「……おい、何してんだよお前は。空き巣か?」
「こんばんは、先輩」
俺の質問も無視されてしょうがなくドアを閉めるとそれまで談笑していたカイリと一葉が会話をやめた。
ここは俺の家で、この場所は俺の部屋。カイリは問題じゃないけど、どうして後輩がさも当たり前のように部屋の中にいるんですか。
……しかも俺が買い溜めしてあるお菓子とか普通に食っていやがる。どこまでも図々しいな。いや、自分勝手すぎるな。
「カイリ、なんでお前がここにいるんですか」
「え、私?」
「……すまん間違えた」
「酷くない⁉︎」
「一葉、バイトから帰るとそこには後輩が自分の部屋を荒らしてそれが当たり前のようにくつろいでいました。さて、おかしい部分はどこでしょう」
「何もないですね」
「即答すんな少しは考えろ」
一葉は本当に悪気を感じさせない顔で首をひねった。
いやまあね? そりゃ君は当事者じゃないから当然だろうけど、状況を置き換えれば俺が一葉のいないうちに一葉の部屋に忍び込んで部屋の中を荒らして……って想像だけでも結構危ないな、絶対にないけど。
それで彼氏でも幼馴染でもないのに、部屋の主が帰ってきても動揺せず自分がそこにいることを当たり前だと主張して……ってやっぱり俺と一葉を置き換えるとかなりカオスな状況になるんじゃ? 絶対にないけど。
俺がミニテーブルを挟んで一葉の反対側に座ると、何故かカイリも一葉側に座った。
え、何? これ俺が悪いって流れなのか?
「これ私はどこにいたらいいの?」
案の定違った。
「どこでもいい」
「わかった」
分かったと言ってどうして俺の背後から抱きつくんだよ。ベッドの上にでもいろって意味だったんだけど?
「離れろ」
「嫌で〜す」
「やめろ腕をきつくするな苦しい胸を押し付けるな」
「……先輩そういうのが好みなんですか?」
「後輩があらぬことを考えてしまうから離れろ」
なんとかカイリを俺の開店椅子に座らせてやっと話し合いの場が整った。
「……」
「……」
……なんで何も話さないんだよ。何かあるから来たんじゃないのかよ。
何もないのなら別に気を使う意味もないか。
「よし」
「はい」
「解散」
「えぇっ⁉︎」
「……何?」
「『……何?』じゃないですよ、先輩が説明してくれると思ってわざわざ来てあげたんですよ? それを何も言わないうちに解散なんて言われても困りますよ……」
「来てあげたとか言って、立派な不法侵入だろ。どうやって家に入ったんだよ」
「なんかねぇ、一葉ちゃんがインターフォン鳴らしたら京士郎のお母さんが出て、要件も聞かないうちに一葉ちゃんをこの部屋に案内してたった一言『明日帰ってくるまで自由にしててね、ナニしてもいいわよ』とだけ残して家を出て行っちゃったよ。京士郎が帰って来るまでお喋りしてた」
明日帰って来るとかナニしてもいいとかあの母親本当にふざけてるだろ。そんな事ないよただの引きこもりだよ、そんな後輩を自宅に連れ込んでナニするとかないから。
「……じゃあ何しに来たんだよ、全く見当がつかねぇ」
「一昨日の件ですよ」
エヴェレットの件か。
……あれを説明しろと? なんとなくで理解して解決したからもういいものだと思っていた。
とりあえず、うまく説明できる気はしないけど自分なりにまとめてみるか。
「そうだな…………」
あの平行世界から帰ってきた時、俺たちは全員エヴェレットに関しての記憶が無かった。他にも抜けていた情報は色々とあるけれど、主に、それだ。
俺がエヴェレットに頼らず一人で工場にむかったのも、一葉が呼ぼうとした応援がエヴェレットではなく、久茂先輩達だった事も、俺たちの記憶にエヴェレットという人物が存在していなかった証拠だ。平行世界でどうやって戦ったのかも、どこで寝泊まりしていたのか、それさえもわからなくなっていたのにも関わらず、それを不思議だとも思わなかった。
ただ、元の世界の記憶は全て同じ、変わっていた事も、抜けていた記憶も無かった。
それがどうして、思い出す事ができたのか。
理由は一つ思い当たる節がある。
俺が持ってたリンゴだ。本当は、俺のベッドの上にあったはずだったんだが、母親が勝手に冷蔵庫にしまっていたから触れる事もしなかった。
そして一昨日だ。突然母親からそのリンゴを手渡された時に、全ての記憶を思い出した。……いや、欠けていた状態だったから、正しくは補完されたって感じだな。
そのリンゴを手にするまで俺は一度たりともエヴィーの事を思い出さなかった。違和感を覚えたのはその時だ。
本当にきっかけもないし、ただ浮かんできたってだけだけど、もしかしたら、俺達が平行世界に行ってその平行世界の情報を得たとしても、元の世界に戻った時に、元の世界で俺達が知りえない記憶を持ち帰る事は出来ないんじゃないかって思った。
ああ、分かりにくいな。俺も言ってて少しわからない。
つまり、俺達がこの世界で元からエヴィーの事を知っていたら、平行世界のエヴィーの事も忘れずに帰って来られた。
重要なのはこの世界での記憶なんだ。この世界が知らない事を平行世界で知っても、この世界の俺達はまだ知らない訳だ。
この世界の俺達が知らないエヴィーの事を、接触もせず存在も認知していない、いないと仮定された謎の人物を知っているはずがないんだ。
世界は、世界間での情報のカンニングってのを許してくれないんだろう。
……ああ、そうだな。リンゴだ。なんでリンゴに触れた瞬間に接触もしていないエヴィーの事を思い出す事が出来たのか。
もうだいたい予想ついてるだろうけど、あのリンゴは俺が……そうだ、カイリとあの殺人鬼を倒した時に平行世界の『歪み』に飲み込ませたリンゴだ。
あのリンゴは元々平行世界のものだからな、この世界には存在しないものなんだよ。
それでどうして思い出す事が出来たのか。きっと、あのリンゴが平行世界とこの世界を繋ぐ情報媒体だって事だ。あのリンゴには平行世界の全ての情報が詰まっていた。
……まぁ、大きさとかがどうのって思うのはしょうがない。それに、ここにいる三人以外にこのリンゴを触らせてもきっと何も起きない。
世界間での情報の共有ってのはされてないんだろうな。情報は一方通行で逆輸入ってのは出来ないように作られてるらしい。
どうして出来ないのか……ねぇ、知らねぇ。でも、多分あれだ。どの世界もどれひとつとして同じものはないからだよ。似てるからって同じものだと錯覚してる。これも人間の悪い考え方だな。何でもかんでも人間中心に回っていると仮定している。
……それこそ、タイムパラドックスや世界は枝分かれしてるとか過去の改変は出来ないとか、人間の選択で未来が分岐する、だとか。普通に言ったら、人間中心に物事を考えたら事は円滑には進まない。
多分リンゴが無くても、この世界のどこかしらで俺達がエヴィーと少しでも接触していたら思い出してただろうな。
「……まぁ、あいつは自分から思い出させに来るような寂しがり屋でもないし、ただ徒然なるままに世界の流れを見届ける船頭みたいなものだからな」
ひとしきり喋り終わって、喉の渇きを癒す。
部屋はひどく静かになった。
目を閉じたカイリが座っている椅子を揺らして起こした。
「聞いてた? 俺の話」
「聞いてたよ、要するに記憶領域の問題なんでしょ?」
おお、なんかもっともらしい的確な表現を出されて少し驚いた。
こういう真剣なシーンでは期待通り寝てるのかと思っていた。
「いや……それでも多少は京士郎の思考が流れ込んでくるから、私もなんとなくで分かった」
ああ……確か何かしら感覚の共有みたいなのが成立してるんだっけか。
そして……。
「どうだ、分かったか?」
聞くと、一葉はいたって真面目な顔をしていた。
理解はしてもらえただろう、なら早く帰ってもらいたい。
「先輩……」
「ん?」
「さっぱり分かりません」
「お前ちゃんと人の話聞いてた⁉︎」
「いえ、聞いてはいましたけど……なんか、そういう古文的なものは私苦手で……」
「古文でもなんでもないちゃんとした現在進行形の現代語だったけども⁉︎」
「もう……良いじゃないですか帰って来られましたし、……そうだ、ゲームやりません?」
「お前ちゃんとした高校目指すんだったら今の会話くらい理解しろよ……」
「定時にそんな事言われても……」
「ねー、定時がまともな事言っても……ふっ」
「鼻で笑うな、ってか定時って言って馬鹿にしてる⁉︎ 全日制より定時制の方が大変だからね⁉︎」
「せめて全日制を経験してから言って下さいよ、定時先輩」
「定時先輩ww」
あーもうこいつらといると気が抜けてしょうがない。なんか真面目にしてるのが馬鹿らしく感じてくるわ。
立ち上がって机の上を片付ける。……手伝えよ。確かにそっち客だけど……なんか、手伝えよ。
「それで? もう用が済んだなら帰れ。疲れた」
「ゲーム……っ、じゃなくて来た目的は違うんでした」
「はぁ?」
一葉は顔の前で手で二個の輪っかを作った。
「眼鏡です、二週間前くらいに置いていきましたよね?」
眼鏡なしの一葉の方が見慣れすぎて、そういえばこいつ眼鏡かけてたっけと思う。むしろ今となっては眼鏡かけていると違和感さえ覚えるような気がする。
「えっと……あった、これだな」
「あ、ありが…………」
「どうした」
「……どうしてこの眼鏡埃をかぶっているんですか?」
「いやだってずっと置きっぱだったし。人の物勝手に触れるのは気がひけるし、眼鏡だからベタベタ触って指紋ついて欲しくないだろ」
「えぇ……。むしろこの状態が一番ショックですよ、せめて何か箱とかに入れてくれていても良かったんですけど」
「箱に? 何でだよ」
「え、それ聞く……埃がかぶらないようにするのもそうですけど、飲み物こぼすとか落ちるとか傷をつけないようにするための配慮とか少しはしてくれても良かったんじゃないでしょうか」
「そういうものなのか、次からそうするわ」
「次はないですよもう絶対にこの家だけには置いていきません」
なんか念を押して忘れ物はしない宣言をした後一葉はその眼鏡をかけた。
眼鏡ない方で慣れていた気がしたけど、そういえば初めて会った時はこんな感じだったな。
一葉は童顔だから眼鏡をかけると少しは大人っぽく……なってない。
うん駄目だ一葉は何をしても子供っぽさが残る。
「あれ、本当に帰っちゃうの?」
「まぁ、特にやることもないですし」
「失礼だな」
「最近京士郎が『エタナルのマルチがしてぇ〜』って煩いから相手してよ。まだ時間大丈夫なら」
「……しょうがないですねそれならやってあげないこともないですよ」
「仕方ないと言いながらも一葉の頬が綻ぶのを俺は見た。少しは隠したほうが良いぞ」
「わああ! 良いじゃないですかソロだと全然クエストが進めないんですよ、久々に物語が進むのを楽しみにしない人はいませんよ!」
一葉がしれっと充電器をコンセントに刺そうとするのを阻止しようとするもカイリに邪魔され、ついでに飲み物とジャンクフードの追加を要求された。
充電マックスのスマホを取り出すと、着信音に設定してあるボカロ曲『アドレッセントピエリオド』が盛大な音を出して、思わず耳を塞いだ。
昨日の夜使ってから音量下げんの忘れてた。俺もソロで出来ないから攻略法検索してたんだ。マルチでも、攻略を見ながらの方が楽かもな。
パソコンの電源ボタンに手を伸ばした。
「こんばんは、先輩」
俺の質問も無視されてしょうがなくドアを閉めるとそれまで談笑していたカイリと一葉が会話をやめた。
ここは俺の家で、この場所は俺の部屋。カイリは問題じゃないけど、どうして後輩がさも当たり前のように部屋の中にいるんですか。
……しかも俺が買い溜めしてあるお菓子とか普通に食っていやがる。どこまでも図々しいな。いや、自分勝手すぎるな。
「カイリ、なんでお前がここにいるんですか」
「え、私?」
「……すまん間違えた」
「酷くない⁉︎」
「一葉、バイトから帰るとそこには後輩が自分の部屋を荒らしてそれが当たり前のようにくつろいでいました。さて、おかしい部分はどこでしょう」
「何もないですね」
「即答すんな少しは考えろ」
一葉は本当に悪気を感じさせない顔で首をひねった。
いやまあね? そりゃ君は当事者じゃないから当然だろうけど、状況を置き換えれば俺が一葉のいないうちに一葉の部屋に忍び込んで部屋の中を荒らして……って想像だけでも結構危ないな、絶対にないけど。
それで彼氏でも幼馴染でもないのに、部屋の主が帰ってきても動揺せず自分がそこにいることを当たり前だと主張して……ってやっぱり俺と一葉を置き換えるとかなりカオスな状況になるんじゃ? 絶対にないけど。
俺がミニテーブルを挟んで一葉の反対側に座ると、何故かカイリも一葉側に座った。
え、何? これ俺が悪いって流れなのか?
「これ私はどこにいたらいいの?」
案の定違った。
「どこでもいい」
「わかった」
分かったと言ってどうして俺の背後から抱きつくんだよ。ベッドの上にでもいろって意味だったんだけど?
「離れろ」
「嫌で〜す」
「やめろ腕をきつくするな苦しい胸を押し付けるな」
「……先輩そういうのが好みなんですか?」
「後輩があらぬことを考えてしまうから離れろ」
なんとかカイリを俺の開店椅子に座らせてやっと話し合いの場が整った。
「……」
「……」
……なんで何も話さないんだよ。何かあるから来たんじゃないのかよ。
何もないのなら別に気を使う意味もないか。
「よし」
「はい」
「解散」
「えぇっ⁉︎」
「……何?」
「『……何?』じゃないですよ、先輩が説明してくれると思ってわざわざ来てあげたんですよ? それを何も言わないうちに解散なんて言われても困りますよ……」
「来てあげたとか言って、立派な不法侵入だろ。どうやって家に入ったんだよ」
「なんかねぇ、一葉ちゃんがインターフォン鳴らしたら京士郎のお母さんが出て、要件も聞かないうちに一葉ちゃんをこの部屋に案内してたった一言『明日帰ってくるまで自由にしててね、ナニしてもいいわよ』とだけ残して家を出て行っちゃったよ。京士郎が帰って来るまでお喋りしてた」
明日帰って来るとかナニしてもいいとかあの母親本当にふざけてるだろ。そんな事ないよただの引きこもりだよ、そんな後輩を自宅に連れ込んでナニするとかないから。
「……じゃあ何しに来たんだよ、全く見当がつかねぇ」
「一昨日の件ですよ」
エヴェレットの件か。
……あれを説明しろと? なんとなくで理解して解決したからもういいものだと思っていた。
とりあえず、うまく説明できる気はしないけど自分なりにまとめてみるか。
「そうだな…………」
あの平行世界から帰ってきた時、俺たちは全員エヴェレットに関しての記憶が無かった。他にも抜けていた情報は色々とあるけれど、主に、それだ。
俺がエヴェレットに頼らず一人で工場にむかったのも、一葉が呼ぼうとした応援がエヴェレットではなく、久茂先輩達だった事も、俺たちの記憶にエヴェレットという人物が存在していなかった証拠だ。平行世界でどうやって戦ったのかも、どこで寝泊まりしていたのか、それさえもわからなくなっていたのにも関わらず、それを不思議だとも思わなかった。
ただ、元の世界の記憶は全て同じ、変わっていた事も、抜けていた記憶も無かった。
それがどうして、思い出す事ができたのか。
理由は一つ思い当たる節がある。
俺が持ってたリンゴだ。本当は、俺のベッドの上にあったはずだったんだが、母親が勝手に冷蔵庫にしまっていたから触れる事もしなかった。
そして一昨日だ。突然母親からそのリンゴを手渡された時に、全ての記憶を思い出した。……いや、欠けていた状態だったから、正しくは補完されたって感じだな。
そのリンゴを手にするまで俺は一度たりともエヴィーの事を思い出さなかった。違和感を覚えたのはその時だ。
本当にきっかけもないし、ただ浮かんできたってだけだけど、もしかしたら、俺達が平行世界に行ってその平行世界の情報を得たとしても、元の世界に戻った時に、元の世界で俺達が知りえない記憶を持ち帰る事は出来ないんじゃないかって思った。
ああ、分かりにくいな。俺も言ってて少しわからない。
つまり、俺達がこの世界で元からエヴィーの事を知っていたら、平行世界のエヴィーの事も忘れずに帰って来られた。
重要なのはこの世界での記憶なんだ。この世界が知らない事を平行世界で知っても、この世界の俺達はまだ知らない訳だ。
この世界の俺達が知らないエヴィーの事を、接触もせず存在も認知していない、いないと仮定された謎の人物を知っているはずがないんだ。
世界は、世界間での情報のカンニングってのを許してくれないんだろう。
……ああ、そうだな。リンゴだ。なんでリンゴに触れた瞬間に接触もしていないエヴィーの事を思い出す事が出来たのか。
もうだいたい予想ついてるだろうけど、あのリンゴは俺が……そうだ、カイリとあの殺人鬼を倒した時に平行世界の『歪み』に飲み込ませたリンゴだ。
あのリンゴは元々平行世界のものだからな、この世界には存在しないものなんだよ。
それでどうして思い出す事が出来たのか。きっと、あのリンゴが平行世界とこの世界を繋ぐ情報媒体だって事だ。あのリンゴには平行世界の全ての情報が詰まっていた。
……まぁ、大きさとかがどうのって思うのはしょうがない。それに、ここにいる三人以外にこのリンゴを触らせてもきっと何も起きない。
世界間での情報の共有ってのはされてないんだろうな。情報は一方通行で逆輸入ってのは出来ないように作られてるらしい。
どうして出来ないのか……ねぇ、知らねぇ。でも、多分あれだ。どの世界もどれひとつとして同じものはないからだよ。似てるからって同じものだと錯覚してる。これも人間の悪い考え方だな。何でもかんでも人間中心に回っていると仮定している。
……それこそ、タイムパラドックスや世界は枝分かれしてるとか過去の改変は出来ないとか、人間の選択で未来が分岐する、だとか。普通に言ったら、人間中心に物事を考えたら事は円滑には進まない。
多分リンゴが無くても、この世界のどこかしらで俺達がエヴィーと少しでも接触していたら思い出してただろうな。
「……まぁ、あいつは自分から思い出させに来るような寂しがり屋でもないし、ただ徒然なるままに世界の流れを見届ける船頭みたいなものだからな」
ひとしきり喋り終わって、喉の渇きを癒す。
部屋はひどく静かになった。
目を閉じたカイリが座っている椅子を揺らして起こした。
「聞いてた? 俺の話」
「聞いてたよ、要するに記憶領域の問題なんでしょ?」
おお、なんかもっともらしい的確な表現を出されて少し驚いた。
こういう真剣なシーンでは期待通り寝てるのかと思っていた。
「いや……それでも多少は京士郎の思考が流れ込んでくるから、私もなんとなくで分かった」
ああ……確か何かしら感覚の共有みたいなのが成立してるんだっけか。
そして……。
「どうだ、分かったか?」
聞くと、一葉はいたって真面目な顔をしていた。
理解はしてもらえただろう、なら早く帰ってもらいたい。
「先輩……」
「ん?」
「さっぱり分かりません」
「お前ちゃんと人の話聞いてた⁉︎」
「いえ、聞いてはいましたけど……なんか、そういう古文的なものは私苦手で……」
「古文でもなんでもないちゃんとした現在進行形の現代語だったけども⁉︎」
「もう……良いじゃないですか帰って来られましたし、……そうだ、ゲームやりません?」
「お前ちゃんとした高校目指すんだったら今の会話くらい理解しろよ……」
「定時にそんな事言われても……」
「ねー、定時がまともな事言っても……ふっ」
「鼻で笑うな、ってか定時って言って馬鹿にしてる⁉︎ 全日制より定時制の方が大変だからね⁉︎」
「せめて全日制を経験してから言って下さいよ、定時先輩」
「定時先輩ww」
あーもうこいつらといると気が抜けてしょうがない。なんか真面目にしてるのが馬鹿らしく感じてくるわ。
立ち上がって机の上を片付ける。……手伝えよ。確かにそっち客だけど……なんか、手伝えよ。
「それで? もう用が済んだなら帰れ。疲れた」
「ゲーム……っ、じゃなくて来た目的は違うんでした」
「はぁ?」
一葉は顔の前で手で二個の輪っかを作った。
「眼鏡です、二週間前くらいに置いていきましたよね?」
眼鏡なしの一葉の方が見慣れすぎて、そういえばこいつ眼鏡かけてたっけと思う。むしろ今となっては眼鏡かけていると違和感さえ覚えるような気がする。
「えっと……あった、これだな」
「あ、ありが…………」
「どうした」
「……どうしてこの眼鏡埃をかぶっているんですか?」
「いやだってずっと置きっぱだったし。人の物勝手に触れるのは気がひけるし、眼鏡だからベタベタ触って指紋ついて欲しくないだろ」
「えぇ……。むしろこの状態が一番ショックですよ、せめて何か箱とかに入れてくれていても良かったんですけど」
「箱に? 何でだよ」
「え、それ聞く……埃がかぶらないようにするのもそうですけど、飲み物こぼすとか落ちるとか傷をつけないようにするための配慮とか少しはしてくれても良かったんじゃないでしょうか」
「そういうものなのか、次からそうするわ」
「次はないですよもう絶対にこの家だけには置いていきません」
なんか念を押して忘れ物はしない宣言をした後一葉はその眼鏡をかけた。
眼鏡ない方で慣れていた気がしたけど、そういえば初めて会った時はこんな感じだったな。
一葉は童顔だから眼鏡をかけると少しは大人っぽく……なってない。
うん駄目だ一葉は何をしても子供っぽさが残る。
「あれ、本当に帰っちゃうの?」
「まぁ、特にやることもないですし」
「失礼だな」
「最近京士郎が『エタナルのマルチがしてぇ〜』って煩いから相手してよ。まだ時間大丈夫なら」
「……しょうがないですねそれならやってあげないこともないですよ」
「仕方ないと言いながらも一葉の頬が綻ぶのを俺は見た。少しは隠したほうが良いぞ」
「わああ! 良いじゃないですかソロだと全然クエストが進めないんですよ、久々に物語が進むのを楽しみにしない人はいませんよ!」
一葉がしれっと充電器をコンセントに刺そうとするのを阻止しようとするもカイリに邪魔され、ついでに飲み物とジャンクフードの追加を要求された。
充電マックスのスマホを取り出すと、着信音に設定してあるボカロ曲『アドレッセントピエリオド』が盛大な音を出して、思わず耳を塞いだ。
昨日の夜使ってから音量下げんの忘れてた。俺もソロで出来ないから攻略法検索してたんだ。マルチでも、攻略を見ながらの方が楽かもな。
パソコンの電源ボタンに手を伸ばした。
