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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第二十九話ー廃工場ーアンドリトリーヴ -

「マジかよ! マジで出てきやがった‼︎ 勝手に見つかったと思い込ませて出てこさせる策が! 引っかかる奴なんていないと思ってたのにこんな事に引っかかりやがったよ!」
「…………え?」

ヒッカカッタ?
何を言っているのか分からない。先輩と久茂さんの位置を把握していたんじゃ……違う人が出てきたからじゃなくて……見つかったと思い込ませて? え? え? え?
思考がその言葉の意味を解読する事に一心不乱になる。
つまり、なに?
私達は、全然見つかってなんかなかったってことですか?
なら良かった、バレてなんかなかったんですね。ちゃんと忍べてた。
だから……。
私達はまんまとあの殺人鬼の下策におびき出されたってことですか?

「……このっ……狂人‼︎」

十秋さんは涙を浮かばせてそう叫んだ。
ただ自ら蜘蛛の巣に引っかかりに行ってしまったのだ。

「狂人ねぇ……もう人殺してるからしょうがねぇなぁ。……でも残念だなぁ、そのまんま隠れてりゃまだ生きてられたのになぁ。憎いだろ? こんな最低な策を立てる俺に」

そうだった、狂ってる。

「でも俺を憎んだって何にもならねぇよ!」

平行世界で先輩と戦った時、奴は人殺しをゲーム感覚で楽しむような狂人だった。
怖い。その予測不能な思考が。人の命を奪ってもなお人殺しに走る感覚が。
そして、他人をあざ笑うような思考を持つ奴が。

「その前に自分が憎らしいよなぁ、どうして見つかったって確信も無いのに出てきたのか。出てこなくても見つかったんなら逃げれば良かったのになぁ! この俺から逃げるはずがまんまとそいつの言う通りに行動した自分が許せないよなぁ‼︎」

どうして……そんな他人の思考を読むようなことをできるのか。心の内を読まれて悪寒が走る。
そして同時に、絶対に逃げることができないと思ってしまう。

「……まぁ、しょうがねぇな。そういう日もある」

殺人鬼はごく自然な動作でポケットからナイフを取り出した。
視界が手で遮られた。

「……十秋さん?」
「……行って」

十秋さんは私を後ろに匿うように前に出た。

「そんな、出来ないです!」
「私なら少しは時間を稼げる……二人ともは絶対に駄目……良いから逃げて」

手で押されて二、三歩後ずさる。
自分の意思でもう一歩下がった。
そして。

『それで良い』

声が聞こえた気がした。

突如、殺人鬼の背後で鉄パイプの束が一斉に倒れて甲高い音が工場内に響き渡った。この場にいる全員が釘付けになる。
そして、殺人鬼が何かに気付いたのか上を見上げる。

「うおらあぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

殺人鬼の近くのコンテナの上から久茂さんが飛んで鉄パイプを振り下ろした。
殺人鬼は意表を突かれたせいか、完全な防御が取れずに勢いのまま倒れ込み、久茂さんは前転で衝撃を減らして着地した。

「篠村くん!」
「先輩タイミング合ってないっすよ!」

同じく鉄パイプを持った先輩が反対側の物陰から飛び降りて、立ち上がろうとする殺人鬼にその鉄を振りかざす。
殺人鬼は横に転がって二回目の攻撃を避けた。

「久茂先輩……ちゃんと合図はしてくださいよ」
「ごめんよ、でもあれ以上待ってたら十秋が危なかった。親しい人ほどその涙は見たくないものだよ」
「……まぁ、いいっすよ。次ちゃんとしてくれれば」

二人が私達を守る形で並ぶ。
そうして立つ姿はまるで、平行世界でみたそれよりも強く感じた。

「……先輩!」
「悪かったな、勝手にいなくなって。でも俺もそんなにじっとしていられるほどいい子じゃなくてな、守られるだけって居心地よくねぇんだ」
「もう……大丈夫なんですか?」
「目が覚めた。もう何回やっても仕方がないってほど自分には一つの責任を背負うことなんてできないって思い知ってるのにな、身の程知らずなのはこの際目をつむってくれ。ここに来たからには意味を残さないと夜眠れねぇから」

そう言ってニッと笑うと再び久茂さんと連携をとって殺人鬼に応戦する。
いつの間にか、足と手の震えは止まって思考を支配していた恐怖もなくなっていた。
十秋さんもその二人の立ち回りを見て逃げ道を探し始めた。
鉄とコンクリートが強くぶつかり合うたびに激しい金切音が耳を突く中、やっと外への出口を見つけた。
しかし、殺人鬼をどうにかしない限りあの二人も……。

「シャラクセェッ!」

突然、殺人鬼が叫んだかと思うと両手で両側から振り下ろされた鉄パイプを一本ずつ受け止めて、手首を少しひねっただけでその鉄パイプを奪い取ってしまった。
その勢いのまま鉄パイプを二本操り久茂さんが無力化されてしまう。

「久茂先輩‼︎」

久茂さんは壁に叩きつけられてその衝撃で動けない。
殺人鬼は止まらず反対側にいた人物にも反撃を加えた。
一本が頭を直撃し、もう一本が胴体を叩く。
そのまま先輩は倒れこんだ。
このままでは、全滅されられて……人数でもあいつを押し切れないんですか⁉︎
なら、前倒した時みたいに……、でもどうやって倒したのか私は知りませんし。
まずは自分の身を守る、というより護身術などに覚えがなかった。

「……大丈夫、まもるから……」

十秋さんが優しく微笑んだ。

「私……柔道習っていたから」

柔道が護身術になるというのは聞いたことがありますが、実際のところそれが本当に役立つのかは私には分からないですけど。
でも、きっと大丈夫です。信じてみるしかありません。
殺人鬼は十秋さんの言葉に反応してあの気持ち悪い笑みを浮かべた。

「そうか……柔道ねぇ、最近は柔道やってる女子ってのもよく聞くならなぁ。相手が女子で素手で戦うってんなら俺がもの使うのは反則だな」

そう言って鉄パイプを捨てた。
やはり、奴には人との戦いをゲームだと思い遊びに走る習性がある。
軽く腕を回しながら殺人鬼は余裕ぶった表情で質問をする。

「そんで……柔道って言っても強いのか、お前。ただ『柔道やってます』で仮にも男に太刀打ちしようなんてものなら……泣く羽目になるぞ」
「大会には出たことがないから……自分が強いのかは知らないし、優勝なんていらない。優勝で慢心するくらいだったら練習をする……私はそういう生徒だった」
「口ではかっこいいこと言うじゃねぇかよ、数秒後が楽しみだ。俺も少しは柔道をかじった事があるから相手にはなれるぜぇ」

殺人鬼は十分なストレッチを終えて最後に軽く伸びをした。
ここまで殺人鬼に時間を与えて良かったのかと不安になる。十秋さんはまったく変わらない様子だった。

「それにしても男を相手にするなんて女にしては度胸があるよなぁ、普通恥ずかしがるもんだが、……試合じゃあねぇからどんな反則をしたっていいわけだ!」

そう叫ぶなりいきなり十秋さんに掴みかかる。卑怯だ、柔道に乗っかったふりをしていただけだ。

「……私は男を相手にするのはこれが初めてなんて言ってない」

しかし、その手をするりと避けて殺人鬼の袖と首元を素早く掴む。
……早すぎて目で追う事ができなかった。動体視力と反射には自信があるであろう殺人鬼も、それにはついていけないようだ。

「……それに、私胸ないので」

その一瞬垣間見えた目は誰が見ても身の毛がよだつほど殺気がこもっていた。
……と、十秋さん怖い! 気にしているのなら無理はしないでいいのに!

「……は?」

そして十秋さんが身を翻したと思った時には殺人鬼の体はすでに宙に浮いていた。
詳しくは分からないけれど多分一本背負でそのまま背負いこんで……。

十秋さんは投げる途中で手を離した。
殺人鬼の体は勢いのまま空中を飛び交うイオンの如く3mは宙を旅して地面と激突した。
……え。
えええええええぇぇぇぇ‼︎⁉︎

「ちょ、ちょっと十秋さん⁉︎ 技って最後まで手を離しちゃダメなんじゃないですか⁈」

慌てた私とは対照的に十秋さんはにっこり笑って。

「ああ……少しムカついたから。……わざと離した」

いや殺人鬼相手ですから別にいいと思うますけど…………えぇ、いいの?
手を叩いて汚れを落とすと、十秋さんは意識のある久茂さんの方へと駆け寄る。
殺人鬼は投げられた衝撃で意識が飛んでいるらしかった。
私は倒れたままの先輩の元へ。

「……先輩」

声をかけると先輩は目を開けた。額からは血が流れている。

「無理はしないでください」
「今更過ぎるなぁ、もう無茶はこりごりだってくらいやったよ」
「頭の傷は、酷くないですか?」
「ああ、避けるためにオーバーな回避行動しちまったけど、おかげで擦り傷で済んだ」

先輩は体を起こしてやはり胴体へのダメージは大きかったのか腹を押さえながら立ち上がった。
倒れた殺人鬼の顔を覗き込む。

「これで、やっと終わりって考えても良いんだよな」
「次があったら私はもう助けに来ませんよ」
「にしても、最後の方は少し見てたけど十秋先輩も酷いっすよね。ちゃんと指導受けてました? これ試合だったら負け確定ですよ?」
「少し柔道をかじったくらいの素人に……柔道を舐められたくなかった。……それに」

十秋さんは殺人鬼を見て、ため息をついた。

「ちゃんと受け身も取れないようじゃ……技を覚える必要なんてないから……」

久茂さんは十秋さんの肩を借りて立ち上がる。
帰りの運転は久茂さん任せですが運転は大丈夫ですかね……。
全員が殺人鬼の状態を確認した。

「それで?」

久茂さんが片手を上げて指示を仰ぐ。

「これはどうするんだい? そのままっていうのはありえないと思うけど」
「そうっすね、それは無いっすね」
「取り敢えず縄で柱に括りつけましょうか」
「そんでここから立ち去った後にでも警察に通報する」
「……じゃあ、まずは縄で縛ろうか」

そして、私達が立ち去るその時まで殺人鬼の意識は戻らなかった。
多分生きてはいると思うので、骨折していようが後は知ったことか、ともう関わらないという意見でみんな納得はしました。
車に乗る時、私は先輩に一つだけ質問をした。

「あの……先輩」
「ん? なんだよ」
「どうして、車の中で待っていなかったんですか? 中にいれば安全だったのに」
「まあ……な。安全なのは確かだけど、自分が安全って安心すると、今度は他人の事が心配になるんだよ。元はと言えば、俺がここに来なければ良かったんだけどな」

……やっぱり、先輩は。
止めておきましょう、自分が駄目みたいに考えるのはあまり良く無いですし。

「それと、これが一番の理由だ」
「一番の、ですか」
「自分だけ安全なところに隠れてちゃ、後で何も文句が言えねぇだろ。後で部外者がとやかく言うのは簡単だ。だから、安全な場所からもの言ってんじゃねぇよって言われない為の大義名分を作るため、俺自身が逃げたって思いたく無いし、失くしたものは戻ってこねぇからな」

週末投稿の概念が最近月曜投稿になっていることに焦りを感じる。うわぁどうにかしないと。
どうにかして小説を書く時間を捻り出さないとぉ。
<2017/04/04 00:09 ソト>消しゴム
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