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ひとつ、願いが叶うなら 〜明日の記憶〜


「海斗も良くやるよねぇ。夏休みだよ?」

公園からの帰り道、真夏の太陽に照らされながら私は
言った。

「どうせやる事もないしさ」

本当に真面目タイプの海斗くん。

私も見習わないと、とは思うんだけど。

それも結構難しくて。

「大丈夫?」

「何が?」

隣を歩く、優しい声を発した海斗に視線を向けた。

「いや、俺らこっちだから…」

「あっ、全然。大丈夫だよ。気を付けてね」

二人から軽い返事と手の振りを受け取り、私達は別れた。

「本当、好きだなぁ」

里咲が呟くように言う。

だったらさっきも渡せば良かったのに。

なんて思いながら、隣を歩く里咲を見る。

「珠希ちゃんはさ、二人とも友達みたいな感覚で接する事も、話をする事も出来るんだもんね……」

二人の事を話す時の里咲の声は、いつも少し暗かった。

「里咲だって、話し掛ければ普通に話せるよ?」

揺れる綺麗な髪の間から見える、里咲の白くて綺麗な
横顔を見ながら言った。

その言葉に、歩みを遅めて少し下を向く里咲。

「それは難しいよ。私に、あの二人に話し掛ける自信
なんて、ないよ…」

話すきっかけでも作ってあげようかな。

さっきも、少し話せそうな感じだったし。

女子達の事なんて気にしなければ良いのに。

実際私は何も言われてないし。

「あれっ…」

「里咲?」

前へと移していた視線を里咲に戻した時には、強烈な暑さが少し引き、地面に浮かぶ私達の影も薄くなった。

空を見上げれば、今にも泣き出しそうな顔。

雨、降る感じかな。

「今日、暇?」

その声と同時に、視線は再び里咲へ。

里咲も私を見て頷いた。

「ならウチで雨宿り、みたいな?して行かない?」

なんて言ったけど、ただ何となく話がしたかっただけの事。

「私は、良いけど。珠希ちゃん、大丈夫?」

「全然大丈夫。ダメなら誘わないっしょ」

「そう、だよね。珠希ちゃんは、そういう人だよね…」

本当に大人しいタイプの女の子。

それじゃあの学校の女子達には向かっていけないか。

何も言われてない私でも負けそうだもん。

あの圧には。

「あ、行こっか。降ってきたら大変」

「ごめんね…」

「気にしないで」と軽く里咲の肩を叩き、私達は家に
向かった。



家に着けば、さっきまでの天気は何だったのかと思う程に
晴れ渡る空。

里咲は「帰る」と言ったけど、私は何となく止めた。

大した理由も目的もないけど。

そんな空の下に建つこの家に、私達は居る。

その中でも、私の部屋に。

「海斗とか大希と話さないのって?ただ女子達の為に?」

「いや、為っていうか、何となく、かな…」

「そう」

自分から聞いたくせにこの反応。

あまり大きな反応されても困るだろうし、なんて心の中で勝手に言い訳してみる。

「これが、恋って、一般的には言うのかな……」

「えっ、こ、恋?」

何故か慌ててる自分。

ただ里咲がそんな気持ちになってるというのが意外って
いうのもあるんだろうけど。

何故か、慌ててる。

そんな私の事は気にせずに続ける里咲さん。

「私、海斗くんの事が好きなんだろうね」

珍しく確信ありって感じの里咲の言い方。

それに更に戸惑うというか、驚く自分。

「え、里咲、が?海斗、を?」

途切れ途切れすぎて自分でも腹が立つ。

けど、本当にビックリで。

「ずっと見ていたいって、思うの。さっき別れる時も、
何となく寂しかったしね」

寂しかったんだ。

本当、里咲には何度驚かされたか。

勝手に驚いたと言われれば、確かにそれまでなんだけど。

「海斗、好きなんだ……」

「きっとね。で、変なお願い、なんだけど……」

ミニテーブルの向こう側に座る里咲の顔を見れば、かなり真剣な顔をしていた。

私も何となく目線を合わせた方が良い気がして、テーブルを挟んだ所に座った。

「良い、かな……」

何故か凄い緊張してるけど、頷いた。

これで首を振る訳にもいかないし。

「海斗くんに、変な、事、しないで……」

その言葉の意味が分かる人はまず居ないだろう。

そう思ってるのは私だけ、かな。

「は?」

「あっ、私、帰るね。ありがとう…」

そう言って足早に部屋を去る里咲。

本当、何なんだろう。

変な事?

どんな事。

あの子、たまに変な事言い出すからね。

気分が落ち着くかも知れないと思い、温くなりかけた、
さっき貰ったばかりの飲み物を少し多めに飲んだ。

何も、変わらなかったけど。


<2016/08/28 17:18 秋の空>消しゴム
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