「……先輩……寝ちゃダメですって……駅1個分なんですから……」
「じゃあ着いたら起こしてよ……ふあぁ」
「……あと一分も無いですよ……」
眠そうに目を擦る久茂先輩と、それを阻止しようと肩を揺すって奮闘する十秋先輩が目の端に映った。
俺は座ったら眠りそうだったからあえて立っているのに。
従業員出口でカイリと会話した後、何も起こらず無事に今日のバイトが終わった。通し番だとこんなにも辛いということを初めて実感した。いや、就職したら毎日なのか、これ。
「……着きましたよ……起きてください……」
「………」
「……強制します……!」
「っ痛い! ちゃんと起きてるから! 手を離して!」
十秋先輩は耳を掴んで久茂先輩を引っ張り出した。久茂先輩に気があるのは知っているけれど、よくもまあこんな公共の場で騒げたものだ。
交差点は昨日よりも時刻が遅いせいか帰宅勢で溢れている。それも、個々の家に向かう帰路を進むたびに何時しかその道を歩いているのは自分たちだけになった。
しかし、本当に考え直してみるとどうしてこんなことになったんだろうか。
原因というか一割がた俺にも反省点はあると思うが、普通バイトの後輩の家に押しかけるなんてことまでするか?
運命共同体の様なあの二人には何を言っても通じないだろうから黙っているけど。
一応親には連絡したけれど、あんまり長居しないで欲しい。親からの返信は無いけれど、都合の悪いことがあればすぐに連絡があるはずだ。
家に着いた。
先に上がりスリッパを出した。サイズは知らないのでどちらもLにした。
すると、音で気付いたのか母親が顔を出した。
そうか、一応紹介くらいしなきゃ駄目か。母親が出てこなきゃスルーしてたけど。
「……あら、もういらっしゃったの?」
「あー、うん。バイト先の先輩。お茶とかは用意しなくていいよ、どうせすぐ帰るだろうし」
「そういうわけにはいかないでしょう。お客様にお茶を出すのはせめてもの礼儀よ?」
「そんな礼儀俺は習ったことないよ……」
「あなたに会いに来る客が今までいなかっただけでしょう」
「……うぐっ」
「……さぁさ、こんな息子のために来てくれてありがとうございます。……えっと、お名前伺っても?」
「あ……、河瀬十秋(かわせとあき)です……」
「僕は久茂暁人(くもあきひと)と申し……」
「あらそう! 河瀬さんに久茂さんね! いつも息子がお世話になっています!」
「……あ……は……はい……」
そう言って母親は十秋先輩の手は握った。
……くっそ、痛いところを抉ってきやがって。十秋先輩を見て微笑んだ後、久茂先輩を見て悲しそうな顔をしたのを俺はちゃんと見ているぞ‼︎
そろそろ親がウザく感じてきたので俺は二人を二階へと促す。
「先輩、早く終わらせましょう。……長居、出来る程家が緩くはないでしょう」
「あ……ああ。じゃあ、これで……」
「そう? 京士郎、先輩方がおかえりになる時声かけてね」
誰がかけるか。こんな面倒くさいことになるとは思わなかった。
二人を先に上がらせて俺が最後に上がる。
「……悪かったですね、会わせないほうがよかった……」
「いやいや、社会人として挨拶もせずに上がるなんて出来ないよ。……まぁ、僕の自己紹介が飛ばされたのは驚いて言葉も出なかったよ……」
「はは……帰る時は音立てないようにすればいいっすよ」
二階に上がると、何やら物音がする。
部屋の方向から「何でっ⁉︎」と悲鳴が聞こえた。
まさか、まだ隠してないのか? それはやばい、どうにかして誤魔化さないと…。
とは言ってもこの幅たった一メートル程しかない廊下で何をするんだ! それに怪しすぎるだろ!
「あれ、篠村くん。部屋は何処に……」
「あ、いやぁ! そういえば、ドアの鍵閉め忘れてたかな? ちょっと俺確認してきますよ! ちょっと待っててください!」
「え、それなら十秋が君のお母さんの相手してる時に僕が暇つぶしに閉めておいたけど」
「あ、ああそうなんですか⁉︎ ありがとうございます、うん」
やばい、もう策がない。
部屋の中からは「ああ! ここにもあるの⁉︎ こんなんじゃ隠すなんて無理だよぉ!」と大声が漏れ出してくる(もちろん俺にしか聞こえない)。どうにかして時間を稼がないと。時間を……。
すると、久茂先輩が俺の肩にポンと手を置いた。振り向くと、物凄い邪悪な笑顔で俺のしようとしていることをことごとく打ち砕く。
「……あのさ、篠村くん。見え透いた時間稼ぎはいいから、部屋、案内してくれるかな? 僕らはそれ程長居出来ないって、知ってるでしょ?」
「……はい」
十秋先輩は気付いてないみたいだったけれど、もう、覚悟を決めるしかない。潔く見せよう。羞恥心とか諸々忘れるんだ。
廊下の角を左に曲がり、何も描いてないプレートが掛かる部屋のドアの前まで来た。部屋の中からははもう物音は聞こえない。きっと俺の大声でカイリが作業を中断したのだろう。
ドアを開ける。起動状態のパソコンが暗室で光を放っている。
潔く見せるんだ。そう、まずは…………一人だけに!
「じゃあ着いたら起こしてよ……ふあぁ」
「……あと一分も無いですよ……」
眠そうに目を擦る久茂先輩と、それを阻止しようと肩を揺すって奮闘する十秋先輩が目の端に映った。
俺は座ったら眠りそうだったからあえて立っているのに。
従業員出口でカイリと会話した後、何も起こらず無事に今日のバイトが終わった。通し番だとこんなにも辛いということを初めて実感した。いや、就職したら毎日なのか、これ。
「……着きましたよ……起きてください……」
「………」
「……強制します……!」
「っ痛い! ちゃんと起きてるから! 手を離して!」
十秋先輩は耳を掴んで久茂先輩を引っ張り出した。久茂先輩に気があるのは知っているけれど、よくもまあこんな公共の場で騒げたものだ。
交差点は昨日よりも時刻が遅いせいか帰宅勢で溢れている。それも、個々の家に向かう帰路を進むたびに何時しかその道を歩いているのは自分たちだけになった。
しかし、本当に考え直してみるとどうしてこんなことになったんだろうか。
原因というか一割がた俺にも反省点はあると思うが、普通バイトの後輩の家に押しかけるなんてことまでするか?
運命共同体の様なあの二人には何を言っても通じないだろうから黙っているけど。
一応親には連絡したけれど、あんまり長居しないで欲しい。親からの返信は無いけれど、都合の悪いことがあればすぐに連絡があるはずだ。
家に着いた。
先に上がりスリッパを出した。サイズは知らないのでどちらもLにした。
すると、音で気付いたのか母親が顔を出した。
そうか、一応紹介くらいしなきゃ駄目か。母親が出てこなきゃスルーしてたけど。
「……あら、もういらっしゃったの?」
「あー、うん。バイト先の先輩。お茶とかは用意しなくていいよ、どうせすぐ帰るだろうし」
「そういうわけにはいかないでしょう。お客様にお茶を出すのはせめてもの礼儀よ?」
「そんな礼儀俺は習ったことないよ……」
「あなたに会いに来る客が今までいなかっただけでしょう」
「……うぐっ」
「……さぁさ、こんな息子のために来てくれてありがとうございます。……えっと、お名前伺っても?」
「あ……、河瀬十秋(かわせとあき)です……」
「僕は久茂暁人(くもあきひと)と申し……」
「あらそう! 河瀬さんに久茂さんね! いつも息子がお世話になっています!」
「……あ……は……はい……」
そう言って母親は十秋先輩の手は握った。
……くっそ、痛いところを抉ってきやがって。十秋先輩を見て微笑んだ後、久茂先輩を見て悲しそうな顔をしたのを俺はちゃんと見ているぞ‼︎
そろそろ親がウザく感じてきたので俺は二人を二階へと促す。
「先輩、早く終わらせましょう。……長居、出来る程家が緩くはないでしょう」
「あ……ああ。じゃあ、これで……」
「そう? 京士郎、先輩方がおかえりになる時声かけてね」
誰がかけるか。こんな面倒くさいことになるとは思わなかった。
二人を先に上がらせて俺が最後に上がる。
「……悪かったですね、会わせないほうがよかった……」
「いやいや、社会人として挨拶もせずに上がるなんて出来ないよ。……まぁ、僕の自己紹介が飛ばされたのは驚いて言葉も出なかったよ……」
「はは……帰る時は音立てないようにすればいいっすよ」
二階に上がると、何やら物音がする。
部屋の方向から「何でっ⁉︎」と悲鳴が聞こえた。
まさか、まだ隠してないのか? それはやばい、どうにかして誤魔化さないと…。
とは言ってもこの幅たった一メートル程しかない廊下で何をするんだ! それに怪しすぎるだろ!
「あれ、篠村くん。部屋は何処に……」
「あ、いやぁ! そういえば、ドアの鍵閉め忘れてたかな? ちょっと俺確認してきますよ! ちょっと待っててください!」
「え、それなら十秋が君のお母さんの相手してる時に僕が暇つぶしに閉めておいたけど」
「あ、ああそうなんですか⁉︎ ありがとうございます、うん」
やばい、もう策がない。
部屋の中からは「ああ! ここにもあるの⁉︎ こんなんじゃ隠すなんて無理だよぉ!」と大声が漏れ出してくる(もちろん俺にしか聞こえない)。どうにかして時間を稼がないと。時間を……。
すると、久茂先輩が俺の肩にポンと手を置いた。振り向くと、物凄い邪悪な笑顔で俺のしようとしていることをことごとく打ち砕く。
「……あのさ、篠村くん。見え透いた時間稼ぎはいいから、部屋、案内してくれるかな? 僕らはそれ程長居出来ないって、知ってるでしょ?」
「……はい」
十秋先輩は気付いてないみたいだったけれど、もう、覚悟を決めるしかない。潔く見せよう。羞恥心とか諸々忘れるんだ。
廊下の角を左に曲がり、何も描いてないプレートが掛かる部屋のドアの前まで来た。部屋の中からははもう物音は聞こえない。きっと俺の大声でカイリが作業を中断したのだろう。
ドアを開ける。起動状態のパソコンが暗室で光を放っている。
潔く見せるんだ。そう、まずは…………一人だけに!
