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ひとつ、願いが叶うなら 〜明日の記憶〜


「里咲っ、おはよ」

里咲の肩を軽く叩いた。

それに、返事は無かったけど。

「り、里咲?」

少し心配で、里咲の顔を覗き込む。

その顔は、とても暗かった。

そして、悔しさを堪えているような。

そんな、良くはない表情を浮かべた彼女は、呟くように
口を開いた。

「何で……」と。

「え?」

「海斗くんは?」

「海斗?一緒には、来てないけど…」

「一緒に来れば良かったじゃない。そして、私に仲の良さを見せ付ければ良かったじゃないっ……」

そう、知られてしまったらしい。

昨日の、夢のような、現実を。

それを知ってしまった里咲は、一度止めた足を再び
動かした。

涙を、流しながら。

私はつい彼女を追う。

「里咲っ、待って!」

「嫌っ!触らないで」

腕を掴めば、それを振り解こうと腕を激しく動かす。

「違うの、お願い、話を聞いて」

話を聞かせれば、更に彼女を怒らせるだけだった。

分かってはいるけど、そんな言葉が出てしまった。

「もう良いから!私に話し掛けないで!」

そう、泣き叫ぶように言って私の手を振り解き、走り出す
里咲。

私はそこに取り残されたように、ただ立ち尽くした。

私があの時、断れば。

それだけだったのに。

私はそれが、出来なかった。

今から海斗から離れた所で、海斗に変な心配というか、
させるだけ。

もちろん、そんなに思われてないという事も十分ある。

あり過ぎるくらい。

けど、海斗は優しいから。

人の事を、一番に考えるから。

もう、後戻りは、引き返す事は。

出来なかった。



私はこうして海斗の優しさに甘えて、言い訳して。

里咲との仲を更に悪くしようとしていた……

<2016/08/29 16:08 秋の空>消しゴム
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