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ひとつ、願いが叶うなら 〜明日の記憶〜


「なぁ」

暗めの大希の声が休日の賑やかな公園で呟く。

そちらに視線を向ければ、大希の表情も暗かった。

「あの日、海斗言ってたよな」

「何を?」

「『最後まで、何もしてあげられない』って」

そう言えば。

あれってどういう意味だったんだろう。

まだまだ卒業まではあるのに。

最後って、何が?

「俺さ、あの言葉の意味、分かったわ」

「そうなの?」

大希は頷き、続けるように悲しい言葉を発した。

「海斗、引っ越すらしいわ」

「えっ、いや、何でそんな、急に?」

「何でも、家の事情、みたいな感じらしいわ」

「そうなんだ」と認めるしかなかった。

どんなに否定しても、悲しんでも。

何も変わらないんだから。

そして、大好きな、大切な海斗が決めた事。

「でも、必ず帰って来る、そう言ってた」

「いつになるの?」

「それは、あいつも分かんないらしい」

爽やかな春の公園のベンチに座る私達の間に、重苦しい
空気が漂う。

「引っ越すって、場所は?」

「怖えし。付いてく〜、みたいな?」

「バカ。この辺なのか、結構遠くに行っちゃうのか。それくらい聞けたでしょ?」

「あぁ。都内の方に行くらしい」

「はあ!?」

かなり遠い。

そりゃ、最後とか言いたくもなるよね。

とりあえず同じ関東ではあるけど。

いや、遠い。

「ハハッ、俺も超ビビった」

「え、いつ行くの?」

「来週の、金曜日らしい」

何でまた金曜日チョイス。

「休む」

大希の驚いた視線が向けられる。

「当たり前でしょ?嫌だよ、最後くらい、全部言いたいよ。傍に居たいって、大好きだよって……」

「何もう会えねぇみてぇな事言ってんだよ」

「だって……」

海斗、必ず、帰って来てね。

いつまでも、待ってるから。

涙は、望んでもいないのにどんどん溢れていく。

そんな私の頭を、そっと撫でる一つの手。

振り返れば、涙を堪えたような顔の里咲が居た。

「なん、で……」

「大希くんに呼ばれて」

そう言う里咲の声は、いつも通りだった。

今まで通りだった。

少し前までの、変な空気や雰囲気は全くない。

「り、さ……」

「大丈夫だよ。海斗くんでしょ?珠希の好きな人だもん。
珠希の彼氏だもん。私の、好きな人でもあるし」

今なら、言える気がした。

「里咲、ごめんね」

「私こそ。珠希が、羨ましくてしょうがなかったの」

気付けばベンチから立ち、里咲に抱きついていた。

バカじゃねぇの、という大希の声を浴びながら。

「りさぁ〜」

「みきぃ〜」

こうしたかったんだ。

ずっと。

こうして、仲良く話す事をずっと願ったんだ。

やっぱり海斗と大希は凄い力を持ってるね。

もう二度と、仲直りなんて出来ないと思ってた。

けど二人は、それを叶えた。


<2016/08/30 12:08 秋の空>消しゴム
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