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カイリの可能世界理論(非凡の物語)
- 第六話②ー自室にてー意地悪な先輩 -

「久茂先輩! 早く入ってください!」
「え⁉︎ ちょっと待て!」

久茂先輩の手首を掴んで部屋の中へと半ば強引に引き入れる。
いきなりの出来事に十秋先輩が目を丸くしているが躊躇している暇はない。

「十秋先輩……すいません!」

速攻でドアを閉め後手に鍵をかける。
するとドアをノックする音が聞こえる。当然十秋先輩だ。

「え? ……し……篠村……くん⁉︎ 何してるの?」

ドアを叩かずにノックをするというところが実に控えめな十秋先輩らしい。
変に怒らせないように理由に久茂先輩を持ってくる。久茂先輩が絡んでくれば、きっと十秋先輩も何も言えないだろう。

「まず、久茂先輩に見てもらいます! 久茂先輩は十秋先輩の味方ですから、嘘はつかないです。だから、久茂先輩が無かったと言えば、問題はないでしょう!」
「な……何言って……というより……それを決めるのは篠村くんじゃなくて………」

何か言っているが、この際無視して開き直るとしよう。
心の中でやっと一息ついた俺に、久茂先輩が喋りかける。どうなる? やはり止めに来るか?
しかし、俺が見たのはにやけ顏の……いや、いやらしい事を考えてしかなさそうなにやけ顏の久茂先輩だった。

「何て事を……。いやいや、きっと十秋はドアの外で顔を赤くしてるよ。俺に先に見せるなんてこんな状況、後で十秋が黙っていないよ」
「それ、久茂先輩にとって好都合な状況じゃないですかね。そんな顔で何言われても真面目に受け取れませんし」
「……じゃあ早く済ませようか」

俺が椅子に座り、パソコンをいじり始める。久茂先輩は横から覗き込むような形になる。
……ってなんか手元でいじってるな。

「……なんですか、それ」
「何って、そりゃ準備さ」
「何のですか」
「何だろうね」

どうして自分の周りにはこう変人しか集まってこないのだろう。俺自身も何か言える立場ではないが、流石に画像を送ってもらう準備だというのは分かる。

「本当に何もありませんよ」
「十秋を閉め出したこの状況からだと、その言葉は信憑性が無いよ」
「少しアレな画像もありますけど、確認、お願いします」

パソコンのフォルダを大画面にして椅子を明け渡した。
早速画像をクリックする音が聞こえる。確認した限りだと、本命が入ったフォルダはカイリが隠してくれていたようだが、普通のフォルダにも何枚か保存していた事を忘れていた。もともと誰かに見せる画面では無いから、画像を整理する必要も無い。そもそも、パスワードでロックが掛かっているから見られることは無いと確信していた。
すると、ベッドに腰を掛けていたカイリが口を開いた。
俺がパソコンを明け渡すまでの一部始終を見ていたから、まず何故隠すのかを言っていなかったからこの光景に戸惑いを感じているっぽい。

「ねぇ、これ……大丈夫だったの? 隠しきれてない画像が沢山あったはずだけど…」
「あのフォルダの中身の状態については俺の責任だ。本命隠してくれただけまだ良いってことか」
「ふふ。これで少しは私がいるありがたみってものを理解してくれたじゃん?」
「……あー、えっとその評価の決定に関しては保留にしとくわ」
「ええっ⁉︎ 出来るだけのことはやったのに⁉︎」
「普段の行いだよ。悪ふざけの量と比べたら断然悪印象しか受けない」

あからさまにショックを受けるカイリ。どうやら昼間のことはもう引きずっていない様子だ。いや、俺としてはもうちょっと、いやあと半年くらい引きずって反省してくれれば良かったのに。

「……なら、普段の私の事どう思ってるわけ?」
「………」
「ねぇ」
「……何回か考え直したが、結局お前は悪霊だとしか思えない」
「……うー」

そうこうしているうちに、確認が終わったようだ。
俺は小声だったのでカイリとの会話は聞こえてないだろう。というか、十秋先輩の盗撮画像探しに躍起になっていた状態の久茂先輩の後ろでなら、普通に声を出していても大丈夫だったと思う。
振り返る久茂先輩の顔はやけにしゅんとして哀しげだ。
そして、物音を立てれば消えそうなくらい力の無い小さな声で言った。

「……篠村くん、無かったよ……」
「あー、そっすか。良かったじゃ無いですか、可愛い後輩の盗撮画像なんかなくて」
「うん……。まぁそれは良いんだよ。それより……」

正直この目を閉じていた数秒間だけは安堵していた。だが、目を開けたと途端思考が停止する。
久茂先輩は画像を指差した。そこには、何と俺がこれまでに保存したいやらしい画像の数々が羅列されている。しかも、カイリが隠してくれていたであろう本命のフォルダ達もその姿を露わにしていた。今親がこの部屋に入ってきたら確実にアウトだ。
どうしよう、笑うに笑えない。

「良い趣味だよね、篠村くんは。まさか最初のフォルダ以外に隠してあったとは、驚きだよ」
「そ、そうでしょう……あはは………」

横目でチラッとカイリを見やる。
するとカイリは隠されたものが見つけられた状況にテンパった様子で、ふるふると首を横に振った。カイリからしてもこれは予測不可能だったか。カイリがどこに隠していたかは知らないが、たまに俺のパソコンをいじっている奴の手腕はそう侮れたものでは無い。

「じゃあ、もう良いよね」
「……はい、良いっすよ……」

俺はその『良い』を部屋に十秋先輩をいれても大丈夫という意味の『良い』だと思っていた。だから、てっきり久茂先輩が十秋先輩を呼びに行くものだとばかり勘違いしていた。
よくよく画面を注視してみると、左上に書かれている文字とさっきの『良い』の言葉の意味を理解した。
まさかそんな、嘘だろ⁉︎ 俺がこれまでに貯めた画像が全て、『ごみ箱』の中にぃぃぃ!

「ちょ、ちょっと待ってくださ」
「はい、削除〜」

カチッ。カチッ。
画面から、一瞬にして色が奪われる。一瞬の後に画面は空白で満たされる。
液晶画面が驚きの白さ‼︎ なんて言っている場合ではない。俺は、文字通り目の前が真っ白になった。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁっっ‼︎」

久茂先輩は、一仕事終えた風に伸びをした。
……その腕へし折ってやろうか。
沸々と湧き上がる殺意を抑え、俺は聞いた。

「……どうして、消したんですか?」
「おおっと、篠村くん顔が怖いよ。十秋に確認させるんだったらこれくらいのことをしなきゃ。ああ見えて以外としつこいんだよ。盗撮画像が無かったとしても、そういう画像があるだけで信じてくれないから。だからこれは、善意の行動だと受け取ってほしいと思う」
「……それは……実体験ですか?」
「ああ勿論。じゃなきゃ意味もなくこんなつまらないことはしないから」
「………何が善意だ。意味も何もねぇだろうが」
「ん? 何か言ったかい?」
「……いえ、全く関係の無いことなんで」
「とりあえずこれで残ったフォルダは健全な画像しかない奴だけだよ。十秋を呼んでも?」
「……もう好きにしてください」

世界の終わりカタストロフとはこの事を言うんだろう。まさに神は存在しなかった。……もう誰も信用出来ない。これほどの悲劇がはたして他にあろうか。瞬く間に絶望が心を蝕んでいく。
十秋先輩が部屋に入ってくる。入ってきた時は怒っている顔つきだったが、ベットの上で燃え尽きて白煙をあげる俺と、パソコンの前で残念な表情を浮かべる久茂先輩を見て、頭の上にはてなマークを浮かべた。
そして久茂先輩が十秋先輩に場所を譲り、十秋先輩自身のチェックが入る。そばに寄り添って久茂先輩がそれを見守る。もう二人とも結婚しろ。
もう時間の経過も忘れ、画像を集めるまでの旅路を回想していると、十秋先輩が画面を指差して俺の名を呼ぶ。
もう何も残ってないはずだが……。
しかし画面に映っていたのは画像フォルダではなく、俺が愛用している検索サイト。十秋先輩が示すのはその検索ワード補助欄……。近くで見ると、そこには陳列されていた語句達はどれもいかがわしいものばかり……。なのに俺はその履歴の語句のどれにも見覚えが無かった。

「……篠村くん……これは……何?」
「……………」

絶句した。
何でこんなものが…。
何も言えずにいると、久茂先輩がわかっているよと言わんばかりの口調で俺に助け舟を出してくれた。

「ま、まぁ十秋。これはさすがに関係ないじゃんか。重要なのは画像フォルダで、確認もしたし一件落着で良いと思うよ、うん。ここまでくると終わりの見えないいたちごっこでもしてる気分だよ。無かったものはない。篠村くんは盗撮なんてしていなかったんだ」
「私は……篠村くんに聞いてるんです……先輩は……黙ってて下さい」
「…………あ」

今朝のカイリとの会話を思い出した。

『カイリ、もう家にお前が一人の時にテレビ見たりとか色々漁るんじゃねえぞ。この間みたいにセッコムが来たら俺の責任だから』
『分かってるよ〜。京士郎のパソコンの検索履歴にいかがわしいワード残すくらいにしとくから』
『それはもっと止めろ!』

カイリの奴! 背後を睨むがそのベッドの上にはもう誰もいなかった。
俺が逃げるとでも思ったのか十秋先輩は俺の服の裾をつかんで離さない。出来るだけの平静を保って答える。

「……篠村くん」
「そのパソコン、年が近い兄妹も使ってるんでそいつの所為だと……」

十秋先輩がジト目で俺の目を見据える。
その十秋先輩を久茂先輩が手で制する。

「十秋、もう帰ろうか。十時だし、これ以上は迷惑だよ」
「わ、分かってもらえました?」
「……分かった」
「良かったです、分かってもらえて」
「そういう……事にしておく」
「ついでに俺の言葉鵜呑みにしてもらえると更にありがたいんですが⁉︎」

意地の悪い先輩だ。
物音を立てないようにして二人は帰って行った。最後に挨拶しておきたかったと母親は残念がっていたが、母親が十秋先輩に媚を売って引きこもり息子の嫁にしようと企んでしかいないので無視して正解だった。十秋先輩にとっても俺にとっても良い迷惑だ。
どうして引きこもりの息子を持つ母親はこうも図々しいのだろう。きっと俺が年下の女子を連れて来てもああなりそうだ。俺がまだ未成年だという事を理解してほしい。どちらかがオーケーでも結局犯罪だ。
部屋に戻ってベッドに横たわると、上からカイリが覗き込んでくる。その距離が近いせいか、顔をそらしてしまう。懲りずに目を合わせてくるその蒼い瞳に俺の内側にあるドロッとした汚れが浄化されていく。出来ることならずっと見ていた……いや気持ち悪いな。妄想もここら辺にしておこう。

「ねぇ……大丈夫?」
「お前のせいで最悪だよ、……ていうかガチでやってたのな」
「こんなことになるとは思わないじゃん。……そもそも原因そっちじゃない?」
「うるせぇ……もう眠いんだよ」
「そっか、じゃあ……おやすみ」
「ああ」

部屋の明かりが消える。
途切れいく意識の中、「そう言えば、今日の昼頃に京士郎宛に電話があったよ。……君のお母さんは気付かなかったみたいだけど、バイトがあって良かったね」と声が聞こえた。
どうして電話に出なかったのが良いことなのか、相手は誰だったのか聞かなかった。

全てが終わった後で思い返せば、今日のような出来事は、まだ序の口に過ぎなかったのだ。

今回、六千字程度だったにも関わらず字数オーバーしたので、また分割しました。因みに前話は七千字ちょっとでした。字数制限一万字というのは行数にしてきっちり一万字分という事なんですね。
<2016/09/19 14:37 ソト>消しゴム
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