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ひとつ、願いが叶うなら 〜明日の記憶〜


「珠希、里咲と何があったんだよ」

その言葉には、その言葉にだけは、首を振り続けた。

何でも無い、何も無い。

そんな、意味で。

「何もない訳ないだろ。なら何で珠希も里咲も泣いてんだよ…」

本当、なんて良い人なんだろう。

それで泣いちゃいそう。

「良いから、話せよ…」

「私…」

気付けば、身体は話す気になっていた。

「何?」

優しい大希の声が、それを後押しする。

「私、海斗……」

一つの考えが浮かび、自然と言葉が止まった。

これで、海斗と付き合っただなんて言えば、海斗も巻き
込む事に。

もう、巻き込んでるのかもしれないけど。

「珠希が?海斗と、どうしたの?」

私は再び首を振った。

「俺の事は気にしなくて良いから。無理される方が、
隠される方がよっぽど辛い」

その声と共に感じる、秋の終わりに近いこの時期の寒さを消す、優しい暖かさ。

「そこまで話せたんだから。俺に話せない事じゃないだろ?変な事は気にしなくて良いから」

気付けばその言葉に頷き、海斗と付き合った事も、里咲に言われた事も、里咲との、今の関係も。

全て話していた。

途中、海斗の力も借りながら。

そして、最後に大希が言った言葉は、とても意外なもの
だった。

「ありがとう」と、お礼の一言。

「大希?何で?」

「話してくれたから。全部」

「本当、ごめんね……」

泣きながら言えば、大希はそっと頭を撫でてくれた。

「海斗が優しくて良かったよな」

「え?」

「彼氏の前でこんな事したら許されねぇだろ」

「許さないけど」

「えっ……」

「ハハッ、冗談冗談。分かってよ」

そう言って大希の背中を何度か叩く海斗。

それに、私も笑ってた。

こんな場面を、里咲が見たらどう思うだろうか。

大好きな人を取られた、彼女が見たら。

「よしっ、教室行くべっ」

「大希、本当になまってるよね」

「これくらい普通だべ。標・準・語っ」

そんな気は全くしない。

まぁ、確かにこの辺の人からしたら標準語なんだろうけどさ。



私達は教室へ。

そこに、里咲の姿は、なかった。

「里咲、どこ行ったんだろうな……」

大希が珍しく心配してる。

結構、本気で。

大希、私の傍から居なくなるのかな。

人の好きな人と付き合ったくせに、それに怯える私。

本当、どこまで嫌な人なんだか。

「先生に呼ばれてたり、色々あるじゃん?大丈夫だよ」

海斗の優しい声。

私はこの声が大好きだった。

今も、好きだけど。

「そう、だよな……」

とは言葉では言っても、やっぱり心配そうな大希。


<2016/08/29 21:56 秋の空>消しゴム
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