬼と、目が、合った。
ずっと震えていたはずの手足が平静を取り戻したように動かなくなり、あれほど頭に響いていた心臓の音も、焦っていた意識も全てクリアになった。
隙間だらけの隠れ家はマジックミラーのように都合よく向こうだけが見えたりはしなくて。

向こう側の殺人鬼は立ち上がり、私の目線の向こうには楕円の影が一つ。
その影が足であることには気付かなくて、ただ呆然とその影を見つめていた。

「良い子は9時に寝なって言われた事あんだろ、まぁだ9時にははえぇけど、早く寝る分には文句は言われねぇからよ。…………とっとと眠れ(死ね)」

直後激しい音がして目の前の光景が揺らいで、それが隠れていた廃材の山が揺れている事だとは気付きませんでした。
殺人鬼は私が隠れていた山を蹴り、そのまま山はバランスを崩して、私の方へ倒れようとしていました。
逃げなきゃ、と思った時にはもう木で出来た簀の子の山は倒れて来ていて、逃げても無駄だと理解しました。
埃が舞い上がる中、枯れたと思っていた涙が一滴だけ頬を伝った。

「……危ない‼︎」

廃材の重量を想像して痛いだろうな、と目を瞑ると体が浮遊感に包まれた。
その直後に、激しく山が崩れる音が空間を包み込んだ。


Side:篠村京士郎

後輩が飛び出していって、車の中で身を低くしていたら、殺人鬼はこちらに気付かずに工場内へと消えた。
殺人鬼を追ったはずの十秋先輩と久茂先輩は帰ってこない。
一葉は工場へ逃げたっきりだ。
車には俺一人、安全を確保された危険なものなど何もない車内でただ他人の活躍を想像して笑う。
……俺ってこんなに性格悪かったか?
自分で自分の身を危険にさらして助けてもらって他人の事は心配もせずにただ事が終わるのを待ってる。
笑いたくもなる。
ふと、扉を引っ掻く音が聞こえた。
周囲に人影はない。思い当たる音のぬしはたった一つ。
扉を静かに開けると、わずかな隙間に身を滑らせて車内に一匹の黒猫が入ってきた。
その猫はごく当たり前のように我が物顔で膝の上で丸まった。

「お前、主人はどうしたんだよ」

ミャア、とイエスともノーともどっちつかずな鳴き声を上げた。
ただ、その猫が俺をこの場に止めているような気がした。ここから動かないように、と釘を刺されているようだ。
車の中は物凄く静かだ。普段なら五月蝿いとさえ感じるエンジンの音も今は環境音程度の認識にしかならない。
何故だろう落ち着くのだ。ここで待っているのが。
思考も心も波風ひとつ立てない。この狭い空間がとても落ち着く。
しかし、ほんの小さな物音で波が立った。

ーーーゥヮン

ひどく小さな空洞音、のようなもので意識が掻き乱される。
とっさに立ち上がりかけたが、猫がいる事を思い出して再び座る。
気になる。何故だか今の一瞬聞こえた物音に心が乱される。
まぁ、いいか目を瞑りかけた時、工場から激しい物音がした。
さっきのものとは比べ物にならないくらいの。
今度は流石に体勢を崩して窓際に寄った。膝から落ちた黒猫が迷惑そうに鳴いた。

「……何やってんだよ俺は」

さっきまで気にならなかったのに、自分だけ助かれば良いと思っていた事が信じられない。
まるで何かに操られているような奇妙さを感じた。
ドアを開けて車を出る。エンジンの音が耳に痛い。工場内から舞い上がる土埃に息が詰まる。
俺は車の中の椅子の上でこちらを見つめる黒猫に手を差し出した。
別に来い、という意味で差し出したわけではない。自分でもなんのために差し出したのか分からない。
黒猫は俺の手のひらをパシッと叩いた。
肉球の柔らかさと爪の固い感触が手に残る。

「……猫パンチでも気合は入るもんなんだな」

ドアを開けっ放しにしたまま駆け出した。
土埃の中に突っ込むのは気が引けたが、うえぇと思うくらいで入ろうか躊躇うほどではなかった。
視界が一気に暗転すると、自分の所為で響く大きな足音も気にならなくなった。むしろ、音を立てる事が何かに繋がる気がした。

やっぱり深夜テンションじゃないと無理だということに気が付いた。
これ書いてる途中何度か東京喰種に逃げてました。
<2017/03/26 01:24 ソト>消しゴム
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